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人前で字を書くと異常に震える… 「書痙」は“書く”ことへの恐怖症

2018-06-12 18:30:02


執筆:吉村 佑奈(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
「書痙(しょけい)」という疾患をご存知でしょうか。
聞きなれない名前ですが、症状を知ると誰しも似たような経験をお持ちかもしれません。
文筆家、教師、速記者など、文字を書くことが多い職業に多く発生するという説もあります。
一般的な動作には障害がないのに、字を書くときに限って筋肉の緊張が手に起こり、震えや強ばりが生じて文字を書く行為が困難になります。
かつては心因性とみなされていましたが、最近では「ジストニア」という病気が原因であることがわかってきました。
さらに詳しく解説していきます。

書痙の症状:手の震えや強ばり


「書痙」になると、ふだんの動作に何ら支障がないのに、人前で字を書こうとする場面で手が震え、筋肉の強い緊張や強ばりなどによって文字が書けなくなります。
たとえば、結婚式やお葬式で記帳する、ホテルの受付で宿泊カードを記入する、宅急便の受取りサインをする…などのシーン。
また、宴会でお酒を注ぐときや乾杯の時にコップが震える、といった例もあり、こちらは書痙ならぬ「茶痙」ともいわれます。
さらに転じて、人前でパソコンの入力ができない、ピアノの発表会で鍵盤がたたけない、料理教室で手が震える、大勢の前で話すと頬がピクピク痙攣する、手が強ばるあるいは脱力して細かい手仕事がままならない、などの症状もあります。
総じて「人前で震えが悪化するタイプ」と「一人でいるときでも強ばりが発症するタイプ」に分けられると専門医はいいます。

精神的な要因(心因性)による書痙


極度のあがり症や社交不安障害を抱えている場合、他人に見られることを過剰に意識してしまって書痙が出現する人がいます。
強い緊張感や文字を書く行為への劣等感などが原因となります。
「人前で震えが悪化するタイプ」にはこのケースが多いとされています。
不安障害の一症状ですから、心理療法や抗不安薬の処方などが主な治療法となります。

ジストニアによる書痙


身体が意思とは関係なく動いてしまう「不随意運動」
無意識に筋肉がこわばってしまう不随意運動のひとつが「ジストニア」です。
「一人でリラックスしているときでもこわばりが発症するタイプ」の書痙は、このジストニアであると考えられています。
全身性のものと局所性のものとがありますが、書痙は「局所性ジストニア」に分類されています。
ジストニアは脳内の神経に起こる変調に原因があるとされ、その変調は次の理由で起こると考えられています。

遺伝性


全身性ジストニアに発展しやすく、全国に5,000人ほどの患者がいるといわれます。
しかし、病因となる遺伝子や病態についてはまだ解明されていないことも多いようです。

職業性


同じ動作や姿勢を反復的かつ高頻度で繰り返すことにより、脳神経に何らかの影響を及ぼして起こる脳の変調と考えられています。局所性ジストニアに多いといわれます。
音楽家、文筆業、アスリートなどによく見られるため「職業性ジストニア」とも呼ばれています。
コブクロの小渕さんは「発声時頸部ジストニア」を発症しました。
1年にも及ぶ治療とリハビリを成功させ、復活して活躍されている例は有名です。

脳障害の後遺症


脳卒中、脳炎、脳梗塞などの脳の疾患の後遺症として、ジストニア運動を引き起こすことがわかっています。

薬の副作用


抗精神病薬、抗パーキンソン病薬などの副作用として、ジストニア運動が出現することがあります。

書痙の治療


一口に書痙といっても、上述のようにどのタイプの書痙であるかによって治療や対処方法は違ってきます。
診断には正確な見極めが求められますので、まずは神経内科や心療内科といった専門医に相談することが大切です。
その上で、現在大きく分けると次の4つの治療法が施されています。

精神療法


不安障害やストレス性疾患からくる書痙には効果的とされています。

薬物療法


抗コリン剤、抗うつ薬、抗精神病薬、抗不安薬などが心因性の書痙には適用されるでしょう。

ボツリヌス治療


前腕の手の筋肉にボツリヌス毒素を注射して、緊張した筋肉をマヒさせ筋弛緩を目的とする薬物療法です。

定位脳手術(手術療法)


局所麻酔で前頭部に穴をあけ、脳の患部を熱して凝固させる手術。
10日程度で退院可能といわれています。
書痙は、ジストニアの立場からみると職業病のような一面もあります。
その道の専門家に起こる、脳の機能変調としての不随意運動だからです。
一方、不安障害もまじめな人に発症しやすく、細かくてきちんとしなければ気が済まない「完璧主義」がさまざまな症状につながります。
もちろん適切な治療も必要ですが、どちらにも共通しているのは「リラックス」と「あそび」を人生に取り込もう、ということではないかと筆者は考えます。
<執筆者プロフィール>
吉村 佑奈(よしむら・ゆうな)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。某病院での看護業務を経て、現在は産業保健(働く人の健康管理)を担当
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供

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情報提供元: mocosuku

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