石破内閣の手による初めての経済対策がまとまりました。昨年を上回る規模の非常に大きな経済対策にも関わらず、政治と世論の関心は、国民民主党が問題提起した、いわゆる「103万円の壁」に集中。その分、経済対策の目的や効果をめぐる議論は深まりませんでした。
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真水13.9兆円、昨年上回る大規模経済対策
政府は22日、デフレ完全脱却や物価高対策を盛り込んだ総合経済対策を閣議決定しました。事業規模は39兆円、国の一般会計からの財政支出、いわゆる真水が13.9兆円と、いずれも昨年度の経済対策を上回る大規模なものです。
就任したての石破総理大臣が、総選挙を前に早々と「昨年の規模を上回る経済対策を」と宣言し、まず「規模ありき」が決まりました。機先を制した総理発言に、財務省幹部は、「総理発言も踏まえながら検討していきたい」と苦虫をかみつぶした表情でした。
そもそも、この1年の間に日銀が2回の利上げを行い、物価も景気も「オントラック(想定通り)」として、更なる利上げさえうかがっている中で、昨年度を上回るような大きな対策が本当に必要なのかという議論は、全く「素通り」した形です。
電気・ガス代補助、縮小して再開
総選挙を通じて与野党問わず訴えていた電気・ガス代補助は、来年1月に再開し、3月まで続けることになりました。しかし、補助額は電気で1月、2月が1kWhあたり2.5円、3月が1.3円です。岸田内閣が酷暑対策として復活した補助が、8、9月が4.0円、10月が2.5円だったことと比べれば、今回はかなりの「ケチ」ぶりです。
早く辞めたいのは山々だが選挙公約に入っていたから仕方なく再開、という本音が、見え見えです。思い切った物価高対策をという気概もなければ、もっと良い家計支援の方法を考えようという新味も全くありません。
年内までと決まっていたガソリン代の補助についても、延長が決まりましたが、目標価格はこれまでの1リットル175円から、1リットル185円程度に、あっさり引き上げられました。こうした物価高対策に石破総理やその周辺が積極的にリーダーシップをとった形跡は全くありません。
低所得世帯に給付金3万円
物価高対策のもう1つの柱は、低所得者向けに給付金3万円を支給することです。子育て世帯の場合は、子ども1人あたり2万円を加算します。ただ、「低所得者」の規定には、これまで同様、「住民税非課税世帯」が用いられることがあっさり決まりました。
住民税非課税世帯は、もちろんフローの所得は低い世帯なのですが、その4分の3が年金所得に依存する高齢者世帯で、所得は低くても貯蓄など資産を持っている高齢者もそれなりに含まれています。家計支援が必要なのは、むしろ税金や社会保険料を納めているけれど、所得が低く生活が苦しい「働く世帯」なのではないか、という重要な論点は、今回も事実上フタをされました。住民税非課税世帯以外にまで広げると、線引きが難しく、財政支出が膨らみ、自治体の負担も増えるからです。
ガソリンや電気ガスの補助には、これまで11兆円を使いました。所得の高い層や企業にまで、こうした一律の補助を出し続ける必要が本当にあったでしょうか。11兆円もあれば、物価高の影響が大きかった低所得世帯に、もっと直接的な家計支援ができたのではないかと思わざるを得ません。今回も、そうした議論には発展しませんでした。
103万円の壁などは来年度税制改正で議論
国民民主党の「手取りを増やす」というキャッチフレーズが魅力的に見えるのは、上述のような経済対策の限界を多くの人が感じ取っているからでしょう。国民民主党が最重要課題とする「103万円の壁」解消と、ガソリン減税については、今回の経済対策(今年度補正予算)ではなく、来月中旬にかけて行われる来年度の税制改正の議論の中で、具体的な結論を出すことになりました。
「103万円の壁」については、自公国の3党合意に「引き上げる」と明記したので、今後引き上げ幅や財源など、制度設計の具体的な議論が進むことになります。その内容によっては、それなりの所得税減税が実現することになりますので、来年度以降、経済対策としての効果も期待できるかもしれません。
石破政権の経済政策の軸とは?
このほか、今回の経済対策には、岸田政権からの引継ぎ事項でもある、半導体やAI(人工知能)産業への10兆円を超える支援策が盛り込まれた他、能登半島地震・豪雨被害の復興、さらには石破総理のかねての主張である「避難所の環境改善」といった防災・減災対策も入っています。
選挙結果や前例を踏襲しながら、補助額もケチりつつ、石破政権らしさも多少まぶして、まとまった今回の経済対策。政権基盤の弱い石破政権の下では、霞が関の官僚たちによる舞台回しの力が相対的に強まっているように見えます。その分、石破政権の理念やこだわりは、なかなか見えてきません。新政権として初の、しかも大規模な経済対策なのに、です。
確かに、政治の世界の関心は、目先の経済対策よりも、「103万円の壁」に代表される、国民民主党との折り合いのつけ方に移っています。この先、来年度の税制改正や予算をめぐる、いわば本丸の議論で、石破総理のめざす経済の姿が改めて問われることになるでしょう。
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