
北米市場が売り上げの7割を超える自動車メーカーの『スバル』は、トランプ関税の大きな影響を受けている。向かい風の中、大崎篤社長(62)が見据える“勝ち筋”とは?
【写真を見る】トランプ関税で「減益1000億円超」のスバル…逆境からの“勝ち筋”は「需要への柔軟性」
加速・燃費大幅向上「ストロングハイブリッド」
12月4日、自動車評論家らが年間を通じて最も優秀な1台を決める「日本カー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた、スバルの「フォレスター」。
審査員から高く評価されたのが、フォレスターが採用した「ストロングハイブリッド」だ。
スバル独自技術の▼水平対向エンジン(⇒低重心・安定性)と▼シンメトリカルAWD(4輪駆動システム⇒悪路走破性◎)に、提携するトヨタ自動車の▼ハイブリッドシステムを取り入れて開発。
それまでの「マイルドハイブリッド」に比べ、高出力のモーターを搭載したことで“加速性能と燃費性能が大幅に向上”しているという。
ストロングハイブリッドを開発『スバル』技術本部・瀬田 至副本部長:
「最適なレイアウトパッケージによって、燃料タンクを大きくすることで“燃費がマイルドハイブリッドに比べて1.2倍、航続距離が1.5倍”になっている」
ストロングハイブリッドは人気車種の「フォレスター」と「クロストレック」で採用され、フォレスターは発売後の1か月で受注1万1466台と、当初計画(2400台)の4倍以上を記録する大ヒットとなっている。
フォレスターを購入した客:
「伊豆に2泊で行ってトータル700キロ走った。びっくりした。全然ガソリン減っていないって」
クロストレックを購入した客:
「加速がスッていく感じが乗っていて楽しくて気持ちいい。販売店にきて試乗して、その日の晩に契約のハンコついちゃった」
トランプ関税で「利益を半分失っている」
スバルの車を選ぶ人が口にするのは、走行性能の良さだけではない。
「“安全性能が高い”というのは安心材料の1つ」
「絶対これがいいっていうのは“アイサイト”。おすすめ」
スバル独自の「アイサイト」は、3つのカメラとレーダーが障害物を認識して“衝突回避をサポート”。
「走る愉しさ」と「安全性」
この2つの武器で、スバルは日本だけでなく北米でも多くのファンを獲得してきた。
しかし、11月に発表された中間決算では、販売台数が増えているのにも関わらず、営業利益が大幅マイナスとなった。
<スバル業績 2025年4月~9月>
▼売上収益:2兆3857億円(前年同期比+1195億円)
▼販売台数:47万3000台(同+2万3000台)
▼営業利益:1027億円(同-1193億円)
『スバル』大崎篤社長:
「2024年通期で営業利益4000億円以上を稼ぎ出すことができていたのが、今回の見通しだと2000億円なので、“半分くらい主に関税影響で失っている”」
現地生産増や価格転嫁「なかなか難しい」
北米市場が売り上げの7割を超えるスバルには、トランプ関税が大きな負担となっている。
▼世界販売のうち「71%」がアメリカ市場(※24年小売台数)
▼車種はSUV(多目的スポーツ車)が「83%」(※24年3月期小売台数)
――これまでは「アメリカ・SUV」という“選択と集中”が功を奏したのだと思うが、今回のようにいきなり関税が来ると逆風に。今後は現地生産の拡大も考えているのか
『スバル』大崎篤社長:
「7割をアメリカの市場で販売しているが、このうちの半分は現地生産、もう半分は日本からの輸出。半々にしているのは、非常に変動要素として大きい為替のリスクを回避するためだが、新たに関税という変動要素が入ってきた。単純に考えるとアメリカでの現地生産を増やすことが常套手段になるのだろうが、我々OEM単独ではなかなか簡単には結論が出せない。やはり支えてくれるサプライヤーの皆さんと一緒になって、どうやっていくかをまさに今検討してる最中」
――利益の半分を失う、言い換えれば関税分を相当かぶって売ったということ。関税分を価格転嫁する動きを強めることになるのか
大崎社長:
「市場の中で他社と競争しているので、関税がかかったからと簡単に価格を変えるのは難しい。常日頃から商品のバリューにふさわしい価格を常に見ながら適正化を図ってきているが、これは今後もしっかりやっていきたい。それ以外で、例えば原価を下げるとか、販売台数を拡大していくとか、新車以外のバリューチェーン収益を大きくしていくとか様々な手で、関税分を打ち返していくことをしっかりやっていく」
巻き返し戦略は「ブランド力の強化」
“トランプ関税”という逆風の中、巻き返し戦略の1つとしてスバルが打ち出しているのが「ブランド力の強化」だ。
10月のジャパンモビリティショーでは「ブランド力の強化」を象徴する電気自動車とエンジン車のコンセプトカーがそれぞれ発表された。
大崎社長:(ジャパンモビリティショーにて)
「スバルは安心安全の基盤技術を土台に、パフォーマンスシーンとアドベンチャーシーンの愉しさを盛り上げ、ファンの皆様との絆や共感を強めて“ブランドをさらに際立たせていく”」
「電動化戦略」変更…今後は?
また、自動車業界全体で「EVシフトの減速感」が言われているが、スバルも計画を修正。
従来1.5兆円としていた「電動化投資」のうち未着手の1.2兆円分を見直し、EV中心から“ハイブリッドや次世代ICE(エンジン)車を中心としたラインアップの大幅拡充”へと舵を切っている。
『スバル』大崎篤社長:
「カーボンニュートラル社会を実現するための最終的な解は、やはりバッテリーEVだろうと思う。ただアメリカでは政権が変わって、バッテリーEVの購入補助など様々な政策が撤廃されたり、環境規制も撤廃されるような状況なので、少しバッテリーEVの需要がスローダウンしている。とすると、その間を何で埋めていくかというと、やはり内燃機関を中心としたエンジン商品。投資の中身もそういう形に見直した」
――ハイブリッドもEVもとなると、なかなか大変
大崎社長:
「本当に大変。ここ2年間でバッテリーEVの開発にかなり多くのリソースをつぎ込んできたが、未知の領域だし、これまでのエンジンの開発とは全く違う開発手法になる。そういったことを色々とやりながら、短い開発期間でたくさんの車種を共用化しながらできる準備をやってきた。だからこそ、たくさんの車種を拡充できる力がつけられたので、今後も“柔軟に対応していこう”と新たな戦略を作ったということ」
――水平対向エンジンがないスバル車はちょっとイメージしにくい。EVではどういう部分で強みが出せるのか
大崎社長:
「実はバッテリーEVになってもスバルらしさは出していけると思っている。水平対向エンジンは重心を低くすることできるが、バッテリーEVでもバッテリーをどれだけ低く配置できるかによって低重心は実現できる。我々の最大の売りの安全性能はバッテリーEVになっても全然変わらないし、ましてやバッテリーEVになると、車両の重量が重くなるので万が一衝突したときのエネルギーは大きい。なおさら安全性能が大きな強みになる」
“勝ち筋”は「需要への柔軟な対応」
“市場の需要に合わせて”作り分けていくー
その戦略のキーワードとなるのが「柔軟性の追求」だという。
▼統合制御システムやプラットフォームをEVとエンジン車で「共通化」
▼1つの生産ラインでEVとエンジン車の「混流生産」
▼需要変動に柔軟に対応できる日米「ブリッジ生産」
『スバル』大崎篤社長:
「アイサイトを中心として<走る・曲がる・止まる>が我々の強みなので、この2年間、ここの部分の統合制御システムというのを作った。それからプラットフォームもエンジン車とEV車とできるだけ共用をして開発を進めてきた。それによって一つの生産ラインでEVとエンジン車と混流できる仕組みも作ってきた。さらには、同じ車種を日本と米国で両方流せるブリッジ生産という仕組みも持っているので、需要に柔軟に対応できる。“これらの柔軟性が、我々のような小さい規模のOEMの勝ち筋”」
――柔軟性を確保することでコスト構造に強い体質にしていきたいと。スバルがキラリと光る存在であり続けるために、今は何を求めているのか
大崎社長:
「やはり“ブランドをいかに磨いていくか”。まずは商品を技術的に際立たせることも大事だし、<パフォーマンス><アドベンチャー>と二つの柱を立てて、様々なお客様に支持してもらえるようにしたりと、全体のスバルのブランドを上げていく。そういう取り組みをやっている」
(BS-TBS『Bizスクエア』2025年12月6日放送より)
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