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30代夫婦にオススメ!『わたしは、幸福(フェリシテ)』

2017-12-15 12:00:00

ぼくなりに、30代夫婦にオススメの映画とはいったい何だろうと考えました。ちょっとしたラブストーリーで、観たら倦怠気味の夫婦仲が上手くいくような映画も良いでしょう。

しかし、30代夫婦にはもっとパンチ力のある現実を、それでいて酸いも甘いも超えていく躍動的な感情を体感してほしいと考えました。

よって今回は、ほっこりラブストーリーではなく、より骨太で猥雑な生命力についての映画『わたしは、幸福(フェリシテ)』をご紹介します。

『わたしは、幸福(フェリシテ)』

本作は、ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞し、FESPACO(全アフリカ映画祭)でグランプリを受賞した、アフリカのコンゴを舞台にしたあるシングルマザーの物語です。

アフリカを舞台にした映画というのは、これまで映画史でもたくさん描かれてきました。壮大なジャングルを描いたものや、難民の実態を描いたもの、きみの瞳に乾杯な名作など、アフリカが持つ多様な面を象徴するかのように多岐にわたります。

しかし、この『わたしは、幸福(フェリシテ)』はそれらの映画とは全く違うものです。そしてどの映画よりも、アフリカのリアルな日常生活を、エネルギーと静謐さを対比させながら感じる劇映画に仕上がっているといえます。

主人公のフェリシテは、コンゴの首都キンシャサのバーでバンドをバックに従えて歌うシンガーとして生計を立てています。シングルマザーの彼女には一人息子がいて、ふたりで貧しいながらも楽しく暮らしています。

しかし、そんなある日、大切な一人息子が交通事故にあい、足に大けがを負ってしまいます。緊急入院した彼の足を切断せずに治療するには手術が必要で、それには前金が必要だと言われてしまいます。そんな現金を持っていない彼女は、どうにかして息子のために、手あたり次第、金策に走ることになります。

この映画が描いたものの一つの側面は、ある家族の日常に起きた悲劇です。貧しい暮らしの中で急遽大金が必要になった彼女は、お金を貸している相手や、過去に突き放して別れた夫のもとなどを駆けずり回って事情を説明して金策に回ります。

しかし、彼女が生きている現実は甘くはなく、思うようにお金を集めることができません。そうしているうちに刻一刻と手術のリミットが迫ってくるのです。その絶望の中、彼女は頼みの綱の歌を失ってしまいます。フェリシテとは幸福の意。一度死んでよみがえったという経験からその名を与えられた彼女を、皮肉にもその名とは真逆の、いかんともしがたい苦しみが覆いつくすのです。

しかし、この映画は別の側面を持っています。それは愛です。にっちもさっちもいかない苦しい状況の彼女を救おうと、バーの常連の遊び人、タブーが壊れた冷蔵庫を直しに、家に入り浸ります。彼はフェリシテに惚れていて、彼女の役に立とうと、彼なりに奮闘するのです。

勝手に家族の中に入り込んできて、うざったいように見える彼の存在は、いつしか不幸に見舞われた彼女たちに向けて、力強く静かな愛の音を奏ではじめます。それもまた、フェリシテ(幸福)の名を持つ彼女の身に起こる人生の一面なのです。

つまり、本作が描いているのは、悲喜こもごもが突然現れては消えていく、アフリカにおける日常の真の姿。本作が見せつけるアフリカのリアリティは、外国起因の大きな事件に巻き込まれた悲劇の姿だけではありません。人が、音楽が、砂ぼこりが、神秘が、強欲が、猥雑が、残酷が、そして愛が、膨大なエネルギーの奔流となって充満し、そこにある生活をしなやかに震わせ、根付かせるのです。

冒頭、バーで演奏が始まり、ステージに上がって歌い上げるフェリシテの姿は、ほかのどのアフリカ映画よりも強烈な熱量をもって、観客の心を突き動かすでしょう。これこそがアフリカの姿だといわんばかりに。

退屈な日常に慣れてしまった30代夫婦にこそ、是非このアフリカの真の姿を体感していただきたいのです。


『わたしは、幸福(フェリシテ)』
12月16日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
(C) ANDOLFI ‐ GRANIT FILMS - CINEKAP - NEED PRODUCTIONS - KATUH STUDIO - SCHORTCUT FILMS / 2017


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情報提供元: michill (ミチル)

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