「熟年離婚」が止まらない? 熟年してからあえて別れる理由
2016-12-03 18:30:37
執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
長年、結婚生活をつづけ、子どもが自立したり夫が定年を迎えたことを契機に起こりやすい「熟年離婚」。
結婚生活の長さは、誰にも切れない強い絆を夫婦に結ばせることに必ずしもなっていないようです。
妻から切り出されることが多いという熟年離婚。何がその理由なのでしょうか。
詳しく探っていきたいと思います。
熟年離婚の実数
厚生労働省の人口動態統計(2015)を見ると、離婚件数は総数225,000組で、離婚率(人口千対)は、1.80となっています。
離婚率は2000年になってから長らく2.0以上だったのが、2010年以降減少傾向で現在に至っています。
ところが同居期間別の離婚率に着目すると、同居期間が25年を越える「長年連れ添った」夫婦の離婚率が上昇しています。これが、熟年離婚が増えていることの根拠となる数値です。
ただし年齢別にみると、20~24歳の若い夫婦の離婚率がダントツに高く(47.05)、55歳以上になると全体の離婚率1.80よりも低い数値となっています。
熟年離婚は増えてはいるが、まだそんなに多いとは言えないということでしょう。
2008年の統計では、全体の離婚数251,136組に対して30年以上連れ添った熟年離婚数は11,314組(4.5%)でした。
熟年離婚のきっかけ:子どもが自立した時
熟年離婚の多くは、子どもが成人したり、大学などを卒業して、自立に踏み切ったタイミングで決断されることが多いようです。
子どもが育ち盛りだと学費や養育費など、お金の問題が厄介だからでしょうか。
日本の場合、離婚後は母親が親権をもつことが多く、父親から十分な養育費が支払われなくて、貧困に陥るリスクが高まると言われています。そこで、金銭的なリスクが低くなる「子どもの自立期」まで、離婚が先送りされるという次第です。
それでも、財産分与など金銭的な問題がなくなるわけではありません。
共有財産の分割や慰謝料、年金の問題などがあっても、離婚を選択するほどに夫婦仲はなっているということですね。
熟年離婚後はどうなるの?
男性の場合は経済的な問題は少ないようですが、料理や家事に困って、健康を害したり、孤独になったりする例が散見されます。
そのせいか、平均寿命も約10歳短くなるという見解もあるそうです。
家事・育児の類を全部、妻に任せっきりだったような男性は、えてしてこうした末路が待っています。熟年離婚を希望するなら、離婚前から生活上の自律を心がけなければなりません。
一方の女性の場合、金銭問題が小さくありません。
ことに専業主婦でそれまで働いていなかった場合など、離婚後の経済生活の準備をしておく必要があります。離婚後再婚する場合も、新しいパートナーの子どもたちと、金銭トラブルに陥ることもあるでしょう。
熟年離婚の理由
妻から切り出されることが多いと言われる熟年離婚。その理由はさまざまでしょうが、よく挙げられる理由は次のようなものです。
価値観の違い
何が大切か、つまらないかといった価値観が、以前から食い違っていたが、もう我慢の限界に来たというような場合です。
姑との関係
これまで姑とうまくいかず、さらに、そんな姑の介護問題も出てきたタイミングです。
浪費・借金
夫がパチンコや競馬などのギャンブル、飲み会や遊びにうつつを抜かして家庭を顧みないといったことに嫌気がさし、限界に来てしまう場合です。
精神的・肉体的虐待
暴力や暴言などを言われ続ける。また、夫のそんな性向がアルコール依存症に陥っているなどで、妻もこれ以上の同居は自分自身もダメになると、離婚を決意するような場合です。
浮気・不倫
過去から続いている浮気や不倫を、これまでは我慢してきたが、この時期にハッキリと決着をつけるといった場合です。
熟年離婚:嫌いだから別れるの?
若いカップルで大恋愛の末の結婚ともなると、好き嫌いの感情が離婚の理由になることも多いかもしれません。
しかし熟年離婚の場合、長年連れ添うことで嫌というほど上に挙げたような苦労も経験し、お互いのよいところも悪いところも見てきています。ですので、若い時のように、嫌いだから別れるというのは、当人たちの実感に合わないかもしれません。
「心的飽和」という心理学用語があります。
これは、単調でずっとやり続けなければならない作業などで、最初はモティベーションが高くても、単調で長時間であるがゆえに、そのうち必ず「飽き」がきてしまいます。
それでも、我慢して作業を続けるのですが、その内に作業を放棄せざるを得ない、あるいはモティベーションそのものが消失してしまう、という心理現象を指しています。
熟年離婚の場合、多くの妻はこの「心的飽和」に陥るだろうことと、さらに昨今の長寿化によってもう一度自分の人生を取り戻したいと、新たな人生にモティベーションがシフトしていく、というのが実態なのかもしれません。
<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長
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情報提供元: mocosuku