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子育て時に発見した“自分の毒” 「毒親」からの影響

2016-12-25 21:30:33


執筆:玉井 仁(臨床心理士)
明確な虐待を加えるわけではないものの、価値観や規範を押しつけることによって、子供を精神的に苦しめてしまう親。
いわば、自分の子供に対してモラルハラスメント(モラハラ)を働く親。
最近では、そうした親を指して「毒親」と呼びます。
ここでは実際のカウンセリングの事例から、“30代になって自分が毒親に苦しめられてきたことに気づいた”という女性の事例を紹介しましょう。

「うまくいかない」ことの背景にあるもの


30代のサチコさん(仮名)は子育てに悩んでいました。
一生懸命あやしているのに、泣きやまない子供。その子供にいら立ちをぶつけてしまう自分。そういう自分を許せないという罪悪感──
そんな思考の悪循環に陥り、精神的に追い込まれていったのです。
仕事で頑張っている夫には、恥ずかしい、申し訳ないという気持ちが先に立ち、相談できずにいました。病院で相談しても、「お母さんが余裕を持ってあげてね」と言われるだけ。
このままではうつになってしまう…
そう考えたサチコさんは、カウンセラーである友人に相談しました。その友人に「子供が泣き止まないと、何か問題なの?」と言われてハッとしたと言います。

自分の中に形成されてきた「毒」の存在に気づく


考えてみれば子供が泣くのは当たり前で、思い詰めるようなことではありません。
なぜ自分はそういう風に考えられなかったのだろうか?
サチコさんはカウンセリングを受け、色々と考えていく中で「自分は周囲の人が笑っていないと耐えられないのだ」ということに気づきました。
子供が泣いているのに何もできない自分にもいら立ち、「どうしようもなく拒絶されたように感じてしまった」とサチコさんは言います。
どうしてだろう。思えば、子供の頃から「嫌なことがあっても大丈夫」という考え方はしてこなかった。だから、子供が泣くこと(=嫌なこと)に対処できない自分を責め、苦さでいっぱいになってしまうのだと。

規範に従えない自分が悪いという思い込み


サチコさんは自分の両親を優しいと思ってきたし、嫌なこともないと思ってきました。
しかし、よく思い出してみると、(1)「他人に優しくない人はダメ」、(2)「問題解決がうまくいかなくても相手に優しくすることですべて解決する」という教えが最重要の規範でした。
「その考え方自体は異常ではないかもしれません。でも、その教えを守るために、私は過剰にがんばってきた気がします。何か問題があった時は、私が優しくすることで解決すると思い込んできたんです」とサチコさんは言います。
「実は小学生の時、それほど深刻ではありませんが、いじめにあった時期があったんです。何かの話の流れで母がそのことに気づいた時に、『サチコちゃんがその子に優しくしてあげればいいのかな』って言われたんです」。
その言葉に私はびっくりしました。「悪いのは私だったんだ」って。

教えに従うために押さえつけた自分の気持ち


何か問題があれば非は自分にあると思い、相手に優しくする。
これは一見、美しい行為に思えます。しかし、現実にはこの教えがいつも通用するわけではありません。
でもサチコさんの親は、「その行動規範が通用しなかった場合」という選択肢は与えてくれませんでした。子供時代のサチコさんは、その「不都合」に整合性をつけるために、こんな風に考えることにしました。
問題が解決しないときは、自分に解決能力がない、あるいは優しさが足りないのだと。
また、サチコさんの親は彼女に「優しくなりなさい」と言い続ける一方で、サチコさんが10代の時、色々と悩んでいた際には一緒に悩んでくれませんでした。
サチコさんは「私は、その当時も私が悪いんだって思っていました」と言います。
「自分も優しくされたい」という思いを、サチコさんはずっと押さえつけてきたのです。

親の「毒」から解放される


身の回りには自分の思い通りにならないことはたくさんあり、またそれが普通のことです。
しかし、サチコさんはそのようには考えず、そのことを受け入れることもできませんでした。「こんな私でいいはずがない」と自分を責め続けた結果、子供が泣き止まないという出来事が引き金となって、メンタルに支障をきたしてしまったのです。
カウンセリングを受け、うまくいかない時に夫や周りの人からの支援をうれしく感じられるようになってきたサチコさん。
「思い通りにならないことがあっても、自分ばかりが悪いと思い込む必要はない、そのことを恥じなくていいと思えるようになりました。そうしたら子供が泣き止まないことも平気になってきたんです」と語ります。

親を断罪したいわけではない


サチコさんは、親の教えのすべてが悪かったと考えているわけではありません。また、親のことを「毒親だ」と断罪したいわけでもありません。
ただ、教えがあまりにも一面的だったのは確かで、結果的にそれが、サチコさんには「毒」として作用してしまったのでしょう。
今では、「その薬(毒)の量をうまく調合できるようになった」というサチコさん。子育てもうまくいくようになり、職場復帰も視野に入れられるようになってきたそうです。
(この事例は複数の例を基に構成しています。またプライバシー保護の観点から一部を脚色しています)
<執筆者プロフィール>
玉井 仁(たまい・ひとし)
東京メンタルヘルス・カウンセリングセンター カウンセリング部長。臨床心理士、精神保健福祉士、上級プロフェッショナル心理カウンセラー。著書に『著書:わかりやすい認知療法』(翻訳)など

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情報提供元: mocosuku

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