親が離婚すると子もするの? 「離婚と遺伝子」の関係
2017-01-13 21:30:46
執筆:南部 洋子(助産師・看護師・タッチケア公認講師)
医療監修:株式会社とらうべ
「親が離婚していると子どもも離婚する」という話をあなたは信じますか?
ウェブサイトで「離婚と遺伝」を検索すると、多くの共感意見が寄せられています。
では、実際にはどうなっているのでしょうか。ご一緒に考えてみましょう。
離婚と遺伝の関係を示すデータはない
厚生労働省によると、2016年1月に発表された人口動態統計では、全国で離婚件数は225,000組で、人口千人当たりの離婚率は1.80となっています。
1990年代後半になって離婚率は高まり、2000年から2009年まで離婚率は2.0を超えていました。2010年からここ数年は、減少傾向にあって現在に至っています。
この数字はさらに、年齢や同居年数などで分析され、そこからたとえば、最近の熟年離婚の増加なども指摘されています。
しかし、親の離婚と子どもの離婚の相関については、残念ながら統計的な結果を得ることはできませんでした。
ですから、「親が離婚していると子どもも離婚する」という一般的傾向はあるとは言えないというのが回答です。
遺伝とは
遺伝とは、そもそも「生殖によって親から子へと形質が伝わる現象を指す、生物学的概念」です。
もちろん、日常生活ではっきりと眼に見えるカタチ、たとえば、黒い瞳の親から黒い瞳の子どもが、白い肌の親から白い肌の子どもが産まれたなどから、生物学のことを知らなくても遺伝現象を理解することはできます。
しかし、それが遺伝していると確かに言うためには(つまり、疑似遺伝ではないことをハッキリとさせるためには)、生物学会などで認められている手続きによらなければなりません。
たとえば、血液型のDNA親子鑑定などが有名ですね。
このレベルで、離婚と遺伝との関連は証明されていません。
どうして親の離婚が原因だと思いたいのか?
それでもネット上では、親の離婚と子の離婚の相関に共感を示す書き込みはたくさんあります。
少し読んでみると、自ら離婚した人が、その理由を「親も離婚していたから」にしていると推測されるものも少なくないようです。別の見方をすれば、離婚という悲しい経験を、自分の未熟さのせいにすると苦しくなるので、親や世間のせいにしているかのようです。
こうすると、ちょっとだけ楽になるからです。
ただし、この場合気をつけていただきたいのは、「自分に起こったことは、どんな人にも起こりうる」と一般化することです。
自分は離婚していないけれど、親は離婚したという人たちに、悪影響を与える可能性があるからです。
親の世界観が子どもに伝承される
その家に産まれ、幼いころから育ってくれば、人や物にどのように関わっているのかは、大いに親の振る舞いに影響されます。
たとえば、ぶっきらぼうな父親が母親に接する姿を見ていると、その子も女性や他人に対して、ことば少なくぶっきらぼうに振る舞うことはよくあることです。
文化の伝承ということはそういうことだとも言えるでしょう。
ですから、結果として離婚にいたった親の振る舞い方を小さい頃から子どもが見ていて、同じような振る舞い方が身につけてしまうことは大いにあり得ることです。
しかしだからといって、子どもも離婚に至ると結論づけるのはあまりにも短絡的です。
反面教師:子どもは親を越える
子どもは、親に似た振る舞いはするでしょうが、親と同じ運命をたどるとは限りません。
反抗期や自立といった時期が人間にはあります。
動物のように親と同じように大人になっていくだけでなく、人間には、幼少期は親を真似ながらも、ある時期からは、親を超えるように振る舞う時期があります。
その形が未熟なゆえに「反抗」だったり、親元を飛び出す「家出」だったりすることもあるでしょう。そして、けっこう長い時間をかけて、親を越え、自分の責任で生活することができるようになると、子どもの頃とは違った意味で、親を理解し、共感し、尊敬することができるようになります。
ですから、「親が離婚したから自分は離婚しない」と頑張っている人もいることを忘れて、「親が離婚すると子どもも離婚する」などと言うのは、失礼なことだと思いますし、無責任な発言ではないでしょうか。
親の離婚が自分の離婚へのハードルを下げる?
結婚するとき「一生添い遂げよう」と固い決意をするところから始まるでしょう。
そして、「結婚前は両目でしっかり見る、結婚したら片目で!」などなど、結婚式のスピーチでも言われているように、楽しいばかりが結婚ではない、つらいことがあっても我慢我慢、というのが、結婚についての一般的な考え方ではないでしょうか。
ですから、離婚するのは結婚以上に大変なはずです。
しかし親が離婚していると、自分の結婚生活で「離婚」という選択枝が身近なことになるかもしれません。
そして、はたから見ていると割と簡単に離婚という道を選んだことが、「離婚遺伝子」などという根も葉もない言葉で表現されているのかもしれませんね。
<執筆者プロフィール>
南部 洋子(なんぶ・ようこ)
助産師・看護師・タッチケア公認講師・株式会社 とらうべ 社長。国立大学病院産婦人科での経験後、とらうべ社を設立。タッチケアシニアトレーナー
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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情報提供元: mocosuku