「あくびがうつる」というのは本当?【あくびの不思議】
2017-04-06 18:30:41
執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ
家庭や職場で、誰かがあくびをしているのをみたら、自分もつられてあくびが出てしまった、という経験はありがちなことではないでしょうか。
とくに、親しい間柄でこうした現象は起こりやすいといわれています。
どうしてなのでしょうか。
今回はこの「あくびの不思議」について、詳しく見ていきましょう。
研究「あくびはなぜうつるのか?」:行動伝染
2009年に、いわき明星大学大原貴弘准教授は、心理学的研究として同大学人文学部研究紀要に「行動伝染の研究動向:あくびはなぜうつるのか」という論文を掲載しています。
あくびがうつることを科学的に説明しようという試みです。
それによると、あくびがうつるのは「行動伝染現象」とのこと。あくびに限らず、誰か他者の行動と同じ行動をとってしまうのが「行動伝染」です。
「人が笑っているのを見ているとつい自分も笑顔になってしまった」といった「笑い」の行動伝染もよく知られています。
ちなみに、大原氏によると、あくびは他者のそれを見るだけでなく、あくびについて考えたり、文章を読んだりしても誘発されるそうで、行動伝染だけでなく、“情報伝染”もするようです。
あくびが伝染する条件:共感説
2011年にイタリアのピサ大学で行われた研究では、職場やレストラン、待合室など、日常生活であくびが伝染する現象を1年間観察した結果、延べ480人のデータから、もっともあくびがうつりやすかったのは、家族、友人、知人、見知らぬ人の順番だったとのこと。
つまり、親しい人ほど行動伝染が起こっていると結論づけらたのです。
この調査結果が示すように、行動伝染として「あくびがうつる」のは、相手に関する関心や共感がベースにあってのこと、という「共感説」が原因として有力視されています。
ですから、共感性が乏しい、たとえば、自閉症や統合失調症の患者さんなどの場合、あるいは、他者やその状況に興味がない場合などは、行動伝染が起こりにくいといわれています。
社会的コミュニケーションとしてのあくびの伝染
人間だけでなく、動物にもあくびの行動伝染があるそうです。
ただし、あくび自体は脊椎動物全般に見られるのにたいして、行動伝染するのは、チンパンジー、ヒヒ、犬、オオカミなどといった「群れで生きている」社会性のある動物に限られるとのこと。
つまり、行動伝染は、群れのメンバーであることの確認作業だったり、外敵から群れを守る警戒行動だったりする可能性もあるということでしょう。
この意味で、あくびの伝染は「社会的コミュニケーション」の一パタンともみなすことができるでしょう。
共感性が高いほど社会性もたかまり、行動伝染も起こりやすくなると考えることができます。
ただし、行動伝染が「あくび」や「笑い」なら好ましいですが、「恐怖・パニック」や「いじめ」などが行動伝染するのは避けたいものですね。
あくびの生理学
これまで、生理学では「あくび」は、疲れている時など、カラダやココロが休息を求めて出る生理現象とされていました。
脳の働きが鈍くなって酸欠状態のようになると、反射的にあくびが出て、酸素を吸い込むことで、低下している脳の働きを活性化してくれる、生理的防衛反応とされていたのです。
また、「生あくび」は眠気などがないのに起こるあくびで、これは、脳が相当疲れていたり、脳梗塞や低酸素血症など病気の症状として出るので要注意!とされていました。
さらなる発展を!
あくびを「行動伝染」として捉えるのは、以上のような生理学の見方とは違った、あたらしい「あくび」への解釈ということになるでしょう。
この点は研究者の方たちも意識されているようで、行動伝染としてあくびがうつることを、脳科学などでも確認していくように、さらに研究を進めているようです。
これからの成果が期待されます。
【参考】
本田明夫、大原貴弘(2009) 「行動伝染の研究動向:あくびはなぜうつるのか」 いわき明星大学人文学部研究紀要 22
http://www.kobunsha.com/special/sinsyo/member/serial/pdf/bn008_sm0019.pdf
<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長
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情報提供元: mocosuku