認知症とはちがう「せん妄」とはどういう状態?
2017-06-02 18:30:28
執筆:藤尾 薫子(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
漢字では「譫妄」と書かれる「せん妄」。
「譫」は「うわごと・たわごと」を意味する言葉です。
「入院をさせた親が、急におかしなことを言い、日にちもわからなくなった」などの事例があげられます。
医学では「意識障害」のひとつとされる「せん妄」。
認知症や抑うつ状態とも間違えられやすいようですが、どんな状態・病態を指しているのでしょうか。
「せん妄」とはどういうこと?
意識障害は、ひとつは、完全に目覚めている「覚醒」状態から意識不明が続く重い「昏睡」状態まで、「清明度」を軸とした意識のくもり具合。
もうひとつは、意識の内容が常態を越えて変わってしまう、意識の「質」的な障害の2つの軸から診断されます。
せん妄は、軽度から中度の意識の混濁(=くもり)が基になって、「注意力・判断力が落ちる」「見当識に障害が起こる」「錯覚・幻覚・妄想が現れる」などの質的な障害が起こって、急性の精神症状を呈する状態と定義されています。
せん妄の症状
せん妄になると、次のような状態が症状として現れます。
- ・表情が乏しくなり、態度や感情の動きに活発さが欠け、ぼんやりしていることが多い
- ・現在の日付や時刻、現在の場所などがわからなくなる(=見当識がなくなる)
- ・ある程度の長い会話の中で、ちぐはぐなところ、まとまりの悪いところがある
- ・記憶力、計算力、判断力などの知的能力が低下する
このような特徴から、高齢者の場合は認知症と間違われたり、抑うつ状態とみなされてしまうこともあるようです。
これらと比べると、とくに、行動・言動の変化が急激に発症したり、その変化が1日のうち、または日によって変化したり(日内変動、日間変動)、一過性で、通常数日以内で正常に復するといった、症状の変化を特徴とする症候性の精神障害といわれます。
せん妄の診断
せん妄の診断にあたっては、上に挙げた症状とその変化という、時間的経過を重視した「経過診断:診断ステップ」が必要とされるとのこと。
脳の機能不全が全身状態に及んで、次のような経過をたどるとされています。
- 1. 急激な発症と症状の変動
- 2. 注意の障害
- 3. 思考の混乱または意識の障害
せん妄の種類には、夜間に症状が見られる「夜間せん妄」、職業上の動作を意識障害下で繰り返す「作業せん妄」、手術のストレスや麻酔薬や鎮痛薬に由来する「術後せん妄」、大飲酒家が突然アルコールを止めたことに伴って現れる「アルコール離脱せん妄」などがあります。
せん妄はどんな人に起こるの?
せん妄は、脳の障害や身体疾患が脳に二次的な障害を及ぼして起きる「器質性精神障害」や、薬物の影響で起きることが多いと言われています。
また、高齢者の場合は、脳の機能が落ちて意識障害を起こしやすくなりますし、身体疾患やストレスによってせん妄も起こりやすくなります。
一般に、意識障害は脳の脆弱性(ぜいじゃくせい)の表現として発症しますが、とりわけせん妄は、心理的・環境的因子の影響を受けやすいと言われています。
せん妄の治療について
現在のところ、せん妄には必要最小限の向精神薬による薬物療法が施されていますが、次のような対応で、改善や症状の軽化が見られるとされます。
- 1.ベースにある身体疾患の治療を行い、せん妄を助長する因子を改善する
- 2.誘因となった薬剤を中止する
- 3.睡眠・覚醒リズムを改善させる
- 4.環境を調える
特に環境調整については、聴覚や視覚、触覚における適度な刺激が改善に効果的とする臨床医の指摘もあります。
日中にラジオを聴かせる、アナログ時計やカレンダーをそばに置くなどの工夫が考案されています。
【参考】
落合滋之監修『精神神経疾患ビジュアルブック』学研、2015
<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお・かおるこ)
助産師・保健師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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情報提供元: mocosuku