あ、カラダが動かない…。「金縛り」はどうして起こる?
2017-07-28 18:30:58
執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ
就寝中に、意識があるのに身体を動かせなくなってしまう状態を「金縛り(かなしばり)」と呼びます。
身体が締めつけられるような感覚があるので、この呼び名がついたともいわれています。
生霊や悪魔やもたらす超常現象という説もあるようですが、科学的にはどんな現象なのでしょうか。
今回はこの「金縛り」についてのお話しです。
入眠中の不思議な体験?
堀忠雄さん(睡眠心理学者)によると、金縛りでは、睡眠中の突然の目覚め、身体が動かない、声が出ない、そばに誰かがいるような気配がする、誰かが胸の上に乗っている、強い力で抑え込まれて息ができない、激しい恐怖感に襲われるなどが体験されるとのこと。
そして、夢とは違う、恐ろしい、でも身動きができなかった経験から、「思わず霊の力を信じてしまいそうになった」という声も少なくないようです。(参考:堀忠雄『眠りと夢のメカニズム』サイエンス・アイ新書、2008.)
欧米ではかつて、金縛りは「夢魔」の仕業と考えられていました。
ちなみに、画家のフューゼリは「夢魔」を主題にたくさんの絵画を描いています。
日本でも仏教用語の「金縛法:きんばくほう」に由来して、不動明王が敵や賊を身動きできなくする密教の秘法に、その名は由来するとのこと。
金縛りは超自然的な現象として理解されていたようですね。
睡眠リズム乱れて金縛りは起こる
現在では、金縛りは「睡眠麻痺」に分類され、睡眠時に全身の脱力と意識の覚醒が同時に起こった状態とされています。
そして、この状態は睡眠サイクルの異常から起きることが知られています。
睡眠時にノンレム睡眠とレム睡眠とが交互に現れるのが睡眠サイクルです。
通常、入眠後に深いノンレム睡眠がおとずれ、時間が経つにつれて、ノンレム睡眠が減り、レム睡眠が多くなって、一晩に何回か睡眠サイクルを繰り返した後に、目覚めるのが正常な「睡眠・覚醒」です。
ところが、何らかの理由で、入眠時にいきなりレム睡眠が現れることがあるそうです。これを「入眠期レム睡眠」と呼んでいます。
ノンレム睡眠では脳も身体も眠っていますが、レム睡眠では脳は目覚めています。
ところが、入眠期レム睡眠では、普通のレム睡眠より脳の活動水準が高くなって、あたかも覚醒状態が続いているように感じられるそうです。
また、レム睡眠では身体は目覚めているものの、骨格筋の緊張は覚醒時より減少しています。
こうした状態が金縛りの生理的条件となってきます。
金縛りの原因:生活の不規則とストレス
入眠期レム睡眠が起こりやすい条件はどのようなものでしょうか。
生活が不規則で、睡眠サイクルが乱れていたり、極度に疲れていたり、心身に強いストレスを受けていると、起こりやすいと言われています。
生活が不規則で、睡眠サイクルが乱れているというと、夜勤のある仕事、時差のある地域に行く機会が多いといったことが挙げられます。
夜警や医療あるいは航空会社や商社などに勤める人が思いつきます。
また、極度に疲れているとか強いストレスといった事態は、誰にでも起こり得ることです。
ちなみに、大学生を対象とした調査から、はじめて金縛りを経験した年齢は、15~18歳が多いという結果も報告されています。
思春期で心身が不安定になったり、大学入学や就職といったライフイベントによってストレスが高じやすい時期とも重なります。
金縛り対策
実はまだ、金縛り対策は確立していないそうです。
始まったら、意識的に目を動かすと早く抜け出せる(堀忠雄氏)という経験知もあるようですが、多くの人は恐怖でそれどころではないようです。
ですから、原因となる事態をできるだけ回避することが、予防的に求められます。
ひとつは、規則正しい生活をすること。睡眠リズムの乱れを可能な限り少なくするということ。
もうひとつは、ストレスフリーを心がけて、効果的なストレス発散に努めること。そして、疲れを溜めないことです。
また、金縛りは、怖くて不愉快な経験であっても、一過性のものですから、気もちを強く持って耐えることもまた、これを乗り切る手だてとなります。
病気の場合もある
睡眠障害に「ナルコレプシー」という病気があります。
まれな病気ですが、10代で発病し、入眠期レム睡眠が起こりやすく、金縛り体験もよく起こるとされています。
「情動性脱力発作」といって、泣いたり笑ったりすると全身の力が抜けてしまう症状や、「睡眠発作」と呼ばれる、時と場所を選ばず、突然眠気が襲い、眠ってしまう病気です。
もちろんこの場合は、睡眠専門医を受診することが必要です。
【参考】
堀忠雄『眠りと夢のメカニズム』サイエンス・アイ新書、2008.
<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
関連記事
情報提供元: mocosuku