「自分が自分である」感覚gaを喪失してしまう…「離人症」とは
2017-11-13 18:30:45
執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ
「自分が自分から離れてしまう感じがする」という症状が離人症です。
心が肉体から離れて、遠くから自分を観察している感覚や、自分が自分でないような感覚に陥ったりします。
また、周囲に対しても現実感がなくなってしまう場合があります。
いったい「離人症」とは、どのような病気なのでしょうか?
解離性障害としての「離人症」
本来「自己」として統合されている、意識・記憶・同一性・周囲の知覚などの機能が失われて、生活面でさまざまな支障をきたし、意識だけでなく身体にも、けいれんなどの症状が出ることもあるのが「解離性障害(かいりせいしょうがい)」です。
解離状態は大きく4つに分類され、多重人格のような「解離性同一性障害」、通常のもの忘れとは違う外傷体験に関連した「解離性健忘」、自宅や職場から突然立ち去って過去の出来事を忘れてしまう「解離性遁走(とんそう)」、そして、自分が身体や心から引き離される感覚が起こってくる「離人感・現実感喪失症」があります。
離人症は「離人感・現実感喪失症」のことで、狭義には自分に対する現実感がなくなる「離人感」を指しますが、一般に精神医療では、外界への現実感喪失もあわせ、両者をまとめて離人症と呼んでいます。
離人症の症状
専門医の所見では、離人症は「自分が自分でないかのような感覚、あるいは、夢の中にいるようなぼんやりした感覚にとらわれる症候群」と解説されています。
大きく分類すると「離人感」「現実喪失感」の二つの症状があります。
離人感
自分の心と身体が分離され、夢やゲームの世界にいるように感じて、自動的に動かされているような感覚に陥り、その結果、自分を遠くから眺めていたり、幽霊になったように感じたりもするといいます。
また、自分の身体が異物だと感じたり、身体の半分が存在しないように感じたりすることもある、とのことです。
現実喪失感
周囲のものごとが奇妙な人工物に思えたり、周囲の人たちが不自然な演技をしているようにしか見えなかったり、周囲の景色がゲームや映画の中のように見えたりするといいます。
このような症状をもちながらも、通常の生活や行動はできますし、会話も作業もできるので、具体的に何か障害があるというより、本人の中で、あたかも現実が現実でないような不思議な感覚が生じ、そのことが不安を呼び起こします。
また、患者さんはこれらの症状が現実的でないと自覚があり、知覚が明瞭で、中毒性の混乱がなく、てんかんなどでもないことが診断基準になっています。
離人症の特徴
具体的な有病率はわかっていませんが、女性の発症率が高いこと、発症の平均年齢16歳くらいで40歳以上ではめったに見られないことが指摘されています。
また、正常な状態でも、睡眠不足や過労が続くと症状が出る可能性があること、不安障害、統合失調症、うつ病、双極性障害、パーソナリティ障害など、さまざまな精神疾患で認められる症状だということもわかっています。
さらに、甲状腺やすい臓など内分泌障害、てんかん、脳腫瘍などの疾患や、脳外科手術で側頭葉皮質に電気刺激を与えることにより引き起こされたり、アルコールや医薬品、麻薬などの物質によって生じたりするケースもあります。
離人症の原因
離人症は主観的な症状ということもあり、原因を特定しにくいと専門家は言います。
また、調査や研究も少なく、精神症状の中でもわかりにくい症状の一つといわれています。
それでも、精神や脳に何らかの負荷がかかった結果起こる症状であることは、ほぼ確実といわれています。
強いストレスに耐え切れなくて、自分を守るために無意識にとられる反応といえるでしょう。
たとえば、解離性障害は虐待やトラウマ的な出来事に起因するとみなされています。
つまり、心をストレスから解離させ、これ以上傷つかないよう防御していると解されています。
離人症はそんな解離性障害の“入口”で起こる障害で、さらに重症化すると、同一性障害、健忘や遁走といった症状に進行していくと考えられます。
離人症の治療
突然発症し、長期にわたって症状が継続し、かつ症状が一定しているとされる離人症。
不安などの症状には抗不安薬などの薬物療法が施されます。
また、精神療法も行われますが、次のような基本的前提が提起されています。
安全な環境と安心感の獲得
有害となる刺激を取り除く
人格の統合や心的外傷の直面化にはあまりこだわらない
幻想の肥大化と没入傾向の指摘
支持的に接し、生活一般について具体的に助言する
(本人が)言語化困難な状態であることを考慮し、隠れた攻撃性や葛藤について触れる
病気と治療についてわかりやすく明確に説明する
自己評価の低下を防ぎ、つねに希望が持てるように支える
破壊的行動や自傷行為などについては行動制限を設け、人格の発達を促す
家族、友人、学校精神保健担当者との連携をはかる
このように、強いストレスや刺激から離れた環境を整え、医師との信頼関係を基軸に、薬物療法と精神療法が行われます。
また、治療中の本人や家族に、解離性障害に関する必要な情報を提供して、この病気を適切に理解することが大切です。
一方で、他の患者さんと頻繁に接触することで、かえって混乱してしまわないような配慮も求められています。
【参考】
・柴山雅俊監修「解離性障害のことがよくわかる本」(講談社 2012)
・ハートクリニック 心の病気のはなし「離人・現実感喪失症候群」(http://www.e-heartclinic.com/kokoro/senmon/f40/f48_depersonalization_derealization_syndrome.html)
・厚生労働省 心の病気を知る「解離性障害」(http://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_dissociation.html)
<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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情報提供元: mocosuku