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アナタにも起こりうる「燃え尽き症候群」とは

2017-12-31 18:30:30


執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ
日本においては、スポーツの代表選手や部活を終えた高校3年生が「燃え尽き症候群」になりやすいといわれます。
また、先ごろ電撃引退を表明した安室奈美恵さんも、引退理由は一種の「燃え尽き症候群」ではないか…との見方があります。
こうしたアーティストと呼ばれる人たちにも、燃え尽き症候群の人は少なからずいるようです。
そんな燃え尽き症候群とはどのような症状なのでしょうか。
ご一緒に詳しく見ていきましょう。

燃え尽き症候群(バーンアウト・シンドローム)の由来


バーンアウトという用語の提唱者は、ハーバート・フロイデンバーガーというアメリカ人の心理学者です。
彼が保健施設に勤務していた時のこと、1年余りの期間で徐々にエネルギーが抜けるかのように、仕事に対する意欲や興味を失っていく同僚の様子を目の当たりにしました。
そして、当時、ドラッグ常用者の無気力を意味した俗語『バーンアウト』を、学術用語として1974年代に提唱しました。
その後、この用語は広く知れわたり、1982年になって社会心理学者クリスティーナ・マスラックたちが、MBI(マスラック・バーンアウト・インベントリー)という尺度に標準化しました(※)。

燃え尽き症候群の概念


もともと、モーターや電球が焼き切れる状態を表わす「バーンアウト」。
それまで精力的に活動していた人が、あたかも、突然「燃え尽きた」ように意欲を無くし、休職・休業あるいは離職してしまうような現象を意味しています。
当の本人が元来意欲の乏しい人ならともかく、そうとはいえない周囲から一目置かれる人たちが多いことが、人々を驚かせました。
MBIによると、バーンアウトには、おもな症状として次の3つがあります。

情緒的消耗感


仕事などで力を出し尽くし、消耗してしまった状態で、バーンアウトのもっとも核心的な症状

脱人格化


他人に対して思いやりがなく、紋切り型(定型的)な対応になってしまう、あるいは、他人との煩わしい接触を避けるため、事務仕事に没頭したりする

個人的達成感の低下


成果の急激な落ち込みや仕事の質の低下によって、自分自身の有能感、達成感がなくなり、自己否定や離職などにつながる

ストレス反応としての「バーンアウト」


最近では、メンタルヘルス不調の予防として、職場におけるストレスチェック制度が創設されました。
ストレスとは、原因となる「ストレッサー」と、その結果としての反応「ストレイン」に区別して考察されますが、燃え尽き症候群は「ストレス反応」であるという捉え方もあります。
燃え尽き症候群に陥りやすい個人的要因としては、未経験、周囲の高い期待、本人の高い理想、ひたむきで一生懸命な姿勢などが挙げられます。
一方、環境的要因としては、仕事の量的・質的な過重負担、仕事のオン・オフを自分でコントロールできない状況(たとえば、「子どもの世話」のように終わりが見えないこと)、役割のあいまいさなどが指摘されています。

ヒューマンサービスや感情労働と「バーンアウト」


バーンアウトという用語が生まれた1970年代後半のアメリカでは、お客さまへのサービス提供を職務とする「ヒューマンサービス」の分野において、バーンアウトの症状が多いことに注目が集まりました。
たとえば、看護者、教員、ヘルパーなどです。
その後、肉体労働と対比して「感情労働」という用語が生まれ、これに従事する人もバーンアウトに陥りやすいことがわかってきました。
感情労働とは、気持ちや感情を主なツールとする仕事を指します。
前述のヒューマンサービスのほかに、客室乗務員や営業、あらゆる接客業、コールセンターのコミュニケーターなど、人間を相手にサービスを提供する職種はおおむね感情労働が多いとされます。
ですから、冒頭では典型的な例としてアスリートやアーティストを挙げましたが、多様化する現代社会においては、誰もが燃え尽き症候群に陥るリスクを抱えているといえるでしょう。

抑うつ状態としての「燃え尽き症候群」


これまで熱心だった人が、急激に意欲や興味を失い、場合によっては、不眠や食欲不振などに陥る…という意味では、燃え尽き症候群を「うつ病」の兆しと診ることもできます。
実際に、症状は「燃え尽き症候群」で、診断は「うつ病」というケースも少なからずあるようです。
たとえば、主婦が子育てを終え、急に抑うつ状態を発症する「空の巣症候群」なども、燃え尽き症候群と同類といえるでしょう。
このように、極度の心身の疲労から感情が枯渇してしまう「燃え尽き症候群」は、特別な仕事をしている人に限られません。
現代社会においては、人とかかわる仕事が主業務である職種が多数あります。
ですから、誰しもなりうる抑うつ反応であることを認識しておきましょう。
【参考】
・(※)厚生労働省 e-ヘルスネット「バーンアウトシンドローム」(https://www.ehealthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-047.html)
・久保真人『バーンアウトの心理学』(サイエンス社 2014)
<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供

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情報提供元: mocosuku

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