『VERY』創刊30周年 編集長・羽城麻子が語る「ママの今」と、これからの雑誌の役割
2025-12-01 13:00:07

1995年に創刊した女性ファッション誌『VERY』が、2025年に30周年を迎えた。
専業主婦世帯が多数派だった時代から、共働きが当たり前の現在まで――。
「VERY」は常に「ママの今」をすくい取り、ファッションやライフスタイル提案を通して暮らしをアップデートしてきた。
その節目に新たにスタートしたのが「VERYママサポート大賞」。
少子化が進み、子育てがマイノリティ化しつつある今、“子育ては孤独じゃない”と感じられるグッズやサービスにスポットを当て、作り手の志に光を当てる取り組みだ。
今回は『VERY』編集長・羽城麻子氏に、賞を立ち上げた背景から、この30年で変化したママ像、雑誌のこれからの役割まで、じっくり話を聞いた。
30周年を節目に生まれた「ママサポート大賞」

――創刊30周年おめでとうございます。この節目に「ママサポート大賞」を立ち上げられました。同じタイミングで打ち出した理由からお聞かせください。
まず、30周年という節目にあたって「VERY FES.」を久しぶりに開催しようという話になったんです。7年ぶりのリアルイベントで「せっかくやるなら、単に楽しいお祭りで終わらせるのではなく、今の『VERY』として何かメッセージを打ち出したいよね」という話を編集部の中でしていました。
『VERY』はこれまでも、ママたちのリアルに寄り添いながら、社会課題とも深く関わってきた雑誌です。だからこそ、30周年のタイミングで「ママに寄り添う」「作り手にエールを送る」といったメッセージを形にできないかとブレストしていく中で「ママサポート大賞のような賞を、このイベントで発表できたらいいんじゃないか」というアイデアが出てきました。「すごく『VERY』らしいね」と盛り上がり、企画が立ち上がっていったのがきっかけです。
――初代大賞には育児記録アプリ「ぴよログ」が選ばれました。どのようなプロセスで決まったんでしょうか。
読者投票で選ばれました。まず編集部で、ママサポートと言えるアイテムやサービスがどんなものなのか、かなり幅広くリサーチしたんです。グッズやサービス、アプリ、制度的な取り組みなど、20~30個ほど候補をピックアップして「これは本当にママを支えてくれているのか」という視点で整理しました。そのうえで、読者アンケートやSNS、有識者の方々への投票をお願いして、最終的に圧倒的な支持を集めたのが「ぴよログ」だったんです。
2017年にスタートしたサービスですが、Alexa連携などアップデートを重ねていて、育児の記録を家族でリアルタイムに共有できる。共有することで、ママー人だけが育児を背負うのではなく、パパや家族と最初から「一緒にコミットできる」という点が、本当にすごいサービスだと感じています。
30年間で変わり続けた”ママのリアル”
――30年の歴史を通して、育児をサポートする道具やアプリは大きく変わってきましたが、ママたち自身はどう変化してきたと感じていますか?
創刊当初は、いわゆる専業主婦の方が読者の大半で、出産し母になり「私たちの着る服がない」という悩みを抱いている方がたくさんいらっしゃいました。まだ選択肢が少ない時代に、ひとりの女性としておしゃれを楽しむ機運を高める役割を担っていたと思います。
その後、共働き世帯が増え、仕事と育児・家事を両立するママが多数派になっていきました。保育園問題や小1の壁など、ママたちが直面する課題も変化していきましたし「カッコいい」「ハンサム」など、ママを形容する言葉も増えていきました。誌面でも働くママのシーンを捉えたファッション提案や、社会課題を扱う企画が増えていき、ママ像のアップデートとともに歩んできた30年だったと感じています。
――ママたちに最も大きな変化が起きたタイミングは、どのあたりだと見ていますか?
大きなターニングポイントはいくつかありますが、一つは雇用機会均等法などを背景に「女性も働くのが当たり前」という価値観が広がったタイミングだと思います。2000年代半ばから後半にかけて、専業主婦が前提だった時代から、共働きが当たり前の時代へと、じわじわと価値観が変わっていきましたね。
また、コロナ禍ではリモートワークが一気に広がって、働き方や家族の形が大きく変わり、その後2020年前後からジェンダーの話題が急速に増えていきました。社会情勢とともにママ像が変わり、その変化を『VERY』もかなりのスピードで追いかけてきた感覚があります。
少子化時代に『VERY』が果たす役割とは

――現在は、少子化が大きな問題となっています。『VERY』にどんな役割があるとお考えですか?
この10年で少子化はものすごいスピードで進んでいて、子育て自体がマイノリティになりつつあります。「子育てが孤独なものになってしまう」ことへの危機感が大きいです。そうした中で「ママサポート大賞」には、子育てや家事の領域ですばらしいサービスやグッズを生み出してくれている作り手の方々を、私たちと読者とで全力で応援したい、という思いを込めています。
子育て事業から撤退する企業もあるなかで、子どもたちの未来のために熱い思いで素晴らしいサービスが生み出されています。だからこそ「こんなに感謝しているママたちがいる」「QOLが上がった」と見える化し、作り手にエールを送り続けることも『VERY』の大切な使命だと思っています。
――30周年を迎えた今『VERY』として一番伝えたいメッセージは何でしょうか。

2025年からは、タグラインを「私たちに、ハグを」に変えています。これは、いろいろな立場の私たちを包括した言葉です。『VERY』の読者は、専業主婦の方からフルタイムで働いているママ、妊活中の方、子どもがほしいかどうか考えている方、子どもがすでに大きくなっている方など本当にさまざまです。そのどれが良い・悪いではなく「それぞれの選択をしている私たち」をまるごと抱きしめたい、という気持ちを込めています。
皆さんの多くは「ちゃんとしなきゃ」と自分を追い込んでしまいがちですが、一番ハグしてあげてほしいのは自分自身です。読者が自分を責めるのではなく「今の自分も悪くないな」と思えるような提案や言葉を、これからも届けていきたいと思っています。
ーそんなママたちにとって、オフラインで交流できる場はとても貴重だと思います。10月に開催された「VERY FES.」は、まさにママたちに必要な場だと思うのですが、手応えはいかがでしたか?
渋谷で開催したのですが、本当にたくさんの方に来ていただきました。読者同士がつながれたり、編集部と直接話せたりする場へのニーズは、想像以上に高かったと感じています。今後も、定期的に読者の方と直接会える場を作っていきたいです。ママサポート大賞の発表会なのか、小さなファンイベントなのか形はいろいろ考えられますが「雑誌の外側」での接点を持ち続けることが、これからの10年はより重要になってくると思っています。
――次のイベントが楽しみです。最後に、これからの『VERY』が目指すものを教えてください。
雑誌というメディアは、デジタルシフトが進む中で形を変えながら生き残っていくフェーズにあります。ただ『VERY』には、この世代の読者の生活や価値観について、誰よりも蓄積された知見があるという自負があります。それは大きな強みです。これからの10年は、その強みを生かしながら、ファッションだけでなく、子育てやキャリア、ジェンダーなどさまざまなテーマで新しいコンテンツに挑戦していきたいです。
紙やデジタル、イベント、プロダクトなどアウトプットの形は変わっても「ママのリアルに寄り添い、少し先の未来を一緒につくっていく」という本質は変えずに、読者と並走していけたらと思っています。
情報提供元: マガジンサミット