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「なぜIT業界の過重下請け構造はなくならないのか…」PE-BANK社長が語る現実と課題

2026-02-02 10:30:46

IT業界で4次・5次請けにまで及ぶ「過重下請け構造」が常態化している。発注側もフリーランス側も、その弊害を理解しながら「やめられない」という現実がある。2026年1月1には下請法改正(取適法)が施行され、取引の透明性やフリーランスの位置づけが、これまで以上に問われる局面を迎える。

それでは、業界はどこを変え、どこを守るべきなのか。過重下請け構造に関する調査を実施したPE-BANK代表取締役社長・髙田幹也氏に、構造の本質と、同社が35年以上続けてきた“透明性”という選択について話を聞いた。

なぜ過重下請け構造はなくならないのか

IT業界で3社以上にまたがる過重下請け構造が常態化している背景について、髙田氏は「多くの企業は問題だと理解しているが、止められないのが実態だ」と語る。この構造はIT業界特有のものではなく、建設業界などでも見られる重層構造と共通点が多い。

大規模プロジェクトでは、1次請けや2次請けとなる企業の社員だけですべてを賄えることは多くない。本来は自社の人材で完結できる体制が理想だが、現実には人手不足や専門性の高度化により、外部の力を借りざるを得ない場面も少なくない。

そのため、取引先を一定数に絞り、下位の会社へと仕事を委ねていく。人手が足りなければ、さらに別の会社に助けを求める。この合理的な判断の積み重ねが、結果として4次、5次請けという深い商流を生み出している。

複数の会社が関わること自体が問題なのではない。現場は一つであるにもかかわらず、商流だけが複雑化していくことにこそ、構造的な歪みがある。

商流が深くなるほど現場との距離は広がる

過重下請け構造の影響は、品質リスクだけにとどまらない。

「例えば1億円で発注された仕事が、何層もの中間業者を通ることで、現場に届く頃には大きく目減りしてしまう」。髙田氏は、こうした構造では技術者に適正な対価が支払われず、健全な経済循環が生まれにくいと指摘する。

さらに、商流が深くなるほど、発注者の意図は現場に伝わりにくくなる。いわゆる“伝言ゲーム”が起こり、指示内容が変質したり、契約内容と実務に齟齬が生じたりするケースも少なくない。その結果、現場の疲弊やサービス品質の低下を招いてしまう。

発注側ですら「何社が関わっているか把握できていない」状況について、髙田氏は「商流そのものを完全に止めることは難しいが、不透明な状態を放置していいわけではない」と話す。近年は、2次請けまでに制限するなど、発注側が管理責任を果たそうとする動きも見られるようになってきた。

不信感の本質は「金額」ではなく「見えなさ」

過重下請け構造の中で、企業もフリーランスも強い不信感を抱いている。その本質について、髙田氏は「金額そのものより、正しい情報が伝わっていないことへの不信感が大きい」と指摘する。

実際、PE-BANKが2025年12月に発表した「受発注元が3社以上に跨る“過重下請け構造”に対する意識調査」によると、企業担当者の82.0%が金額に不信感を抱く一方、69.0%は内訳が明確であれば理解を示すという結果が出た。

この数字が示しているのは、金額そのものではなく「過程が見えないこと」への不安の大きさだ。商流の途中で、誰がどれだけ取っているのかが見えない。契約金額や条件がブラックボックス化することで、受注側は「不当に抜かれているのではないか」と感じ、発注側も「支払った金額に見合う人材が来ているのか」と確信を持てなくなる。こうした“見えなさ”が、双方の不信感を強めてきた。

そして、調査では「社数よりも契約の透明性」が重視される結果が出た。これは、業界が長年「人」を単なるリソースとして扱い、技術者一人ひとりの価値や適正単価と正面から向き合ってこなかったことの表れでもある。商流が深くなるほど単価構造は崩れ、発注側から見れば無駄に高く、受注側から見れば不当に安いという歪みが生まれている。

「仲介」ではなく「共同受注」を選んだ理由

こうした構造的な問題に対し、PE-BANKが創業当初から実践してきたのが「共同受注契約」だ。最大の特徴は、クライアントからの発注内容や契約金額を、エンジニアにすべて開示する「ガラス張り」の契約形態にある。

PE-BANKはもともと協同組合からスタートしており、エンジニアと対等な立場で仕事を受ける仕組みを築いてきた。営業や管理はPE-BANKが担い、開発実務はエンジニアが担う。報酬は事前に合意した分配率で分ける。一般的なエージェントのような“仲介”ではなく、透明性の高い共同事業としての関係性だ。

この仕組みは、短期的には利益率を下げる判断に見えるかもしれない。それでも髙田氏は、「透明性があることで信頼が生まれる」と語る。エンジニアは納得感を持って働け、企業側も安心して任せられる。結果としてトラブルが減り、エンジニア・企業・エージェントの三方よしが成立する。

透明性と信頼が、働き方の選択肢を広げていく

2026年に下請法改正(取適法)が施行され、IT業界ではフリーランスの保護や取引の透明性が、これまで以上に問われるようになる。一方で、髙田氏は「法律だけで業界が良くなるわけではない」とも語る。

フリーランスの本質は、指示を待つ労働者ではなく、自分で仕事を選び、責任を引き受ける“プロとしての自律”にある。過度な保護によって、その自由度や主体性が失われてしまっては本末転倒だという考えだ。

同時に、働き方そのものは確実に多様化している。かつては「会社員か、独立か」という二択しかなかったが、今はフリーランスや派遣、ジョブ型雇用など、さまざまな選択肢がある。重要なのは、どの立場を選ぶかではなく、「自分に合った働き方を、自分で選べる環境があるかどうか」だ。

その前提として欠かせないのが、契約や報酬、役割分担が見える“透明性”であり、そこから生まれる信頼関係である。企業、エンジニア、エージェントがそれぞれの役割を適正に果たし合うことで、無理のない形で仕事が循環していく。

誰かが得をするために誰かが我慢するのではなく、納得感を持って働ける関係性こそが、これからの業界に求められているのだろう。

PE-BANK公式サイト:https://pe-bank.co.jp/

情報提供元: マガジンサミット