10人に1人とも言われる「産後うつ」は、予備知識も大事
2019-03-13 18:30:00
執筆:座波 朝香(助産師・保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
産後のメンタルヘルス不調、いわゆる「産後うつ」は、今や10人に1人は経験するとも言われています。
出産という大仕事を果たした後に直面する育児は大変ハードで、「ワンオペ育児」など社会問題にもなっています。
誰にでも起こりうる「産後うつ」は、早めの対処はもちろん、予備知識を持つことも重要なポイントです。
産後うつの症状
似た症状として「育児ノイローゼ」という言葉を思い浮かべる方も多いかもしれません。
こちらは育児ストレスから発症する神経症の一種といわれていますが、「産後うつ」との明確な違いは医師の解釈によってもさまざまです。
しかしながら「産後うつ」は、医学的に認知されている心の病です。
たとえば、以下のような症状が挙げられます。
とにかく気分が落ち込む
何事も楽しむことができない、興味がわかない
やることが多くて大変でうまくやれない
自信がない
理由もなく「ダメな自分」と責める気持ちがある
いつも不安や焦る気持ちがある
とくに理由もないのに泣けてくる
赤ちゃんが寝ている時など眠りたくても寝つけず休息がとれない
自分を傷つけたいという考えが浮かぶ
食欲がない
とにかく疲れる
産後うつとは:マタニティー・ブルーズとの違い
「マタニティー・ブルーズ」は「産後うつ」と似ている産後のメンタル不調で、ほとんどの方が経験するといわれています。
落ち込んだり涙もろくなったり、家族や周囲の人にイライラしやすくなったりします。
このマタニティー・ブルーズは、産後数日後から起こって2週間以内に自然によくなります。
それ以上症状が続くと、産後うつの可能性が考えられます。
産後うつは産後1年以内に起こりますが、とくに3~6か月で発症するケースが多いとされています。
また、産後うつは重症化しやすく、自分を傷つける行為や死んでしまいたいと考えて実際に行動に移すなど、命に関わるほど深刻な状態に陥る場合もあります。
程度によっては、入院や薬による治療、専門的なカウンセリングが必要になります。
対策:自治体のサポートも活用しよう
産後の子育てで、周囲に頼れる人があまりいないときはどうすればよいのでしょうか。
まずは、地域のサポートなどを活用して育児環境を整え、誰かの手を借りながら育児ができるようにすることをお勧めします。
出産後の自分に見合ったサポートを探すのは手間かもしれませんが、母子手帳をもらった担当の課や出産した施設に問合わせや相談をしてみるとよいでしょう。
住んでいる地域によって内容は異なりますが、たとえば次のようなサポートがあります。
詳しくは各自治体のHPなどを確認してください。
母子手帳受け取りのときの助産師や保健師との相談
妊娠中の母親学級や両親学級
出産後の保健師や助産師による訪問
産後に受けられる助産師の産後ケア
出産して退院後に受診できる産後健診
産後ドゥーラや子育て経験者による産後生活サポート
家事代行サービス
ファミリーサポート会員による上の子の送り迎えや一時預かりなど
※1 出産前後の女性を支援する専門家
※2 地域において育児や介護を助ける会員組織
対策:悩みを共有したり手放したりする工夫
産後は「自分だけがこんなに大変」と孤独を感じやすくなっています。
毎日赤ちゃんと二人きりで過ごしていると、ときには気分が鬱々とするかもしれませんが、初めての出来事に戸惑い、孤立感や不安感を抱くのは特別なことではないのです。
そんなときは、子育て中のママ達と交流を図りましょう。
同じような経験をしてきた「同志」として心強い存在になるはずです。
妊娠中から、次のような集まりについて情報を集めておくとよいでしょう。
子育て支援施設
子育て広場
児童館
赤ちゃん会
ママサークル
育児講座
そのほかにも、家族とコミュニケーションをとる時間を大切にして、毎日のできごとや楽しかったこと、大変だったことなど、育児にまつわる自分の心情を家族に話せるとよいでしょう。
妊娠中からの準備と困ったら相談を
「産後」は、家族が一人増えるという環境の変化に加え、出産・育児の疲れも重なる時期です。
ですから、産後は誰もが身体的・精神的に十分なサポートを受けられるように準備をしておく必要があります。
現在の日本では、医学と医療体制の進歩により、妊娠出産で亡くなる人はごくわずかです。
一方、精神的な病で自ら命を絶ってしまう妊婦や産後ママの方が多いという、大変悲しい事実があります。
産後に十分な休息を取り、安心して育児ができるように、妊娠中から環境づくりをすることをお勧めします。
たとえば、家族の役割分担や地域のサポートの活用について検討しておきます。
また、産後「育児がしんどい」「様子が変だな?」という不安が続くときは、必ず専門家に相談するようにしましょう。
出産した施設に相談すると、必要に応じてメンタルクリニックなどの紹介を受けることも可能です。
産後うつは、自分から助けを求められないケースも多く見受けられます。
周囲が気づいて、本人の代わりに産科やメンタルクリニック等に相談するというのも重要なサポートの一つです。
【参考】
・益社団法人日本産婦人科医会『妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル~産後ケアへの切れ目のない支援に向けて~』(2017年)
・医学書院『助産雑誌 特集:周産期のメンタルヘルスのために助産師ができることすべきこと』(2017.vol71.no4)
<執筆者プロフィール>
座波 朝香(ざは・あさか)
助産師・保健師・看護師。大手病院産婦人科勤務を経て、株式会社とらうべ社員。育児相談や妊婦・産婦指導に精通
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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情報提供元: mocosuku