「里親」や「養子縁組」 その違い、知っていますか?
2019-03-15 18:30:06
執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ
虐待や親の病気、経済的理由などで親と一緒に暮らせない子どもは、約4万5000人いるといわれています(厚生労働省資料)。
今後の見通しとして厚生労働省は、2027年までに「里親」への委託を大幅に増やすこと、また、2022年頃には「特別養子縁組」の成立件数を年間1000件以上に増やすこと、という目標をそれぞれ掲げています。
このような現状を踏まえ、私たちも里親や養子縁組について基本的な事項を知っておきましょう。
社会的養護
本来、子どもは親の愛情のもと家庭で養育されることが大切だと考えられています。
しかしながら、虐待・貧困・病気・犯罪などの理由によって、親が子どもを心身ともに健康に育てられない家庭もあります。「社会的養護」は、社会が代わってそのような子どもを保護し、社会的に養育する制度です。
現在社会的養護には、「施設養護」と「家庭的養護」の二つの体系があります。
施設養護では主に、児童相談所を経て乳児院や児童養護施設といった児童福祉施設へ措置されます。
比較的大人数の「大舎制」と呼ばれる寄宿舎のような場所での生活が中心になります。
これに対して、家庭的養護には「里親」と「養子縁組」の二つの制度があり、少人数の大人が継続的に個々の子どもにかかわれる環境を提供する制度です。
子どもの側からみると、里親制度は委託ですから、実親と里親とが併存します。
対する養子縁組は、実親に代わって養親が法的な親になるという制度で、両者には明確な違いがあります。
里親とは
さまざまな事情によって、生まれた家庭や親元で育つことができない子どもを別の家庭で育てるのが「里親」です。
児童福祉法において、「里親とは、保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童を養育することを希望する者であって、都道府県知事が適当と認めるものをいう(第6条の3)」と規定されています。
里親になるまでのプロセスは以下のとおりです。
・児童相談所に相談し説明を受ける
・里親制度や子どもの権利譲渡などの研修と実習を受ける
・都道府県の審査を経て里親に登録される
・子どもを委託する打診を受け、交流して引き取る
里親委託が決定すると、児童相談所が作成した養育計画に基づいて養育を始めます。
必要に応じて児童相談所や里親会などに相談をしたり、研修を受けたりしながら養育を進めていきます。
養育期間中は、生活費と里親手当が支給されます。
里親の種類
2009年から里親は次の4種類に分類されています。
1. 養育里親
従来「里親」と呼ばれた一般の里親です。
登録有効期間は5年で、委託期間は要保護児童が18歳に達するまでです。
短期の「短期里親」の場合委託期間は1年以内です。
2. 養子里親
後半に詳しく述べる養子縁組を希望して認定を受けた里親です。
3. 親族里親
両親や要保護児童を監護する者による養育が期待できない場合、要保護児童の三親等内の親族で認定を受けた里親です。委託期間は18歳に達するまでです。
4. 専門里親
虐待によって心身に有害な影響を受けたり、非行や不良問題を持っていたり、身体的・知的・精神的に障害がある要保護児童を養育する里親です。登録有効期間は2年で、委託期間も2年以内です。
養子縁組とは
他人との間に法律上の親子関係をつくるのが「養子縁組」です。
「普通養子縁組」と「特別養子縁組」とがあり、民法に規定されています。
成人、未成年を問わず、養親となるものと養子となるものとが契約を交わして成立するのが「普通養子縁組」(民法第792条以下)です。
これに対して、養子が児童の場合に適用されるのが「特別養子縁組」(民法817条の2以下)です。
それぞれ次のような特徴があります。
1. 普通養子縁組(養子が未成年の場合)
家庭裁判所の許可を必要とします。
また、養子が15歳未満の場合「代諾者(親権者か後見人)」が本人に代わって承諾をします。
そして、家庭裁判所の許可が下りれば、戸籍を届け出て、法的に養親の嫡出子になります。
ただし、実親の相続権や扶養の義務は残っています。15歳になると、本人の意思が尊重されます。
2. 特別養子縁組
養子縁組が確定すると、法的には子どもと実親との親子関係がなくなり、養親を唯一の親とするのが特別養子縁組です。
裁判所による特別養子の審判を必要とします。その際、次の成立要件と6か月の試験養育が考慮されます。
<成立要件>
・夫婦でともに縁組すること
・養親は25歳に達していなければならない。ただし、一方が25歳以上なら、他方は20歳以上であればよい
・養子となる者の年齢は6歳未満。ただし、それ以前に居をともにしていた場合は8歳未満
・父母の同意を必要とする。ただし、父母が同意を表示できない、父母による虐待、悪意の遺棄、そのほか養子の利益を著しく害する場合はこの限りではない
・父母の養育困難や不適当、そのほか特別の事情があって、子どもの利益のために必要と認められる場合
特別養子縁組制度が変わる!?
2019年1月現在、法制審議会の特別養子制度部会は、3月に政府が法案を国会に提出することを目標に、特別養子縁組制度の法改正を目指しています。
最も大きなポイントは、養子の年齢は原則6歳未満という成立要件を、原則15歳未満にまで引き上げる案です。
これによって小中学生に新たな特別養子縁組制度の適用が可能になります。
さらに15~17歳でも一定の条件下で縁組を認めることや、養親となる手続きの改定も盛り込まれているとのこと。
虐待やDV、あるいは貧困や病気といった、実親が子どもを養育できない家庭が増えたり深刻化したりしている現況がうかがい知れます。
言うまでもないことですが、子どもの健やかな成長と幸せを第一に考え、大人の事情で子どもを振り回すようなことにならないよう、社会全体として配慮し適切に支援することが求められます。
【参考】
・庄司順一/編著『Q&A里親養育を知るための基礎知識』(明石書店 2005年)
・社団法人家庭養護促進協会/編集『里親が知っておきたい36の知識』(編集者に同じ 2009年)
<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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情報提供元: mocosuku