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阿部寛の存在感に応える。作曲家・木村秀彬が日曜劇場で初めて採用した楽器と劇伴制作の裏側

エンタメ
2025-05-17 13:00

数々の話題作で音楽を手掛けてきた作曲家・木村秀彬氏。早稲田大学政治経済学部入学後、独学で作曲を始め、卒業後は音楽理論・編曲を学ぶため米国・バークリー音楽大学へ留学という異色の経歴を持つ。映画『トリリオンゲーム』やNetflixドラマ『極悪女王』、Webアニメ『ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』など、ジャンルを問わず幅広く劇伴(劇中伴奏音楽の略。映像作品における背景音楽)を手掛けてきた。


【写真をみる】阿部寛の存在感に負けない『キャスター』に寄り添う音楽の設計図


情感をすくい上げる繊細なスコアと、シーンに寄り添う構成力を持ち味に、映像と音の接点を探り続けてきた木村氏が、今回挑むのは日曜劇場『キャスター』(TBS系)。報道の倫理とリアルを描く本作に、「説得力のある音楽」でどう寄り添うのか。感情をあえて煽らず“俯瞰する音”で物語を支えるアプローチの裏側を聞いた。


「日曜劇場らしさ」と「新しさ」の狭間で

日曜劇場ではおなじみの作曲家でもある木村氏だが、“常連”だからこその葛藤があるという。


「日曜劇場は何作も担当させていただきましたが、毎回悩みますね。同じようになってはいけないけれど、日曜劇場らしさ、というものもあると思うので。今回は“報道”というテーマなので主観が入りすぎない、中立的なイメージで作り出しました」


『ドラゴン桜』では「主人公や生徒の気持ちを汲んでメロディーに乗せた」という木村氏だが、『キャスター』の劇伴については「俯瞰して見ているような音」と表現する。


「今まで『グランメゾン東京』や『ブラックペアン』など、天才肌の主人公が出てくる作品では、その才能が発揮される“見せ場”があって、音楽もそれを輝かせるようなテーマ曲を意識して作っていました。葛藤や天才性を支え、より魅力的に映るような立ち位置の音が多かったと思います」


だが『キャスター』では、そのアプローチを大きく変えた。


「主人公のキャスター・進藤壮一は、天才とはちょっと違うと感じまして。報道に信念を持って全力で仕事に取り組んでいる人物だけど、彼の“かっこよさ”を音で煽るようなことはあまりしたくなかったです。だから音も、いつもより引いています。いつもなら“全力でホームランを狙いに行く”ような感じで作るところを、今回は“押し付けがましくならないように”。音楽としても客観性を保つことを意識しました」


クラシックパーカッションとサックスをメインにした理由

報道を舞台にした本作では、言葉による影響力を引き立たせるような「説得力のある音楽」を意識した。力強さを表現するため導入したのがクラシックパーカッションだ。


「普段あまり使わない楽器ですが、今回は“底から音を支える”力がほしくて、クラシックパーカッションを生演奏でしっかり録りました。迫力と音圧がいつもとは異なっていて、録ってよかったなと思いました」


そして、もう1つの新たな試みがサックスの導入。日曜劇場ではこれまで使用経験がなかったが、『キャスター』のテーマにフィットしたという。「サックスって、一般的には夜のイメージとか、ちょっとファンキーで賑やかな雰囲気を持たれていると思うんですけど、クラシックの文脈でもちゃんと使われていて。今回はクラシックパーカッションと一緒に録ることもあって、“合わせたら面白いかな”と思ったんです」


しかも、サックスには意外な“ニュートラルさ”があると感じていた。「クラシックっぽく演奏した場合、個人的には中立的な印象を持っていました。報道というテーマには、そういうニュートラルな響きが合うんじゃないかと思って、今回はメインテーマにも採用し、結果的にすごく合っていたという実感があります」


使用する楽器の選択は、劇中に出てくる報道番組のスタジオセットのビジュアルにも影響を受けたという。


「スタジオの写真を見て、“これは大きいぞ”と。CGイメージでは分からなかったのですが、写真を見せて頂いたらセットがとにかく広くて。阿部さんも体が大きく存在感もすごいので、じゃあ音楽もそれに負けないものを、という感覚でした」と笑う木村氏。“負けない音”という感覚は、阿部寛という俳優への信頼とも密接に結びついている。


「阿部さんはシリアスからコミカルまでちょっとした仕草だけでも表現が豊かですので、音楽がガンガン出なくても画だけで説得力が出ると思っていたんです。だからそこも込みで、“ちょっと引き目でいこうかな”と。過去に『ドラゴン桜』など阿部さんの主演作品を何作か担当した経験もあって、目の力もそうですけど存在感がある。そこに音楽が少し乗っかるくらいがちょうどいいと思ったんです」


色が音を変える。“青い”報道空間とメロディーの関係

登場人物それぞれの世代や立ち位置に応じて、音楽の“質感”や“温度”を変えていくことも意識している。


「若いキャストのシーンは、音も若さを感じるように作りました。永野芽郁さんや道枝駿佑さんの出演パートは瞬発力のある短めの音を使うなど、全体の中での棲み分けを意識しています。一方で、高橋英樹さんはじめベテランの方が登場するシーンは、どっしりと重みのある曲にしています。若手とベテラン、それぞれの世代感に合わせて、音を分けるのはよくやる手法ですね」


こうした“視覚から得た情報”と“人物像に寄り添う音設計”が組み合わさることで、作品世界にふさわしい音の厚みが生まれている。また、木村氏の作曲には色彩感覚も深く関わっている。


「セットの色が赤なのか青なのかで、音の選び方が変わるんです。言葉では説明しにくいけれど、たとえば赤だと情熱的になりすぎる。今回の『キャスター』は青が基調だったので、自然とそういう音に引っ張られました」。木村氏の中では、「このコードは青っぽい」「この響きは黄色っぽい」といった感覚が長年根付いているそうだ。


このように視覚的な印象を起点に、劇伴の世界観を形づくるという手法は、日曜劇場のようなスケールの大きな作品においては特に欠かせない要素なのかもしれない。


“かっこよさ”をどう鳴らすか

制作当初、作品全体のトーンについては「かっこいい音楽を」という方針が共有された。だがその“かっこよさ”は、単なる派手さや親しみやすさではなく、作品が持つ社会的なテーマにふさわしい、陰影や重みを帯びたものだった。


「最近のニュース番組の音楽はポップで軽やかなものが多いですが、本作は“今の日本の無情さ”や、“報道がすべて正しいとは限らない”という感覚が土台にあるという話を聞きました。勧善懲悪では割り切れない空気感の中で、音楽もそれに寄り添う必要があると感じました」。その印象は、メインキャスターの個性が色濃く出ていた時代の報道番組の重厚さにも通じるものだった。


そうした流れの中で木村氏は、作品全体のメインテーマに加え、1話の終盤で流れる“もう1つのテーマ”も制作している。理性的な側面を支える一方で、主人公が抱える覚悟や葛藤の揺らぎに、音で応じる構成だ。また、報道という題材が持つ視点の広がりも、音作りに取り込もうとした。


「報道番組のオープニングで“地球が回っているCG”を目にすることがありますよね。ああいう“世界が動いているイメージ”や“俯瞰の視点”っていうのも、どこかに落とし込めないかなと。表現として明示的ではないけれど、そういう空気が音ににじめばと思って制作しました」


日劇ならでは。録音現場で仕掛ける“もう一段階”の工夫

日曜劇場の劇伴制作において、木村氏が特に意識しているのが、録音時の熱量を放送時にも“そのまま届ける”ことだ。


「録音現場で聴くと、音も大きいし、演奏にも熱があって、すごく感動できるんですよ。でも、それが編集を経てセリフや効果音と重なると、だんだん感動が薄れていってしまう。だからこそ、最初の演奏の段階から、フルボリュームでやってもらうようにしています」


録音中、演奏者にはよく「フォルテをもう1段階上げてください」と伝えるという。ドラマ全体のバランスに埋もれてしまうことを見越して、あえて初めから一段階強く、熱を込めて演奏してもらう。その積み重ねが、最終的にお茶の間に届く音になる。


「日曜劇場では、ほかの現場以上にそういうお願いをしています。“もっと大きく”“もっと熱く”って、録音中かなり意識していますね。ほかではあまり言わないけれど、この枠ではそれが必要だと感じるんです」


音の“迫力”だけでなく、“届くための密度”をどう保つか――。それは木村氏にとって、作品と視聴者をつなぐ最後の橋渡しでもある。


録音現場での細かな調整から、シーンごとの温度差への対応まで──。木村氏の劇伴制作は、映像にただ寄り添うのではなく、作品のトーンや構造を緻密に読み解いた上で成り立っている。主張を抑えた音のあり方、言葉を邪魔しない距離感、そして重層的な物語に対応する柔軟さ。そうした姿勢の積み重ねが、“報道”という題材にふさわしい劇伴として厳かに機能している。


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