少子化の歯止めとなるのか。東京で平均62万5千円かかる出産の費用。年々、増え続けている費用の自己負担分を無償化しようという動きが出ています。ただ、出産の現場では分娩を続けられなくなるという声も…
【図解】どこまでが無償化になる?“標準的出産”の範囲をイラストで紹介
保険適用か一時金増額を検討 出産費用の無償化
東京中野区の「しらさぎふれあい助産院」。
木村恵子院長のもとには出産を控えた女性や、産後のケアに1日8人ほどが訪れます。
しらさぎふれあい助産院 木村恵子院長
「これから暑くなると、冷たいものとかサラダとかさっぱりしたものに走りがちだけど、授乳中の時は温かいものを食べた方がいい」
半年前に出産した女性。費用は総額で100万円ほどかかったと言います。
半年前に出産した女性(30代)
「こんなにかかるんだというのは知らなかったので、産むまで。結構夫婦でバタバタしながら、『ここにもかかるね』『数万円飛んでいくね』みたいなことが結構多いなと」
厚生労働省の検討会は14日、出産費用の自己負担を無償化する方針を取りまとめました。
具体的な方法として保険適用とした上で、自己負担をなくす方法や、現在の「出産育児一時金」50万円をさらに増額する方法などを検討し、早ければ2026年度にも無償化の実現を目指します。
産後まもない女性に話を聞いてみると…
3か月前に出産した女性(30代)
「産むタイミングによって、ちょっと後に出産をしていれば、タダで出産できたんじゃないかと思うと、少し悔しいなと思ってしまうが、私の友人でも出産控えてる人がたくさんいるので、無償化になった方がいいかなと」
さらに、出産後の支援を求める声も…
半年前に出産した女性(30代)
「出産って産んで終わりではないので、産んだ後もなんだかんだでお金がいっぱいかかるので、出産費用だけでなくて、その他のことも対策していただいたらいいのかなと」
ただ、出産費用が保険適用となった場合、施設の経営が苦しくなるのではないかと助産院の院長は話します。
出産費用無償化 街の声は?
しらさぎふれあい助産院 木村恵子院長
「一律で同じように金額(診療報酬)を試算したときに、医療を多く提供することで、収入が入るような仕組みになってしまうと、助産院はできるだけ医療の力を使わずに、お産できるようにしているので、分娩費用が支払われるのかが一番心配」
少子化対策の一環として進められている、出産費用の無償化の動き。街では…
8か月前に出産した女性(20代)
「2人目を考えてはいるが、金銭的に厳しいところがあって、どうしようかなって考えてた時にそのニュースを見て、少し希望にはなっている」
男性(40代)
「今の子どもが少ないことを考えると、支援があって子どもを増やせるような状況になっていくのがいいのかなと思う」
妊娠4か月の女性(20代)
「費用を無償化をするだけで、全てが解決するわけではない。育てていけるのかなという不安が解消されれば(少子化は)回復につながる」
女性(20代)
「お母さんを支える周りの人、職場で周りに産休・育休の方がいる人たちも、応援しようって気持ちになれるような支援があればいいのかなと思う」
出産費用 熊本県38万8000円、東京62万5000円 地域差も
藤森祥平キャスター:
今回検討されている出産費用の無償化の方法として、以下の2つが挙げられています。
・出産育児一時金50万円(現在)を増額する
・保険適用、自己負担なし
出産費用の平均(正常分娩)は年々増加しており、出産一時金も2023年に42万円から50万円に上がりました。
ただこうした中で、一時金の増額に伴い、病院側が値上げをしていると批判的な声も上がっているのは事実です。
2023年度時点の出産費用(正常分娩)の全国平均は50万6000円で、一番低いのが熊本県の38万8000円、東京は62万5000円と、地域でかなり費用に差がひらいています。
これを保険適用にした場合、診療報酬として全国一律の金額になります。
小川彩佳キャスター:
宋さんは、出産費用の無償化についてはどのようにお考えですか。
産婦人科医 宋美玄さん:
物価高で若い世代も余裕がないので、産む権利を考えると、無償化して国が保障することはすごくよいことだと思います。
無償化の方法は、出産一時金の増額か保険適用になりますが、保険適用は多くの周産期医療関係者がとても懸念しています。保険適用になると、全国一律の公定価格のようになり、他の診療報酬を見ていても値上げはほとんど起こりません。現在、出産する女性はどんどんと減少し、出生数も毎年減少していて、これは今後も続いていきます。
価格が変わらずに産む人が減少していった場合、医療機関は採算が取れなくなり、分娩をやめたり、現在のような24時間の手厚い医療体制を組めなくなったりする可能性があります。
日本は先進国の中でも出産がとても安全で、これが皆さん当たり前だと思ってるかもしれませんが、空白地帯が出たり危険な医療体制しか保てなくなるかもしれない懸念があります。
小川キャスター:
それは本末転倒になってしまいそうですよね。
産婦人科医 宋美玄さん:
今は当たり前のように、安全に出産ができますが、この安全性がなくなったらますます子どもを出産する人は減ってしまうと思います。安全な出産が保てるような医療制度にしてほしいと思います。
産科医「一時金増額の方が適している」 なぜ?
小川キャスター:
出産の際の費用の負担を軽減を考えると、どういった形が望ましいのでしょうか。
産婦人科医 宋美玄さん:
一時金の増額の方が適していると思います。これから出産が減ったり、物価が上がったりする中で、医療機関がある程度自由に、産む人もそれを選び出産をする今の状態を、より国が補填していくことが望ましい形かなと思います。
トラウデン直美さん:
ただ、医療機関の方も大変なわけですよね。その場合、一時金が増額したとしても、出産する人が減っているから一人ひとりの単価を上げければ採算が取れないとなると、結局産む側の負担は減らない、むしろ増えてしまうのではないかと思います。
産婦人科医 宋美玄さん:
前回、出産一時金が42万から50万円に上がったときは、それ以上に出産の数が減少しているので、国の出費は減っていました。
一時金は値上げに吸収されてしまい、結局、出産する人の手元には残りませんでした。今度増額する場合は、きっちりと試算して、集約化や効率化、分娩数の減少や経費の増額なども全部試算して、何%ぐらい上げる必要があるのか、そしてそれを上回りちゃんと手元に残るような額を増額しないと懸念は拭えないと思います。
トラウデン直美さん:
出産することは国全体の今後に関わることだと思うので、例え出産する人が減少したとしても、産婦人科が生き残れるような病院側へのフォローも何か必要ではないかと思います。
産婦人科医 宋美玄さん:
そうですね。やはり出産できない地域が増えていくと、そこに若い夫婦は住まないので、結局その地域が終わってしまうことになります。国民一人ひとりの子どもをもつ権利も保たれないので、ある程度国がインフラとして維持してもらわないと困るかなと思います。
小川キャスター:
無償化されれば出産の際に助かると感じられる方はもちろん多いと思いますが、実際これによって子どもを産もうという少子化対策になるのかというと、どうなのだろうかと思ってしまいます。
産婦人科医 宋美玄さん:
少子化の原因は、分娩費が高いからではないので、無償化されることで出産するという人は少ないと思いますが、安全に産む権利を国が担保するという意味では、無償化の中でもしっかりとした制度設計が求められていると思います。
藤森キャスター:
早ければ、2026年度を目指して無償化の実現化を図ろうという動きだそうです。
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<プロフィール>
宋美玄さん
産婦人科医 2児の母
女性の健康などのテーマを発信
トラウデン直美さん
環境問題やSDGsについて積極的に発信
趣味は乗馬・園芸・旅行
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