最先端のIT技術を駆使して激安価格を実現しているのがディスカウントストアの「トライアル」だ。業界の“異端児”とも言われるトライアルが目指している「流通情報革命」とは。その旗振り役であるトライアルホールディングスの永田取締役に話を聞いた。
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ディスカウント店の“異端児” IT駆使で激安価格「トライアル」
全国に300店舗以上のディスカウントストアを展開している「トライアル」。食料品を始め、化粧品に、衣料品、さらにテレビなどの家電まで販売。24期連続で増収を達成するなど近年急成長を遂げている。来店客は「週に2~3回は来ている。ここで全部揃うし値段も安い」という。
三元豚を使ったかつ重は299円。歯ブラシは、1本29円。さらに998円で買えるフリースも。低価格でも品質にこだわった商品を数多く取り揃えている。
――オススメのトライアルの激安商品は?
トライアルホールディングス 永田洋幸取締役:
もちろん『阿蘇くじゅうの天然水(500ml)』1本29円(税込)。(元は取れているのか?)実は飲料で一番、元が取れている。ペットボトル(容器)から自社製造。それを自社の物流で自分たちのお店に持って行くことで、この価格を実現させている。
トライアルは、商品をできるだけ内製化。さらに様々なIT技術を駆使している。その一つが自社で開発したセルフレジ機能付きの買い物カート。予めプリペイドカードを登録しておけば、商品のバーコードをカートにスキャンするだけで、レジに並ぶことなく会計を済ませることができる。来店客は「このカートは全部金額が出るし、予算に合わせて買える。難しいことはない」という。
店員が行うのは、商品の読み取り漏れがないかなどの最終確認だけ。このカートの導入で、人件費の削減はもちろんのこと、レジ待ちの時間を4分の1ほどに短縮できた。
“DX革命”で激安価格を実現 「トライアル」取締役・永田洋幸氏が語る秘密と戦略とは
こうしたIT技術によるDX(デジタル・トランスフォーメーション)化の最高責任者が、トライアルホールディングスの永田洋幸(ながた・ひろゆき)取締役。代表取締役会長の長男にあたる。
――トライアルの象徴がタブレット付きのレジカート。どれくらいの人が利用しているのか。
トライアルホールディングス 永田洋幸取締役:
平均25%の来店客がタブレット付き「スキップカート」を利用している。
――実際にレジカートを使って、レジなしでキャッシュアウトできるとなると、どんな効果が出てくるのか。
トライアルホールディングス 永田洋幸取締役:
私たちにとっていいことは「想像以上のデータ」が取れるようになった。お客様の「個人データ」、それに「購買データ」をどんどん紐づけることで「可視化できるスマートな店」ができることを目指している。
セルフレジ付きカートの利用者から得られるのは、誰がどのようなものを買ったかという、「個人に紐づいた購買データ」。トライアルでは現在、このデータを活用して、レジカートで「個人に合わせたクーポンの提供」を試験的に行っている。
トライアルホールディングス 永田洋幸取締役:
(必要のない人に必要のない商品の情報が届くという)「使わないものの促し」は、余計なお世話でしかない。
――そういうやり方よりも、実際に店舗にいるときに、情報が届く方が効果はあるのか?
トライアルホールディングス 永田洋幸取締役:
私たちはそのように考えている。これを「非計画購買」と言っている。衝動買いに近い形で買う。これが「非計画購買」。大体2割が「計画購買」と言われている。8割は「非計画購買」。スーパーなどでふっと見た時に買い物する、消費に使っていることがほとんど。
トライアルの店内のあちこちに取り付けられたデジタルサイネージにもこうした「非計画購買」を伸ばす仕掛けがある。通常は、それぞれのコーナーに合わせた広告などが流れている。ところが…。
スーパーセンタートライアル長沼店 ストアマネージャー 庄内優斗さん:
今、ちょうど「唐揚げの出来立て」をお伝えするようになっている。
突然、流れ始めたのは、唐揚げのでき立てを知らせる動画。トライアルでは、店内すべてのデジタルサイネージが連動して、惣菜などの「出来立て情報」が一斉に流れるようになっている。
トライアルホールディングス 永田洋幸取締役:
「揚げたて」と伝えることで、惣菜の売り上げは上がる。視覚と聴覚を使ってお客様に提案することも進めている。
――サイネージを広告媒体として、メーカーや卸売業者からお金を取って広告を流すこともするのか?
トライアルホールディングス 永田洋幸取締役:
それも進めさせてもらっている。
――カートも、店の中の画面も、実店舗そのものがメディアになるということか。
トライアルホールディングス 永田洋幸取締役:
いい言葉をありがとうございます。その通り。(テレビの強敵で)大変申し訳ございません。
トライアルは、郊外の大型店とは対照的に、都心部では小型店「トライアルGO」の出店を増やしている。品揃えは総菜などの食料品が中心。ここで「セルフレジ機能」付きカートの代わりに、試験導入が進められている「DX技術」がある。
トライアルGO福岡別府3丁目店 南田圭祐店長:
顔認証を登録してもらい、そのままお支払いすることも可能。
セルフレジに付けられた「顔認証機能」。NECと共同開発したもので、顔とクレジットカード情報などを事前に登録しておけば、財布やスマホ要らずで、買い物をすることができる。
――「トライアルGO」。コンビニとの差別化は、どう意識しているのか。
トライアルホールディングス 永田洋幸取締役:
基本レジが“無人”な分、価格帯が安い。
――圧倒的な価格の優位性で、都心部でも競争していきたい?
トライアルホールディングス 永田洋幸取締役:
メルカリや、公共料金の対応をしなければいけないとか、あとは専門のコピー機も置かなければならないとか、コンビニはやることが多い。「食を支える」ことにフォーカスすれば、トライアルGOのニーズはある。
トライアルがディスカウントストア事業を手掛けたのは1992年。それ以前は、福岡県で家電量販店を展開しており、パソコン機器やソフトの開発を行っていた。そうした背景から、現在トライアルの店内で使われているデジタル機器の多くは自社で開発されたもの。今、最も力を入れているのが、多い店舗では500台以上設置しているという「AIカメラ」だ。
IT駆使で激安価格「トライアル」 AIカメラで欠品を自動検知
トライアルホールディングス 永田洋幸取締役:
こちらの棚は、(AI)カメラで欠品を確認している。この緑の枠は問題ないのに対して、赤い枠で、売り場責任者に「商品を補充してくださいと(知らせる)」。
――売り場の人が、常に見回らなくて済むと同時に、発注情報に活かすことができる?
トライアルホールディングス 永田洋幸取締役:
(発注に)活かすことも難しくなく、現時点で進めている。メーカー・卸会社と(欠品情報を)共有することで、スムーズな流通の流れを作ることができる。お互いの収益化をもっと目指せる形を取らないといけない。
トライアルの独自推計によると、流通小売業界に存在するムダは、約40兆円にものぼるという。
福岡を「日本のシリコンバレー」に。トライアルが挑む「流通情報革命」
こうしたコストを企業の垣根を越えたDX化で削減する――。そんな壮大なプロジェクトが今、トライアルが中心となり福岡県で進められている。福岡県・宮若(みやわか)市。トライアルグループのリテールDX開発拠点だ。
廃校を利用した施設の中にはメーカーや物流会社など様々な企業の看板が並ぶ。宮若市でのプロジェクトには約50社が参加し、トライアルが今まで集めてきた(購買)データを使って、各社の分析をしてもらい、客の新たなニーズを発見したり、それによって商品開発につなげたり、マーケティング活動に使ってもらっている。
この日、打ち合わせをしていたのは花王とサントリー。両社が進めていたのは、トライアルが持つ匿名化された購買データを基にした、効果的な販売促進。実際にサントリーの「ほろよい」などを購入した客に、花王のハンドクリームのクーポンが、トライアルのレジカートで提供された。同じ客層をターゲットにした戦略だ。
花王グループ カスタマーマーケティング株式会社 浮田弘明さん:
なかなか関わることのない業界で、データも(普段は)見ることがないが、今回、「データ相関性が高い」というデータも見ることができたので、今回(コラボの)実現にいたった。
業界の垣根を越えて、生産性を高めていく――。それがトライアルの目指す「流通情報革命」だと永田取締役は話す。
トライアルホールディングス 永田洋幸取締役:
みんなで一緒にあれやこれや実験をやっていこうと。取引ではなくて、流通全体を変える「流通情報革命」をつくるための取り組みを進めている。
――トライアルにとっては、貴重な生データを第三者に共有することになるが、抵抗感はないのか。
トライアルホールディングス 永田洋幸取締役:
競合でもあるが、そこを言うとアメリカのシリコンバレーで起きたようなイノベーション(変革)は起きない。データDXの中で、あくまでもB to C(企業→消費者)のお客様だけではなく、メーカー・製造(会社)まで踏まえたB to B to CのDX(デジタルトランスフォーメーション)を考えていかないと、この5年後10年後、流通業は生き残れないと考えている。
IT駆使で激安価格を実現した「トライアル」 ディスカウント店の“異端児”
福岡に本拠を置くディスカウントスーパーマーケット「トライアル」。どんなグループか改めて見てみる。トライアルの売上高は24期連続で増収。2024年は7179億円で、来期は8000億円を超える見込みとなっている。
そして店舗数もここ10年で倍以上増えている。2024年9月末時点で327店舗となっており、最も多いのが九州の127店舗、北海道でも30店舗、関東で57店舗と全国36道府県で展開している。
――レジカートの「タブレット付き」というのは、レジのために考えたのではなく、元々は店内を買い物中にクーポンが来るようにタブレットをつけた。それだけだと客がカートを使ってくれないので、レジ機能をつけたら使うようになった。クーポンは、夜中などにアプリに届いただけなら、見逃したり、忘れやすいが、現場にいて、商品が目の前にあるときにクーポンが来ると、効果が違う。
早稲田大学ビジネススクール 教授 入山章栄氏:
確かに違う。小売りという比較的、労働集約的でアナログなところに、デジタルテクノロジーを組み合わせることを「リテールテック」というが、まさに日本の先駆けの会社の一つだ。
トライアルはAmazonが出てきても強いといわれる、アメリカ最強の小売り「ウォルマート」をかなり参考にしてると聞いている。確かにウォルマートぽい。ウォルマートというのは実はものすごいデジタルの会社で、デジタルを組み入れているから強い。それを日本流にアレンジして、すごくきめ細かいデジタルを入れているという印象を持った。
「技術」についてまとめてみた。「レジカート」。それから店内中に「デジタルサイネージ」があって売り場ごとに変えたり「今唐揚げ出来立て」と打ったり、広告媒体としても売っている。もうテレビの強敵になっている。それから、「AIカメラ」があちこちにあって、在庫の管理や場合によってはその在庫の状況を見て値づけを自動的に変えることも技術的には可能。そして「顔認証レジ」がある。
――デジタル技術を生かすことによって、コスト削減ができるということか。
早稲田大学ビジネススクール 教授 入山章栄氏:
日本にとって、これは本当にチャンス。なぜかというと、人口が減るから。今は労働力不足。特にトライアルが出店している地方は本当に人手が足りない。だからむしろこういうところにデジタルを入れることで、一見最初のコストはかかってるように見えるが、長い目で見ると、圧倒的にコストも抑えられるし、人手不足問題も解消できる。
――人手不足に対応するためのサステナブルな店作りという面もある。あと、食品ロスなども問題もデジタル技術を使ってうまく管理すれば、最小化できると。これもサステナブルな店作りだと言っていた。
早稲田大学ビジネススクール 教授 入山章栄氏:
流通小売りは、まだまだ無駄が多い。今までアナログだったので無駄が取れなかったが、AIとか、需要に応じて価格を変えるダイナミックプライシングとか、そういうことをどんどん入れることで、様々な小売り部分の無駄を取っていこうということだと思う。もう一つは、スマートフォンの中だけで買い物をするよりも、人はリアルのお店にも行きたい。そこに人が集まるから、そこにテクノロジーを入れて、リアルの現場でお客さんが楽しく買い物できる。そこに広告を載せて、場所そのものがメディアになっていく。
――「非計画購買」が刺激されて、お買い物も楽しくなるという、まさに「デジタル」と「リアル」融合の実験が行われている。
(BS-TBS『Bizスクエア』 11月23日放送より)
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