東京の病院が、親が育てられない子どもを匿名で預かる「ベビーバスケット」、いわゆる「赤ちゃんポスト」の運用と、妊婦が医療機関のみに身元を明かして出産する「内密出産」も受け付けが始まりました。
「赤ちゃん遺棄を回避する最終手段」都内で“赤ちゃんポスト”の運営を開始
賛育会病院 賀藤均院長
「赤ちゃんの遺棄や虐待を大逆転より死亡を回避するための、緊急でかつ最終的な手段であると認識しています」
親が育てられない子供を匿名で預かるベビーバスケット、いわゆる赤ちゃんポストの運営を開始したのは、都内の賛育会病院です。
賛育会 中村基信 常務理事
「生まれたばかりの赤ちゃんがコインロッカーや公園や海岸に置き去りにされることが繰り返される現実を踏まえると、母子の保護、保健の充実の必要性は現在も増している」
こうした取り組みは、医療機関としては2007年に開始した熊本市の慈恵病院に続いて、全国で2か所目。また、妊婦が医療機関以外に身元を明かさずに出産する“内密出産”も同時に開始しました。
これまでも様々な事情を抱えた妊婦たちに手を差し伸べてきた賛育会病院。なぜこの取り組みを始めたのでしょうか?
賛育会病院
「熊本の検証を読むと、首都圏から熊本まで行っている人たちが多くて、慈恵病院の半分以上は首都圏からだった。じゃあ首都圏の病院はどうしたらいいのか。小児科・産科はいろんな思いがあった」
「このままだと無理がある」賛育会病院が始めた取り組みと課題
親子を取り巻く現状は切実です。
2022年、北海道の千歳市で駅のコインロッカーから赤ちゃんの遺体が見つかった事件。殺人と死体遺棄の罪に問われたのは当時22歳の母親。
誰にも相談せず、たった1人でホテルの浴室で出産し、赤ちゃんを浴槽に沈めました。交際相手に金を要求されて働いていた風俗店で、客に暴行されたことが妊娠の理由でした。
こうした孤立出産の末に、乳児を遺棄する事件は後を絶ちません。
こども家庭庁の最新の調査によると、2022年度に虐待で亡くなった子供は心中を除くと56人。0歳児は25人で半数近くを占めていて、このうち9人は生まれたその日に亡くなっています。
今回、賛育会病院が始めた取り組みでは、赤ちゃんを保護した後、一定期間預かり、その後は児童相談所が中心となって、乳児院や里親に繋ぐということです。
この仕組みについて、都内の児童相談所の所長は、取材に対してこう話します。
都内の児童相談所 所長
「事情があって産めない人は確かにいる。人口が多い関東に赤ちゃんポストができるのはいいことだと思う」
一方で課題も指摘されています。
都内の児童相談所 所長
「施設の赤ちゃん受け入れ可能数は多くない。里親も、乳児を預かったことがない方にすぐ預けるのは難しい。このままだと無理があるのではないか。自治体間で協力する取り決めをした方が良かったのではないかと心配しています」
「託された子供たちを幸せに」求められる社会の仕組み
内密出産の費用はどうするか。
熊本の慈恵病院では病院が負担しますが、東京の賛育会病院では50万円ほどの費用が原則自己負担になります。その理由の一つは、病院のキャパシティを超えて、預け入れが殺到することを避けるためです。
しかし、国内で初めて内密出産を始めた慈恵病院の蓮田院長は、こう話しました。
慈恵病院 蓮田健院長
「失礼ながら懸念ではなく失望。女性たちからすると、『裏切られた』という気持ちになる。そこが一番問題。お金のことで、こういう方針を立てられるということは、例えば心のケアや、今後赤ちゃんをどうやって育てていくか、あるいは育てないか、いろんな相談をしないといけないが、それが女性たちの気持ちを汲むというよりも、彼女たちのことを考えてない」
慈恵病院のコウノトリのゆりかごに預けられた宮津晃一さんは、3歳から里親の家庭で育ちました。今回の取り組みを評価した上でこう話しました。
「こうのとりのゆりかご」 に預けられた 宮津航一さん(21)
「『預けられて良かった』というところで終わりではなくて、託された子供たちが幸せに暮らさなければいけない。病院だけでもいけない。行政だけでもいけない。社会だけでもいけない。それぞれが手を取って連携して、そういう仕組みが求められるんだろうなと思う」
内密出産を選んだ理由 9割以上「親に知られたくない」
小川彩佳キャスター:
東京に新たな“赤ちゃんポスト”設置、そして内密出産も開始されたことで、様々なリスクや課題が指摘されています。
ただ、今辛い思いをしている、追い込まれている母を何とかして救いたい、子供たちを守りたいという思いは、皆さん一緒なんだと思います。トラウデンさんいかがでしょうか。
トラウデン直美さん:
本当に困っていて、にっちもさっちもいかないという人たちにとって、東京にそういった場所が一つできるのは、新たな選択肢として大事なことだなと思います。
藤森祥平キャスター:
匿名で出産するという“内密出産”は熊本の慈恵病院では既に行われており、これまでに47人の赤ちゃんが生まれています。
母親に内密出産を選んだ理由を聞くと、9割以上が「親に知られたくない」という答えでした。性被害やDVなどのケースは例外的であって、10代や20代からの相談が多いそうです。
そして今、課題として挙げられている内密出産の費用について、熊本の慈恵病院は病院側が負担している一方で、東京の賛育会病院は原則本人負担であると発表しました。これについて、内密出産に詳しい千葉経済大学短期大学部の柏木恭典教授に話を聞きました。
柏木教授は、東京の賛育会病院の原則本人負担であることに理解を示しています。なぜかというと、1000人規模の東京の中、1か所だけで負担するというのは無理があるからです。とにかく今は、誰が負担するのかということを問いかけていくきっかけになったのではないか、という受け止め方をされています。
また、柏木教授は「法律がある国以外では寄付金を集めていて、日本で集まるかどうかは不透明」と話し、病院の取り組みについては理解を示しているということでした。
実際に運用が始まっても、賛育会病院はお金を払えない状態にはならないのではないかと柏木教授はおっしゃっていました。
トラウデン直美さん:
病院側は子どもの命を助けたいという思いで始めていることは間違いないです。ですが、ずっと無料でやっていくという形になって、病院側が経済的に難しくなってくると、それを見て始めようと思う病院もなかなか出てこないと思います。
病院一つが頑張るというよりは、社会全体でどういったサポートが必要なのかを考えていくべきかなと思います。
内密出産の法整備進むドイツでの取り組み
小川彩佳キャスター:
東京での開始が一石を投じたという形にはなっていますが、赤ちゃんポストも内密出産も命を守る最後の砦です。
皆さんどう思われているんでしょうか街で聞きました。
女性
「どうしようもなく苦しんでいる人の、最後の手段としてはありなのでは。内密出産にいたらないように、相談窓口を充実させることじゃないか」
男性
「もっと利用しやすい環境。それが一般的まではいってはいけないですけれども、もう少しそういう選択肢があると私も知らなかったので、周知があると(いい)」
女性
「女性目線で言うと、どうして女性だけが罰せられるのか。子供が生まれるというのは、その子供の人生を背負う。責任を持った行動なのか、きちんと判断できるような考え方・学び方がすごく必要なのではないか」
小川彩佳キャスター:
確かに母子の問題として語られがちですが、そうではないですよね。
藤森祥平キャスター:
こうした問題の現状を、一人ひとり知り、全体で広めていくこと、理解し合うことを早めないといけないなと感じますよね。
海外の事例を柏木教授に伺いました。ドイツは法整備が進んでいて、内密出産の費用は国が負担します。また母親が一部職員にのみ身元を明かすそうです。
さらに街に出ると、「妊娠したけど誰にも知られたくない?私たちが助けます。匿名で安全に」「どんな女性でも、望まぬ妊娠をする可能性があります」というメッセージが書かれた掲示があります。
例えば私もこのようなメッセージを目にすれば、言い換えると「どんな男性でも望まぬ妊娠をさせる可能性があるんだな」って感じることもできますし、何かのきっかけになりますよね。
小川彩佳キャスター:
日本でこうした広告を目にすることはなかなかないですし、そもそも知られていないですよね。内密出産というものが、何かタブー視されているようなところもある気がします。
もっと言うと性教育の一環として、内密出産などをいろんな形でよりフラットに知る機会があったらいいなと思います。
トラウデン直美さん:
タブー視していると、その裏に隠れている問題が全部隠されて、それによって苦しんでしまう人も増えると思います。街中に相談できる窓口の案内が掲示されているというのは、とても精神的なサポートになると思います。
行政の支援や、窓口というような目に見える支援の形だけじゃなく、社会の偏見をなくしていくなど、見えない部分での精神的なサポートも必要だと思います。
また、内密出産に至ってしまうまでの性教育や、孤独になってしまう環境をどのように解消していくかなど、全体を通しての支援もものすごく必要だと思うので、やっぱりいろんな方面からアプローチをしていかないといけないと思いますね。
藤森祥平キャスター:
ドイツでは、内密出産の法整備をしたからといって急激に増えたわけではなく、横ばいだったと柏木教授も言っていました。赤ちゃんポストの利用自体は、ドイツでは減ったそうなんです。こうしたことも冷静に捉えて考えていった方がいいですよね。
小川彩佳キャスター:
生まれてきた赤ちゃんたちをどうサポートしていくか。そこがスタートでもあります。
トラウデン直美さん:
望まない妊娠であったとしても、自分で育てることが辛く苦しい道で(自分で育てることを)選択肢として取れないという判断ではなく、望まない妊娠だったとしてもいろいろなサポートや力を借りて、育ててみることができる。それも選択肢に入ってくるというような社会を、周りと一緒に作っていくことが大事なのかなというふうに感じます。
藤森祥平キャスター:
日本でも妊娠に関する悩み事を相談できる「妊娠SOS相談窓口」というものが全国にあり、それぞれの自治体が独自の取り組みをしています。ぜひ相談してみてください。
『「内密出産」の支援制度』について「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『「内密出産」の支援制度』について「みんなの声」を募集しました。
Q.「内密出産」の支援制度導入 どう思う?
「積極的にすべき」…16.7%
「賛成だが、費用負担を減らすべき」…33.2%
「賛成だが、費用負担をなくすべき」…21.8%
「導入は慎重にすべき」…20.2%
「反対」…3.8%
「その他・わからない」…4.3%
※4月2日午後11時19分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは3日午前8時で終了しました。
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<プロフィール>
トラウデン直美さん
Forbes JAPAN「世界を変える30歳未満」受賞
趣味は乗馬・園芸・旅行
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