パレスチナ自治区・ガザで戦闘を続けるイスラエルとイスラム組織「ハマス」が6週間の停戦で合意しました。“恒久的な停戦につながるか”注目されていますが、アメリカのバイデン大統領とトランプ次期大統領にとって肝心なのは「停戦が誰の成果か」ということのようです。
ハマスとイスラエル 停戦合意 戦闘開始から1年3か月
市民
「停戦だ!故郷よ!」
町に人々の笑顔が溢れた夜。
ガザでこんな表情が見られたのは、いつ以来のことでしょうか。
市民
「私たちはこの喜びを1年半も待ち望んでいました。いま感じている気持ちは、誰も想像できないものです」
「破壊された自宅を再建したいです。住んでいた場所にに戻りたいんです」
停戦の知らせは、日本時間の1月16日未明に伝えられました。
カタール ムハンマド首相兼外相
「ガザ地区で戦闘している双方が、恒久的な停戦に至ることを目指すと合意したことを、ここに宣言できることをうれしく思います。これが戦争の最後の1ページとなることを願っています」
2023年10月から続いていた、イスラエルとイスラム組織「ハマス」の戦闘が、ようやく停戦の合意までたどり着いたのです。
市民
「自由がほしい!占領者(イスラエル)がいない状況で暮らしたい」
今回、両者が合意した内容は、まず第1段階として、1月19日から6週間の停戦。
この間にハマスは人質およそ100人のうち、女性や高齢者、けが人など33人を解放し、イスラエルは拘束しているパレスチナ人数百人を釈放することになっています。
またイスラエルは人口密集地から、軍を撤退させるということです。
第2段階では、イスラエル軍がガザから完全撤退し、ハマスは全ての人質を解放。「恒久的な停戦」を目指します。
そして、最後の第3段階では、ハマスが死亡した人質の遺体を引き渡した上で、 ガザの復興計画が始まるということです。
バイデン・トランプ 両者が成果アピール
カタールと一緒に仲介を続けてきた、アメリカのバイデン大統領は…
バイデン大統領
「これは私がこれまで経験した中で最も厳しい交渉のひとつだ。アメリカの支援のもと、イスラエルがハマスに圧力をかけ合意に達することができた」
今回の合意は、自らの外交成果だと誇りました。しかし…
記者
「あなたの功績?それともトランプ氏?」
バイデン大統領
「それはジョークか?」
就任前から、存在を際立たせているトランプ氏。今回の合意について自身のSNSでは…
トランプ次期大統領
「この壮大な停戦合意は、11月(大統領選挙)の歴史的な勝利があったからこそ実現した!」
次の大統領補佐官に指名されているウォルツ氏も、「トランプ効果だ!」とトランプ氏を盛り上げます。
かねてから、早期停戦に意欲を示していたトランプ氏。
トランプ次期大統領
「もし、就任前に交渉が終わらなければ、 あと2週間で中東に地獄が起こる。ハマスにとっても、誰にとっても良くないことだ」
特使をイスラエルに派遣し、アメリカとの関係を重視するネタニヤフ首相に圧力をかけていました。
イスラエルの首相府は、停戦が合意された1月15日の夜、ネタニヤフ首相が電話でトランプ氏に感謝を伝えたと明かしました。
バイデン大統領にも電話で感謝を伝えたということですが、トランプ氏の「次」だったそうです。
停戦合意後にガザで70人以上死亡
イスラエルに対するハマスの奇襲から始まった戦い。この攻撃で、イスラエルでは約1200人が殺害され、250人以上が人質としてガザ地区に連れ去られました。
そして「ハマス壊滅」を目標に掲げ、 ガザへの攻撃を開始。避難民のキャンプや学校など、戦争とは関係ない場所が次々に襲われました。戦闘によってガザの町は、様変わりしました。
市民
「これは一体何なのでしょうか?そこには診療所があり、子どもたちがいます。これは許されないことです。これは不正義です。見てください、殉教者たちの体の一部がどのように崩壊しているのかを」
ガザでの死者は、4万6000人以上にのぼると当局は発表していますが、イギリスの大学は推定で7万人を超えているとする論文を発表しています。
これまで何度も停戦に向けて協議が行われてきましたが、戦闘が一時停止したのは2023年の11月で、わずか7日間でした。
市民
「うんざりです。休戦を望んでいます。子どもたちは寒さや飢えで粉々になり死んでいく。こんな人生がいつまで続くのか?」
今回の停戦合意が発表されたあとも、イスラエルの攻撃は続き、ガザで70人以上が死亡したということです。
市民
「(停戦の発効まで)大切な人を失うことがないよう、そしてこの狂気の戦争で傷つくことがないように。私がこうして話している間にも、四方八方から発砲の音が聞こえてきます」
イスラエル政府は、16日に閣議を開き、「停戦合意」を承認する見通しでしたが、イスラエルメディアは先ほど、閣議の開催自体が延期されたと報じました。
市民からは、本当に人質が帰ってくるのか不安な声が聞こえてきます。
市民
「(人質となっている)いとこが生きているかどうかも分かりません。人質全員が帰ってくるとは思えず不安です」
今後の焦点となる「恒久的な停戦」。さらわれた家族は、そしてガザの平穏な日常は戻ってくるのでしょうか。
“なぜこのタイミング?”トランプ氏の影響は…
小川彩佳キャスター:
6週間の停戦合意ということですが、須川さんは双方を取材する中で、この意味をどう感じていますか?
須賀川拓 記者:
私の知り合いで、今も甥っ子がガザの前線にいるイスラエル人の言葉なんですが、「本当に深く分断された。イスラエルはこれから何十年も地獄を見ることになるだろう」と話しています。また、ガザにいる友人は、「これほど悲しみにあふれた喜びはない」と話しています。
戦争は一旦止まるかもしれない。それは非常に喜ばしいことですが、だからといってイスラエルによる占領と抑圧が終わるわけではない。そこに対する深い悲しみがあるんじゃないかと感じています。
藤森祥平キャスター:
1年と3か月ほど続いている長い戦闘です。なぜこのタイミングで、待ちわびていた停戦合意に至ったのでしょうか。
須賀川拓 記者:
バイデン大統領、トランプ次期大統領、ネタニヤフ首相、3者の政治的な思惑が、今のタイミングで一致したということだと思います。
まずバイデン大統領は、残りわずかな任期が終了する前に、どうしても「レガシーを残したい」という思惑があります。
トランプ大統領は、就任を目前に控えているので、「和平交渉の立役者である」とアピールしたい。
そして、ネタニヤフ首相は、対イランを含めて、外交安全保障はアメリカなくして成立しないわけです。そうすると、どうしてもアメリカに、トランプ大統領に、最大の恩を売っておきたい。だからこそ、一番最初に電話したのは、バイデン氏ではなくトランプ氏だったのだと思います。
停戦のタイミングは、はるか前にもありました。今回1月19日が停戦開始の予定とされていますが、この3か月前にハマスの最高指導者・シンワル氏が、イスラエルに殺害されています。この時点で、ハマスという組織自体のほとんどが瓦解している状態でした。そのタイミングが、最大のチャンスだったわけです。
結局そこで停戦をしなかった。そこから3か月の間に、5000人の死者が出ています。この人たちは、それぞれの当事者の政治的な思惑によって殺されてしまったと言っても過言ではないと私は思います。
小川彩佳キャスター:
為政者の思惑とタイミングによって、人々の命が大きく左右されてしまってるということですね。どうしようもなく、やるせなさを覚えます。
データサイエンティスト 宮田裕章さん:
深く刻まれた悲しみや憎しみが渦巻く中で、これが簡単に消えるというのは難しいだろうなと思います。その中でトランプ氏がこれから大統領になり、イニシアチブを取っていきます。彼は「ディール」や「力による平和」という言葉を使っているんですよね。非常に違和感のある表現ではありますが、そういった中で日本がどう立ち回っていくのかも、これから考えていかなくてはなりません。それは軍事力でなく、外交力やネットワークの構築、あるいは技術など様々な貢献の中で、和平を積み上げていくしかないと思います。
藤森祥平キャスター:
この合意に至った停戦については3段階で構えられていますが、肝心なのはこれが守られるかどうかです。
須賀川拓 記者:
それぞれ段階がありますが、やはり第二段階の「恒久的な停戦」が非常に重要になってくると思います。ネタニヤフ氏は、今連立を組んでいますが、戦争をどうしても続けたいという政治家もいるので、恒久的な停戦をしてしまうと、彼の連立政権も、立ち行かなくなってしまう。
そのため、この恒久的な停戦に行く前に、人質が一部解放された後に、何らかの理由をつけて戦争を再び再開させて、自分の政治勢力を伸ばそうとする可能性もまだ考えられる、非常に危うい状況だと思います。
停戦合意は守られるのか?
小川彩佳キャスター:
この3段階の停戦合意を、意義のあるステップにできるかどうかということですよね。
伊沢拓司さん:
ネタニヤフ氏も民意や、お互いへの敵意というものが、右派の支持の母体となっているとなると、人々の敵意を取り去らないことには、根本的な解決はないわけです。しかし、それはとても難しいことですからね。
そして、やはり心配なのは、ガザの人たちだと思います。一時的な停戦は喜ばしいことだと思いますが、須賀川さんから見て、ガザの人々への人道的な支援やサポートは速やかに行われる状況なんでしょうか。
須賀川拓 記者:
そこに関しては、非常に皮肉ですが、ネタニヤフ氏は、和平を導いていることをアピールしたわけですから、その意味では、少なくとも最初の段階では、ガザへの支援はスムーズに行われるでしょう。しかし、それはあくまでも演出だという部分も拭えないんじゃないかなと思います。
データサイエンティスト 宮田裕章さん:
今後のリーダーシップを誰が取っていくのかも非常に難しいところですよね。トランプ氏は、国益の範囲でしか関わらないと言っていたり、何をするのかわからないところが、今回ネタニヤフが停戦に合意した、一つの要因かもしれません。しかし、色々な国がひしめく薄氷の上で、根本的な解決の道を探っていかなくてはいけないというところですよね。
須賀川拓 記者:
根本的な解決のために、どこによりどころを求めるかというと、やはり国際規範なんですよね。まず、2023年10月7日のハマスによる、イスラエル側の民間人の殺戮を考えなければならない。これはしっかりと責任者は国際法で裁かれなければなりません。
一方で、イスラエルの戦争犯罪の疑いもあります。国際法に反した占領政策も同様に裁かれなくてはいけない。そうしていくことで、少しずつ国際的規範を取り戻していけますが、今の状況は停戦しただけで、占領政策は一切変わってないわけです。
停戦は非常に喜ばしいんですが、状況は振り出しに戻っただけだということを、もう一度確認する必要があるんじゃないかと思います。
===============
〈プロフィール〉
須賀川 拓さん
23ジャーナリスト
前JNN中東支局長
ガザ・イスラエル・イラン・シリアなど中東地域を取材
伊沢拓司さん
株式会社QuizKnock CEO
東京大学経済学部卒 クイズプレーヤーとして活躍中
宮田裕章さん
データサイエンティスト
慶応大学医学部教授
科学を駆使して社会変革に挑む
・【検証】「布団の上に毛布」が暖かい説 毛布は布団の「上」か「下」か 毛布の正しい使い方【Nスタ解説】
・「パクされて自撮りを…」少年が初めて明かした「子どもキャンプの性被害」 審議進む日本版DBS “性暴力は許さない”姿勢や対策“見える化”し共有を【news23】
・スマホのバッテリーを長持ちさせるコツは?意外と知らない“スマホ充電の落とし穴”を専門家が解説【ひるおび】