トランプ大統領の就任に向け、アメリカの企業がいままでの価値観をかなぐり捨てるかのような動きが広がっています。日本にとっても重要なアメリカ企業。その未来は大丈夫なのでしょうか。
「トランプ2.0」始動へ 就任式前に大規模“凱旋集会”
USAコールに包まれたアメリカ大統領就任式、前夜。
トランプ次期大統領
「“勝つ”っていうのは良い気分だな」
詰めかけた約2万人の支持者を前に、バイデン政権からの大きな政策転換を宣言します。
トランプ次期大統領
「失敗し腐敗したワシントンの政治体制に終止符を打つ。“失敗政権”にはもう我慢の限界だ。アメリカを再び偉大にする」
これまで、トランプ氏は就任したら直ちに不法移民の強制送還に着手するほか、関税を引き上げて、「アメリカ国内に何千もの工場を戻す」と表明してきました。
FOXニュースは、関係者の話として就任式当日(20日)に、トランプ氏は200以上の大統領令や指示を出すとも報じています。
集会には、すっかりトランプ氏の“盟友”となったイーロン・マスク氏と…
政府効率化省に指名 イーロン・マスク氏
「すみません。息子のエックスがついてきちゃいました。見ての通り、この子も熱心な支持者です」
マスク氏の息子・エックスくんが一緒に登場。トランプ次期政権を盛り上げました。
イーロン・マスク氏
「アメリカを再び偉大にしましょう!」
「トランプ2.0」始動前に、早くも社会に“ある変化”が起こっています。
「トランプ2.0」前に“変わる社会” 企業から消える“多様性”
保守派のシンクタンク(ヘリテージ財団)の調査で、アメリカの大企業の96%が取り組んでいるという「DEI」。
「多様性=Diversity」、「公平性=Equity」、「包括性=Inclusion」、それぞれの頭文字から「DEI(ディー・イー・アイ)」と呼ばれる理念で、多様性や公平性などを尊重する組織や社会を目指すものです。
しかし、有名企業が相次いでDEI目標の撤廃や引き下げを発表しています。
ハーレーダビッドソン(去年8月の声明)
「現在、社内にDEIの任務はありません」
マクドナルド(6日の声明)
「私たちは野心的な目標設定を廃止します」
背景には、やはりトランプ氏が。凱旋集会でも…
トランプ次期大統領
「破壊的で分断を生む『Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)』の強制をやめる。政府と民間すべてにおいて、この国を実力主義に戻す」
こうした発言をたびたびしていたトランプ氏。
呼応するように、保守派の間にも「反DEI」の動きが広がりました。
その急先鋒に立つ人物がいます。
スターバック氏のSNSより
「DEIの方針をひっくり返した。新たな会社はマクドナルドだ」
「今こそトヨタの正体を暴く時だ。完全におかしな方向に進んでいる」
SNSの総フォロワーが、120万人を超えるインフルエンサーのロビー・スターバック氏です。
DEI政策を積極的に進めてきた大企業に攻撃の矛先を向け、「特定の人たちを優遇することで不公平を生み出す」と企業に対する不買運動をSNSで呼びかけています。
過去には、スターバック氏の投稿にマスク氏が返答したこともあります。スターバック氏の投稿で批判を受けた企業の中には、株価が下落するところもありました。
なぜ、企業のDEI目標を狙い打ちにするのか。
アメリカ南部・テネシー州の自宅には、撮影用のスタジオが設けられ、一角には
DEI目標を撤廃・縮小した企業の発表文が飾られていました。
その中には、日本企業のトヨタ自動車もありました。
インフルエンサー スターバック氏
「企業の何百万人、何千万人の従業員がフェアな職場で働けるようになったことへの誇りを感じさせるものなんだ」
スターバック氏は、キューバからアメリカに逃れてきた一族出身。ハリウッドで、ミュージックビデオの映像監督として活躍していましたが…
スターバック氏
「10年前にトランプ氏の支持を表明する決断をしましたが、当時のハリウッドではとても不評だった」
リベラルなハリウッドから、保守的な土地柄を求めてテネシー州に移住。
バイデン政権が重視したLGBTQの権利拡大や、マイノリティの登用促進などリベラルな政策が行き過ぎだと感じるようになり、1年前から批判のメッセージを積極的に発信するようになったといいます。
スターバック氏
「私の子どもたちが、マイノリティだから採用されたなんて思われたくない。採用されたのは実力なんだとわかってほしい。どのマイノリティも自分自身を信じるべきだよ」
当然、懸念の声も上がっています。
黒人農業者団体 会長 ボイド氏
「アメリカは白人だけの国じゃない。(顧客には)私のような黒人や、ヒスパニックの女性もいるんだ」
黒人農業者団体会長・ボイド氏は、DEI理念を撤回した農機具販売店には商品を「もう買いに行かない」と話します。
ボイド氏
「トランプがこの国で台頭し、より声の大きい白人のためのアメリカにしていっている」
ただ専門家は、アメリカでは広くDEIの理念は支持されていて、企業の間でも水面下で取り組みは続くと指摘します。
ジョージア・カレッジ&ステート大学 ジョアンナ・シュワルツ教授
「次の政権が何をするのか、誰も正確にわかっていません。だから、企業や人々は慎重な姿勢を崩さずにいようとしています」
変容する“多様性”どうなる?
小川彩佳キャスター:
トランプ氏の大統領就任が迫るなか、それに呼応するようにアメリカ国内でも“内向き”の姿勢に拍車がかかっている印象を受けますね。
東京大学准教授 斎藤幸平さん:
アメリカの中で戦争によるインフレや格差などによって、多くの人々が苦しんでいるなか、DEIはリベラルのエリートが使う綺麗事だという不満がたまっていました。今回、大統領選でトランプ氏が当選したことで、政治不信・メディア不信・エリート不信が一気に噴出し、トランプ氏がひっくり返してくれるという期待に多くの人が同調した結果だと思います。
ただ、こうした不信感はアメリカだけでなく、日本でも広がってきているのが気になります。兵庫県知事選や中居正広さんに関するメディアの報道に対する人々の不満が可視化されてきています。
すでに国内での影響が出ている中で、不満をぶつけたところで「結局なにも変わらないじゃないか」と人々が気づいて反省するのか、このまま悪い方向にもっと進んでしまうのか、日本も大きな分岐点に立っていると思います。
“政策転換”で日米関係は?
藤森祥平キャスター:
この「多様性」を見直す動きの姿勢は、トランプ氏の大統領就任とともにさらに加速しそうです。
これまで掲げていた、「不法移民の強制送還」や「関税の引き上げ」などの政策を
ただちに実行に移すとしていて、就任から数時間以内に200本もの大統領令に署名するとも言われています。
小川キャスター:
ものすごいスピード感に思えますが、就任初日から政策を急ぐ背景にはなにがあるのでしょうか?
TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん:
実はトランプ氏に与えられた時間はあまり多くありません。1期(4年間)しかなく、2年後にはもう中間選挙が控えています。
中間選挙は、歴史的に政権与党に厳しい結果となることが多く、今はとにかく成果を上げなければいけません。大統領令の連発は、トランプ大統領の残り時間の少なさや焦りの反映だと思っています。
藤森祥平キャスター:
トランプ氏の思惑はうまくいくのでしょうか?
星浩さん:
気になるのが“盟友”であるイーロン・マスク氏との関係性です。マスク氏は、移民を追放したくないんです。優秀なIT人材が移民として入ってくるし、労働力としても欲しいので。
しかしトランプ氏を支えてきたグループは、絶対移民を許さず、国境の壁も強化しろという姿勢なので、この2つのグループはいずれ対立することになると思う。
小川キャスター:
不透明感がまだまだ強いトランプ政権に日本はどう向きあえば良いのでしょうか?
斎藤幸平さん:
日本はアメリカに弱いですからね。DEIやSDGs、マイノリティへのアメリカ国内での認識が日本で広がったときに、耐えられるかがこれからの4年間、日本では問われることになると思う。
外交に関して言えば、中国とアメリカの対立は深まっているので、その橋渡しを本来であれば石破さんに期待したいところです。
藤森キャスター:
その期待される日本政府ですが、星さんによりますと、トランプ氏による“方針転換”に備え、日本政府も水面下である“キーパーソン”への アプローチを進めてきました。
その人物こそ、大統領補佐官(国家安全保障担当)に指名されているマイク・ウォルツ氏ではなく、その妻のジュリア・ネシェワット氏だといいます。
星浩さん:
ウォルツ氏は、外交安全保障の“司令塔”になるのでキーパーソンになるが、奥さんのネシェワット氏は実は東京工業大学(現・東京科学大学)に留学経験があり、夫婦揃って日本通。
不透明感の多いトランプ政権のなかで、 日本との数少ない繋がりのため政府も“攻めどころ”だと思い、日本の政府高官もすでにウォルツ氏に接触しています。
2月にも予定されている日米首脳会談の実務などは、ウォルツ氏が仕切るとみられていて、日本としてはアメリカに対して「孤立主義はアメリカにとってもマイナスだ」と説くべきだと思います。
アメリカ企業の「多様性」など見直しについて「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『米企業の「多様性」など見直し』について「みんなの声」を募集しました。
Q.米企業で「多様性」などを見直す動き 日本企業にも波及する?
「波及する」…30.2%
「波及するが一部にとどまる」…42.1%
「波及しない」…21.2%
「その他・わからない」…6.4%
※1月20日午後11時17分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
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〈プロフィール〉
斎藤幸平さん
東京大学准教授 専門は経済・社会思想
ドイツ在住 著書『人新世の「資本論」』
星浩さん
TBSスペシャルコメンテーター
政治記者歴30年 福島県出身
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