「103万円の壁」の見直しについて、自民・公明・国民民主による協議が継続されています。地方では、子育てや教育など、行政サービスへの影響を懸念する声が広がっています。
【写真を見る】“年収の壁”で「退職を検討」医療を提供する訪問看護事業者は人材確保に苦慮 地方からは“税収減”に懸念の声も【news23】
「退職しようかと」訪問看護の現場にも“年収の壁”
97歳の篠原繁造さんは、心臓にペースメーカーが入っており、週に2回、訪問看護を利用しています。
1年通う看護師に強い信頼を寄せていますが、「年収の壁」の問題は訪問看護の現場にも暗い影を落とします。
年収の壁には、年収が103万円を超えると生じる所得税の壁、106万円以上や130万円以上になると生じる社会保険料の壁があります。
訪問看護ステーションブロッサム 西村直之 代表
「『106万の壁』にぶち当たっている人が大半」
西村代表の訪問看護ステーションでは、所属する看護師のうち90人以上が「106万円の壁」に直面しています。
訪問看護ステーションブロッサム 西村直之 代表
「全体の106人分が書かれている。扶養範囲内シフト調整は8人で約30稼働分になります。別の看護師へ調整をしていかなくてはならない」
働き控えをする看護師の穴を埋めるため、採用活動を行うなど手を尽くしてきました。しかし…
訪問看護ステーションブロッサム 西村直之 代表
「扶養範囲内で働く看護師から突然LINEが来た」
看護師からのメッセージ
「今月11月より老健の方で勤務しており、扶養範囲内での勤務のため、今お勤めさせていただいているgraceを退職しようかと考えています」
訪問看護ステーションブロッサム 西村直之 代表
「『106万の壁』は、利用するお客様(患者)には何も関係ない。患者さんに精神的な不安を与えることがないよう、スタッフ配置をものすごく気にかけている」
地方から慎重な検討求める声 1年間の税収12%減の試算も
こうした中、「103万円の壁」の議論が正念場を迎えています。
国民民主党 玉木雄一郎 代表
「現時点においては、178(万円)を譲るつもりはありません」
国民民主党は、与党側がとりまとめる経済対策の原案に「103万円の壁」などを明記するよう求めていましたが、平行線の協議が続いていました。
政府与党が今週中のとりまとめを急ぐ中、19日も行われた政策協議。
自民党 小野寺五典 政調会長
「少しずつ両党の考え方の間合いが詰まってきた」
国民民主党 浜口誠 政調会長
「お互いの距離が縮まってきている」
協議が前進していることをにじませました。
3党は20日にも結論を出したいとしていますが、具体的な103万円の引き上げ幅については、今後も実務者協議が続けられ、攻防が続く見通しです。
一方、壁の見直しについて、地方からは慎重な検討を求める声が上がっています。19日に村上総務大臣のもとを訪れた川崎市の福田市長は…
川崎市 福田紀彦 市長
「年収の壁を突破することで、地方財源が損なわれることがあってはいけない」
人口約150万人の川崎市では、480億円程度の減収が見込まれていて、1年間の税収の12%に当たります。
千葉市 神谷俊一 市長(18日)
「(住民税が)何の手立てもないまま失われたりすると、自治体が個別にやっている子育てや教育の基幹サービスの財源が失われる」
神戸市 久元喜造 市長(18日)
「震災30年から復興して、ようやく今まで手つかずだった神戸の玄関口の三宮の再整備が、相当遅れることになるのは間違いない。代替となる財源をしっかり確保して、影響がないようにしていただきたい」
253億円の減収 「子どもの医療費助成」「保育士の確保」できなくなるおそれ
23ジャーナリスト 片山薫 記者:
103万円の壁を178万円まで引き上げると、地方では、住民税と他の交付税も含めると、5兆円の収入が減るといわれています。
千葉市によると、税収は約2000億円あるそうですが、壁の引き上げを行うと、253億円の減収になると試算されています。
例えば、子どもの医療費の助成(34億円)ができなくなるおそれがあります。これは、高校生までは病院で1回300円で診療を受けられるというものです。
さらに、保育士の確保や待遇改善などの費用(34億円)にも影響が出て、保育士の確保ができなくなるおそれがあるそうです。
他にも障がい者の福祉に関連する助成ができなくなる可能性もあります。
他の自治体でも福祉関係の行政サービスなどができなくなると見込まれています。
藤森祥平キャスター:
真っ先に子どもの医療費や保育関係に影響が出てしまうと、話し合いが進みにくくなってしまう懸念があります。
小川彩佳キャスター:
行政サービスを継続させるためにはどうしたらいいのでしょうか。
片山薫 記者:
市町村は、国債のように簡単に債権を発行できないので、地方に、国から財源を移してほしいという声は出ています。
玉木代表「増えた税収・余った予算が約9兆円」
藤森キャスター:
財源について、国民民主党の玉木代表は増えた税収や余った予算が約9兆円ある(2年間の平均)としています。178万円に引き上げた場合、約7兆円の減収分を賄えるとしています。
片山薫 記者:
玉木代表は上手い言い方で、何となくできそうな雰囲気ですが、約9兆円が金庫などに入っていてすぐに使えるというわけではありません。
日本は毎年借金を重ねているので、使わなかった予算は「借金をしなかった」ということで、実際に国庫には何も残っていません。
インフレになれば、おそらく税収は増えると思いますが、7~8兆円の減税策を賄うほどではありません。どこかで増税するか、国債などで将来にツケを回す形で借金をしないと、“壁”の引き上げは難しいように思います。
小川キャスター:
難しいようですが、玉木代表が「103万円」など“壁”を議論に上げたことは大きな意味があるとも感じます。
小説家 真山仁さん:
保険の問題など、自分たちの収入を考えるきっかけになったという意味では大事なことだと思います。
日本の財政を維持するためにたくさん国債を発行していますが、それは借金です。
借金がない状態で「約9兆円」などの議論はいいと思いますが、お金が無い中では、みんなで我慢することになるでしょう。その“我慢”が、今までは「103万円の壁」などの壁で、壁が引き上げられれば、税金(税収)が減り、社会サービスも減るということです。
みんながハッピーになる政策はないのに、わかりやすさで「得した」と思わせてしまうと、いずれ「全然得してなかった」という声が出てくる可能性が高いです。
「わかりやすさ」ではなく、具体的に、財政の無駄などをわかりやすくしてほしいと思います。
『“年収の壁”』について「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『“年収の壁”』について「みんなの声」を募集しました。
Q.“年収の壁”引き上げによる地方自治体の減収 どう考える?
「大きな問題だ」…33.4%
「問題だが自治体側も努力が必要」…25.2%
「行政サービスの“人質”は良くない」…28.2%
「“年収の壁”の方が大切」…9.6%
「その他・わからない」…3.6%
※11月19日午後11時19分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは20日午前8時で終了しました。
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