大分市で3年前に起きた時速194キロの車による死亡事故。「危険運転」にあたるかどうかが裁判の争点となっていましたが、大分地裁は「危険運転」と認め、当時19歳だった被告に懲役8年の実刑判決を言い渡しました。
【画像でみる】今回の争点「高速度」 検察側と弁護側の主張は?
時速194キロ“危険運転”認定
井上貴博キャスター:
1999年に東名高速で起きた女の子2人が亡くなった事故を受けて、制定された危険運転。今回のものがそれに当たるのか、これが一つ大きな争点でした。
事故が起きたのは2021年2月、当時19歳の男が時速194キロで車を運転。対向車と衝突し男性を死亡させました。
判決は11月28日に言い渡され、求刑は懲役12年でしたが、懲役は8年、そして危険運転致死罪を適用しました。この速度を危険運転と認定したというわけです。
「過失運転致死罪」と「危険運転致死罪」の違いは
これまであった「過失運転致死罪」では、軽すぎるだろうということで、新たに設けられたのが「危険運転致死罪」。上限懲役は20年で、故意に危険な運転を処罰するものです。一方、「過失運転致死罪」は必要な注意を怠った運転を処罰するもので、上限懲役が7年です。
危険運転の対象は
●制御困難な高速度での走行
●アルコール・薬物の影響で正常な運転が困難な状況
●あおり運転のような妨害行為
●赤信号の無視
などです。
今回の争点「高速度」 検察側と弁護側の主張は
今回の事例について、「高速度」をどう捉えるか、検察側・弁護側双方の主張です。
【検察側】
路面状況から車体が大きく揺れる
夜間は視野が狭くなり、操作を誤る恐れが高い
⇒危険運転致死罪
【弁護側】
車線から逸脱することなく直進走行していて、車を制御できてきた
⇒過失運転致死罪
ということで争っています。
ホラン千秋キャスター:
制御という言葉をどう捉えるのか。何がどうなると制御困難なのか、制御できていたと捉えられるのか。数字があるわけではないので、その状況によって変わってくると思いますが、今回は「制御困難な高速度」が認められたということになるわけですね。
野口辰太郎弁護士:
そうですね。路面の状況、交通量など現場の状況に即して、その高速度がどれほど危険だったのか判断していくということが一般的には言われています。
今回も高速道路ではない一般道、そして夜間、その中で194キロ、法定速度の3倍を超えるようなスピードで走るのは、やはり制御が困難だろうという判断になっていきます。
ホランキャスター:
194キロという数字は、普通の感覚で聞くと、どう考えても危険だろうと思いますが、制御困難なのかどうか、法廷では証明が難しいものなんですか。
野口辰太郎弁護士:
実際に194キロで走行した経験のある方はほとんどいません。そうなってくると、この事件を判断する裁判官も立証する検察官も、弁護する弁護人も誰もわからない。その中で立証が求められる難しさはあったと思います。
弁護士からみた今回の判決「ようやく道が開けた裁判」
ホランキャスター:
数字上、どう聞いても危険そうに見えるものでも、やはり立証するのは難しいということなんですね。
スポーツ心理学者(博士)田中ウルヴェ京さん:
つくづく思いました。いかに心情を横に置いて判断するかという難しさですよね。心情的には、194キロなんてありえないと思いますが、それを立証する、どう危険なのか、なぜそれが制御不可能なのかの立証は、これは難しいんですか?
野口辰太郎弁護士:
実際に194キロを出すわけにはいかないので、それを疑似した実験をして、その結果が証拠として出されています。そういった積み重ねで今回ようやく認められたということになります。
ホラン千秋キャスター:
今回の裁判全体をご覧になって、野口さんはどのような印象を受けられたでしょうか?
野口辰太郎弁護士:
正直なところ、危険運転致死罪を否定する可能性もあるのではないかと思っていました。ただ、この事例で否定されてしまったら、今後、直線道路で高速度の事件は認められないんじゃないかと思うくらいの事件でしたので、ようやく道が開けたような裁判ではないかと思います。
ホランキャスター:
今後を決める大事な裁判だったんですね。
危険運転の適用 曖昧すぎる?
井上キャスター:
2018年に三重県・津市で起きた事故は、時速146キロで今回のケースよりも速度だけ見ると、低速ということが言えます。この速度で走行中の車がタクシーに衝突し4人が亡くなりました。「過失運転致死罪」が適用され、懲役7年が言い渡されています。
これをもう少し明確化すべきじゃないか、数値設定できないのか?という流れになっています。
「高速度」について、現在は「制御することが困難な状況」を指しますが、今後、数値の基準を設け一律処罰対象にしようという案があります。
・「高速度」の基準
最高速度の2倍、最高速度の1.5倍などの案がありますが、一般道・高速で考え方違うので、そのあたりをどうするのか?
・「アルコール」の数値基準
血中アルコール濃度(呼気1リットルにつき)0.5mg以上、0.25g以上、0.15g以上、などの案が出ています。(法務省 検討会取りまとめ報告書より)
野口辰太郎弁護士:
客観的な数値を示していくというのは、処罰していく明確性という要件が満たされ、被害者の方から見ても、今回のように翻弄されるといったようなことはないので、メリットだと思います。
他方で道路状況の違い、体質の違い、そういったところから一律に厳罰を科す要件として設定していいのかどうか、そこは慎重に今後審議されていくことかなと思います。
ホランキャスター:
そもそも、アルコールを飲んで運転してはいけないですし、スピードも守らないといけないという中で、ご遺族の方々もいらっしゃるわけですよね。数字で、2は駄目だけど1.5ならいいのか、とても複雑な気持ちになるだろうなと感じます。
田中ウルヴェ京さん:
被害者の立場になったとき、心情がかぶってしまうので、いかにそれを冷静に私達は捉えるかということが、それこそ難しいことだと思います。
井上キャスター:
「なんでこれで適用してくれないんだ」と、今までの遺族の多くの皆さんの思いもあるわけですよね。
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<プロフィール>
野口辰太郎 さん
弁護士
東京弁護士会所属
専門は交通事故案件
田中ウルヴェ京 さん
スポーツ心理学者(博士)
五輪メダリスト
慶應義塾大学特任准教授
こころの学びコミュニティ「iMiA(イミア)」主宰
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