野球界の二人の英雄、イチロー(51)と松井秀喜(50)が10年ぶりに再会し、スペシャル対談が実現。日米通算4367安打を記録したイチローと、日米通算507本塁打をマークし名門ヤンキースを世界一に導き、ワールドシリーズMVPにも輝いた松井。二人はいかにして、己の打撃技術を磨いてきたのか。一時代を築いたレジェンド同士による“究極の打撃論”とはー。(第2回/全6回)
【写真を見る】イチロー「天才型は実はこっち(松井秀喜)。世の中の人は反対だと思っている」レジェンド二人が交わす打撃論
イチロー:現役中はバットの形、何回変えた?
松井秀喜:細かく言えば、結構変えました。一番変えたのはジャイアンツの若い頃で。最初はもう、どちらかというと金属バットに近いような、バットのしなりを使えないような、機能しないような。
イチロー:どこに当たってもいってくれるみたいなイメージ?
松井:それから少しずつ、木のバットの感覚を出せるようなバットにしていって、そこからほとんど変えてないですけど。ちょっとしたグリップの感覚ぐらいですね。
お互いのバットを手に取ると・・・。
イチロー:でも、形状は似てるよね。
松井:そうですね。似てますね。だからやっぱりメジャーに行って、この辺(芯の部分)が細い選手ってあんまりいないですよね。
イチロー:そうだね。僕は18の頃、1年目終わった秋に少し変えたバットがこれで、ずっと来てるんで、その1回だけなんですよ。
2人の打席での考え方の違い
本塁打を量産し日本を代表する”パワーヒッター”だった松井に対し、イチローは10年連続200安打の記録を作った“ヒットメーカー”。打席での考え方は大きく違うようだ。
松井:僕はピッチャーの球を少しでも長く見たいと思うんで、(バッターボックスの)後ろのラインぐらい踏んじゃうんですよ、キャッチャー寄りにね。イチローさんは結構前にいるでしょ。
イチロー:うんうんうん。
松井:なおかつ、そこからやっぱり体重移動が結構・・・。
イチロー:そうね、前に出ていくからね。
松井:前に出ていくでしょ。自らその(投手との)距離を近づけてるっていうか、言い方悪くすると損しているっていうか、その感覚がまず自分と全く違って。自分は軸足残して、なおかつ(バッターボックスの)一番後ろに立ってね、手も後ろまで行って、少しでも長く(ボールを)見てやろうみたいなね。そういう感じなんですけど、全くそのアプローチは逆だなと思って。
イチロー:確かにそう考えれば損です。僕の場合はバットの形を変えないのと同じように、打席の位置、ピッチャーとの距離は、同じじゃないと気持ち悪いんですよ。これ(打席での立ち位置を前後で)変えちゃうと、(投手との距離が)ずれるんだよね。
松井:うんうん。
イチロー:こっち(ホームベースとの距離)はいいんだけど。だから、ここの(投手との)距離を一定にしている。バットの形を変えないのも結局、自分の状態が分からなくなるから、一定にしておきたいって、それに近い感覚。
松井:イチローさんを見てて、やっぱりこれだから打てるなっていうのは、手が絶対最後まで出てこないっていうね。絶対出てこないでしょ。こうやって体(は前に)行くんだけど、トップ深い上に手が最後まで出てこない。体は行くんだけど、バット出てこない。で、最後に“ヒュッ”と出てくるのね。それでやっぱりその90度打ち分けちゃうっていう。その技を持ってる人ってメジャーで見たことないから。
イチロー:どうだろうね、他に・・・。
松井:いないでしょ。まず、あのアプローチを取れる選手は、ほとんどいないと思います。日本だったら真似しようとしてる選手はいるかもしれないけど、イチローさんと同じように打てるかって言ったら絶対打てないわけだから。それはもう世界でイチロー型っていうバッティングスタイルかなっていう。
イチロー「松井は天才かと思った」
イチロー:僕の場合は、体の近くを通すインサイドアウト型。松井秀喜の場合はやっぱ後ろに(重心を)残して、僕にはできないし、僕がやったら打てない形をしてるんだよね。(重心が)後ろに残ってるんで、この(後ろ足の)膝が(開いて)見えてくる形。だけど打つでしょう。天才かって思った。
松井:(笑)
イチロー:つまり、僕が考えるヒットが出る形をしてないのに結果出してるから、天才かって思った。
松井:自分では、その意識はないんですよね。多分、形としてそうなっているだけであって、やっぱり、強く打ちたい。
イチロー:うん。
松井:強く打つためには、やっぱり外でも多少引っ張りたいっていう。またそういうふうに教わってきた、特に(読売)ジャイアンツのときは。外も巻き込んで打つっていう。今思うと、メジャーを考えるとそれが良かったのか悪かったのか、よくわからないですけど、逆方向にも、もっとうまく打てたら良かったなと思いますけど、やっぱり強く打ちたいっていうときに、やっぱりこういう(重心を後ろに残して、後ろ足の膝が開くイメージ)ふうに(バットが)出がち。
イチロー:この形、この形。「これやっちゃ駄目だよ」って高校生に言ってる形。
松井:でも自分の中では、打つ瞬間までは肩も出てないし、前も割れてない、で、打った瞬間こうなる(開く)っていうかね。
イチロー:イメージがね(笑)
松井:後ろの回転でヘッドをバンって出したいっていう。でも自分の中では、例えば練習とか素振りでは、その意識はないです。
イチロー:これ聞いてまた僕は天才だと思うんだけど、イメージと形が合ってないのに何で打てるんだよって思うわけ。だってそうでしょう。僕の場合はイメージと形って合ってると思うの。自分が描いているイメージ、形がそのまま出てる、表現できてる。でも今聞いてたら違うよね。自分のイメージと実際の形が違うのに。天才ってそうなのよ、言ってることとやってることが違うんだもん。
松井:(笑)
イチロー:天才型は実はこっち(松井)なの。世の中の人は反対だと思ってるでしょ。そうじゃない、この人です天才は。
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