番組「世界遺産」で年初に放送する特別企画のため、ナビゲーターの鈴木亮平さん自らトルコの世界遺産「イスタンブール歴史地区」を取材してもらいました。
リニューアルした「地下宮殿」の貯水槽
イスタンブールは古代ローマからの長い歴史を持つ街で、ローマ帝国が東西に分裂した後は東ローマ帝国の都として栄えました。1500年以上経った今でも古代ローマが得意とした巨大な土木建築の遺跡が残り、今回の特別企画でも鈴木さんの取材ポイントとなっています。
またイスタンブールでは2016年に新しい世界遺産を決める国際会議=世界遺産委員会が開催され、私も参加しました。当時と今回撮影したイスタンブールを比べると、9年の歳月が世界遺産にもさまざまな変化をもたらしたことが分かるので、ちょっとご紹介したいと思います。
まずは鈴木さんが訪れた「地下宮殿」。ここは6世紀に建造された巨大な貯水槽の跡で、今はほとんど水がなく、歩いて見て回ることが出来ます。8万トンもの水を蓄えることが出来た広大な地下空間に300本以上もの石柱が建ち並んでいることから、「地下宮殿」と呼ばれるようになりました。
今回の撮影でビックリしたのが、遺跡内部のライティングがずいぶんと明るくなって、全体的に見やすくなっていること。2016年に訪れたときはもっと暗く、各所にコケなどが繁殖していたのですが、すっかりきれいになっています。実は5年がかりで修復工事し、2022年にリニューアルオープンしていたのです。
見所のひとつが、ギリシア神話に登場する怪物メデゥサの頭部の彫刻。石柱の土台として使われているもので、こちらも照明が良くなって、以前よりもきれいに見ることが出来ます。
ちなみに、この「地下宮殿」は1963年の映画「007 ロシアより愛をこめて」にも登場します。ショーン・コネリー扮するジェームズ・ボンドが情報工作員と接触するシーンで、当時は水がたくさん残っており、なんとジェームズ・ボンドはボートで地下宮殿の中を移動しています。そこを60年後の今、鈴木亮平さんが歩いて見て回ったわけです。
時代の変化とは無縁ではない・・・隠されたキリスト教の聖母子
もうひとつ、劇的な変化があったのがハギア・ソフィア(トルコ語だとアヤ・ソフィア)です。ここも6世紀、東ローマ帝国の時代にキリスト教の大聖堂として建てられ、当時は世界最大のドーム建築でした。その後、15世紀にオスマン帝国がイスタンブールを攻略して首都とすると、イスラム教のモスクに改築。さらに20世紀になって、現在のトルコ共和国が成立すると博物館になります。
建国の父である初代大統領のアタテュルクが、イスラム教と政治を分離する近代的な政教分離策を進め、ここもイスタンブールの代表的なモスクから博物館へと変わったのです。元々がキリスト教の大聖堂だったため、幼子のイエスを抱く聖母マリアのモザイク画が天井近くの壁面に残っており、2016年の世界遺産委員会で訪れたときには普通に見ることが出来ました。この聖母子は、偶像崇拝を禁じるイスラム教のモスクだった頃は、白漆喰で塗りつぶされていたものです。
実は、この2016年の世界遺産委員会のときに軍の一部によるクーデター未遂事件が起きました。イスラム教への回帰を進めるエルドアン大統領に反発する勢力が権力奪取を計ったものでしたが、一日で鎮圧され失敗。その後、軍だけではなく民間にも及ぶ大粛正が行われ、この事件によってエルドアン大統領の権力基盤はかえって強くなり、現在まで続く長期政権となっています。そのイスラム教回帰の一環で、2020年にハギア・ソフィアはイスラム教のモスクに再び戻ったのです。
今回のロケで鈴木亮平さんが訪れると、2016年当時は宗教を問わず誰でも入ることが出来た一階は礼拝の場となり、原則イスラム教徒でないと入ることが出来なくなっていました(撮影チームは特別に許可をもらい入っています)。また見所のひとつとなっていた聖母子のモザイク画は大きなカーテンによって隠され、一階で礼拝する人たちが見上げても見ることが出来なくなっていました(二階に上がれば、カーテンの隙間から見ることが出来ます)。
世界遺産も時代の変化とは無縁ではない・・・そんなことも感じられる鈴木亮平さんのイスタンブールのロケです。ご期待ください。
執筆者;TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太
・【検証】「布団の上に毛布」が暖かい説 毛布は布団の「上」か「下」か 毛布の正しい使い方【Nスタ解説】
・「パクされて自撮りを…」少年が初めて明かした「子どもキャンプの性被害」 審議進む日本版DBS “性暴力は許さない”姿勢や対策“見える化”し共有を【news23】
・スマホのバッテリーを長持ちさせるコツは?意外と知らない“スマホ充電の落とし穴”を専門家が解説【ひるおび】