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世界中が重要視! 『薬剤耐性(AMR)』の拡大を防ぐ対策

2019-06-14 18:30:05


執筆:井上 愛子(保健師・助産師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
「風邪をひいたら抗生剤!」
そんな風に思っていませんか?
一般的に抗生剤と呼ばれる抗菌薬は、実は風邪などのウイルスには効き目がないことをご存知でしょうか。
この抗菌薬の不適切な使用を背景に世界中で「薬剤耐性(AMR)」が増加しており、国際社会における大きな課題となっています。
「薬剤耐性」の拡大を防ぐためにも、まずは私たちが正しい知識を得ることが大切です。

「ウイルス」と「細菌」の違いを知っていますか?


今回注目する「薬剤耐性(AMR)」は、抗菌薬が効きにくくなる、あるいは効かなくなる、といった現象です。
「抗菌薬」は一般的に「抗生剤」「抗生物質」とも呼ばれ、名前が示す通り「細菌」に対して効果を発揮する薬です。
ところで、皆さんは病院を受診するきっかけとなる風邪やインフルエンザ、肺炎などのような病気は、ウイルスと細菌のどちらが原因になっているか知っていますか?
そもそも細菌とは、細胞が一つしかないとても小さな生き物で、あらゆるところに存在しています。
すべてが有害という訳ではなく、納豆菌や腸内環境を整える細菌などのように、ヒトの生活に役立つ細菌もあります。
細菌の大きな特徴は、栄養になるものを摂取すれば自力で増殖できること。
細菌は病気の引き金にもなり、大腸菌の一種による「O157」や、肺炎球菌による肺炎などがよく知られています。
一方、ウイルスは細菌の50分の1程度の大きさで、自力で増えることはできない微生物です。
インフルエンザウイルスやノロウイルスなどが有名ですが、人の細胞に侵入(感染)して増殖し、さまざまな病気を引き起こします。
ほとんどの風邪も、ウイルスが鼻や喉に侵入(感染)し炎症を起こすことによって発症します。

風邪に抗菌薬は効果なし!


「抗菌薬」は細菌が原因となる病気の治療薬として研究・開発されました。
ですから、対象となる細菌を壊すことはできても、ウイルスには全く効きません。
インフルエンザにはタミフルなどの抗インフルエンザ薬が知られていますが、これは「抗菌薬」とは違うものです。
現状ウイルスに効果を発揮する薬の種類は少なく、たとえば風邪の諸症状を緩和する薬はあっても、実際は自分で免疫力を高めて治すしかないのです。
すなわち、抗菌薬を使用するのは、病気の原因となる細菌が明確な場合のみ、ということができます。
正しく使えばとても有益な抗菌薬ですが、「とりあえず抗生剤」という安易な認識で薬に頼り過ぎる、患者の自己判断で使用を止める…などの使用法が蔓延した結果、世界的に見て深刻な事態に陥っているのです。

抗菌薬が効かない事象が多発!


今や病気の治療には欠かせない存在となっている抗菌薬。
しかし今、「薬剤耐性(AMR)」を持つ細菌、つまり、従来の抗菌薬が効かない細菌が世界中で増えています。
薬剤耐性はどのようなメカニズムで起こるのでしょうか。
細菌は、敵である抗菌薬に対してなんとか自分の身を守ろうとします。
たとえば、薬の影響を受けにくいように変化する、薬を分解するような機能を持つなど、抗菌薬への耐性を持とうとして強くなるのです。
また、前述のとおり、身体には病気を招く細菌だけではなく、さまざまな細菌が住みついています。
しかし、抗菌薬の使用により問題のない細菌が減少して全体のバランスが崩れ、薬剤耐性を持つ細菌が増えやすい環境を作ってしまいます。
こうして抗菌薬が効かない細菌が増加すると、病気の治療が困難になり、重症化する危険性が高まります。
さらには、健康な人では問題にならない細菌でも、幼い子どもや高齢者、妊娠中の人、持病のある人など、免疫力の弱い人にとっては、命の危険を脅かす事態になりかねません。
実際、薬剤耐性を持つ細菌が原因で命を落とす人は世界中で増え続け、AMR臨床リファレンスセンターは、2050年にはその数が年間1,000万人に及ぶと予想して警鐘を鳴らしています。

他人事ではない薬剤耐性!個人ができる対策とは?


薬剤耐性菌の拡大を防ぐために、世界中でさまざまな取り組みが始まっています。
日本でもAMR対策アクションプランが発表され、医療現場でも抗菌薬を適切に使うための見直しが進められてきました。
しかしそれだけではなく、個人個人が薬剤耐性の問題を知りできる対策をとる、という意識も必要です。
たとえば、日頃から感染症にかからないよう体調管理に留意し、手洗いうがいを徹底する、というのは基本中の基本です。
また、体調を崩して病院を受診した際は、やみくもに抗生剤を希望せず病気の原因にあった治療を受けることも大切です。
そして、抗菌薬を処方された場合は、医師の指示どおり飲み切ってください。
たとえば5日分処方された抗菌薬を、症状が良くなったので3日でやめる…などの自己判断はご法度です。
せっかく退治されかけていた細菌の復活や、薬剤耐性を持つ菌への変化を促してしまう危険性があるからです。
もちろん、余った薬を後日再び飲む、似た症状を持つ家族に分ける…などの行為も禁物です。
薬は、患者さんの診察時の症状と、年齢や体格、身体が持つ機能などを考慮して処方されています。
処方されたとおりに飲むことが、副作用をできるだけ抑えて、病気を治すための近道になるのです。
このように薬剤耐性の脅威は他人事ではありません。
拡大を防ぐためには、一人ひとりが薬のリスクや正しい付き合い方を知り、適正に使用することが求められます。
<執筆者プロフィール>
井上 愛子(いのうえ・あいこ)
保健師・助産師・看護師。株式会社とらうべ社員、産業保健(働く人の健康管理)のベテラン
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供

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情報提供元: mocosuku