早期の英語習得は日本語の発達を妨げる?発達脳科学と第二言語習得からみた早期外国語教育についてのセミナーが開催
2019-10-07 20:01:06
2020年から小学校の英語教育が必修化されるなど、近年では子どもの頃からの英語学習が重要視されています。また、中には乳幼児の頃から英語を学習させる親もいます。
しかし、あまりに早い段階から第二言語を習得させようとすると、日本語の発達を妨げてしまうのではないかという懸念もあります。
今回、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所は、「発達脳科学と第二言語習得からみた早期外国語教育」というテーマで、9 月 1 日に早稲田大学国際会議場にてセミナーを開催しました。
第1部:早期外国語教育は日本語の発達を妨げるのか?
第 1 部では、小児脳神経外科医の大井静雄氏が、「乳幼児期の早期外国語教育は日本語の発達を妨げるのか?」というテーマで講演。以下のように語りました。
「言語に限らず音楽などに関しても、ある一定の発達の時期を越えると身につけることが難しくなってしまう能力があります。バイリンガルの神経回路というのは乳幼児の時期に発達するので、できれば生まれる前、胎児の段階から言語に触れることが理想です。日本語と英語が聞こえるような環境があると、生まれる前から神経回路を発達させることができます。
日本のように言語習得を小学校中学年から始めるということは、幼い頃から緩やかに発達の階段を登っていくというより、始めるのが遅いことで急な階段を一気に登るようなものになります。」
第 2 部:海外のバイリンガル教育の実情
第 2 部の講演では、アダム・ミツキェヴィチ大学 教授マグダレナ・レンブル氏が、「多言語主義~バイリンガル教育の観点から見た事実、神話、メリットおよび課題~」というテーマについて語りました。
「過去には複数の言語を話すことで母語の発達に遅れがあるのではないか、といった否定的な意見も多かったです。ですが今では誤解であることがわかっています。複数の言語を話せることによって生じる良い面と課題について話をしていきましょう。
まずバイリンガルの良い面について。複数の言語を習得することで、クリエイティブな思考や問題の解決能力、マルチタスク能力の向上といった良い影響を与えるという研究結果が出ています。また認知症の発症を遅らせるといった研究結果も出ています。
実際にポーランドで行われているバイリンガル教育の現場を紹介しましょう。ポーランドでは幼稚園の段階で英語の授業があります。小学校低学年の場合は、週に 1~2 時間、高学年になると週に 2~3 時間。中学生になると3つ目の言語と合計で週に 5 時間外国語を学ぶ時間があります。
(課題としては)バイリンガルの子は母国語であるはずのポーランド語に、ポーランド語ではないアクセントが現れることがわかっています。バイリンガルで話すと、発音という面でそれぞれの言語に影響が出るようです。」
早くから外国語を学ぶことの意義と課題
最後に行われたパネル・ディスカッションでは、早稲田大学教授の原田哲男氏と、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所のポール・ジェイコブス氏を迎え「効果的な早期外国語教育とは?」と題し議論が交されました。
原田氏:ポールさんはバイリンガルですが、本日の議題に関してコメントはありますか 。
ポール氏:言語を学ぶ上で大事なことは、言語に対する姿勢だと思います。日本では 2020から小学校 3 年生から英語の授業が始まります。英語の授業を始めるにあたり課題になると思われるのは、子供のモチベーションをいかに起こさせるというものになると思います。早期に英語教育を始めるのはいいですが、ではどのように教えていくかということに関してよく考えていかなければなりません。
――中国では英語で英語を教える教育をしていますが日本ではどうでしょうか?
大井氏:日本ではまだその段階に至っていません。小学校五年生から英語教育を始めるという段階です。私個人としましては、脳の発達の観点からこれでも遅いと考えています。
――中国では熱心な親は入学前から英語教育を始めています。英語を学ぶことは、就職を始め社会的生活に有利になるので。日本の状況はどうですか。
ポール氏:日本では就職で有利にはなりますが、かならず必要かと言われるとそこまで重要とは考えられていないようです。
原田氏:日本で英語が必須だと考えられていない理由の一つには、小説や書籍、映画など面白い海外のエンタメ作品が日本語に翻訳されているからだと考えられます。読みたい本や見たいテレビはだいたい日本語で楽しめます。英語は重要で TOEIC などは受けますが、自分の人生にとって必須かと言われると、そこまで重要とは認識していないのかもしれません。
以上がセミナーで行われた講演、議論の内容でした。日本の英語教育もこれからますます進化していくのかもしれません。
- 週刊東洋経済 2017年2/18号 (2017年02月13日発売)
Fujisan.co.jpより
情報提供元: マガジンサミット