過酷な状況でも前に進もうと必死にもがく3人のスケーターのリアルな12年間「行き止まりの世界に生まれて」
2020-08-11 14:45:44
© 2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.
小さな町で必死にもがく若者3人の12年間を描いたドキュメンタリー映画「行き止まりの世界に生まれて」が9月4日(金)全国ロードショーとなる。
第91回アカデミー賞、第71回エミー賞Wノミネートのほか、数々の賞を獲得し、あのスケートボード界の神と言われるトニーホークが「心を動かされた」と称賛し、オバマ前大統領が「今年の映画ベスト10」に選んだ傑作ドキュメンタリー映画だ。
そんな、スケーターなら絶対に観ておきたい映画「行き止まりの世界に生まれて」の試写会に参加させて頂いた。
「最も惨めな町」で、もがく若者たち
YouTube【https://youtu.be/V_xbItaU3w4】
「行き止まりの世界に生まれて」予告編
舞台は「アメリカで最も惨めな町」と言われるイリノイ州ロックフォード。
ロックフォードは、全米最も惨めな都市ランキング3位(2013年 Forbes)。全米最も危険な都市ランキング8位(2019年 24/7 Wall St)。全米最も劣悪な都市ランキング16位(2018 24/7 Wall St)にランクインし、繁栄から見放された土地と呼ばれるラストベルト(錆びついた工業地帯)に位置する。
2016年の大統領選挙では、夢を失ったラストベルトの人々による投票が、トランプ大統領誕生に大きな影響を与えた。そんな“人々が夢を失った場所”に暮らすキアー、ザック、ビンの三人は幼い頃から貧しく、暴力的な家庭環境から逃れるように、スケートボードにのめり込んでいた。
監督でありスケーターでもあるビン・リューは、そんな町で必死にもがきながらも、何とか前に進もうとするスケート仲間のザック、キアーの深い闇にカメラを向けていく。そして監督のビン自らも自身の過去や、母親との確執に向き合っていき前に進もうと、模索する。
悲惨な過去や葛藤を抱えながらも、スケートボードで家族のように繋がった3人の若者を、12年間という歳月をかけて追ったドキュメンタリー映画。
大きな一歩の“しるし”
© 2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.
車につかまって公道をスケートボードで流すシーンや、ビルに不法侵入してスケートをするシーン、マリファナを吸うシーンなど、日本ではSNSですぐに炎上してしまうような映像が次々と流れていく。それと同時に、これがロックフォードで暮らす彼らのリアルな日常である事がうかがえる。
彼らはそれぞれに深い闇を抱えてはいるが、共通する光はスケートボードだった。
※「心の痛みを癒してくれる道具」と書かれたデッキ
© 2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.
スケートボードを通して深い絆で繋がったビン、ザック、キアーの3人は大人になるにつれて、ビンのカメラの前で自分自身を見つめ直していく。
スケートボードは時に、スケーター同士がファミリーのように繋がることがある。
同じセクションや、同じスポットで転んだ時の同じ痛みや、技を決めた時に感じる同じ喜びを分かち合うからだ。
その人にとって困難な技を決めれば、スケーターはお互いをたたえ合う。
そうしてお互いをリスペクトし、スケートボード以外でも腹を割って話すようになり、信頼しあえる関係になり、気持ちや感情が共有されていく。
本来、競い合いのスポーツではないスケートボードにはそんな不思議な力がある。
彼らがスケートボードに出会っていなかったら、カメラの前で本当の自分の姿をさらけ出す事が出来ただろうか?
そして自分自身と向き合う事が出来なかったら、彼らは今頃どうなっていただろうか?
ファミリーとして、時には本当の家族以上に繋がった3人だからこそ、お互いに本当の自分の姿を見せる事が出来たのだろう。
© 2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.
これは彼らのドキュメンタリー作品でもあり、12年という歳月をかけて大きな一歩を踏み出した、彼らのしるしのような作品だと思った。
この記事を読んでくれているスケーターのみんなも、海を越えたスケート仲間の1人として、彼らの大きな一歩を見届けてほしいと思う。
ラストベルト(錆び付いた帯状の地帯)から、もがき苦しみながらも、未来へ踏み出そうとする彼らのストーリーから、自分自身と向き合う為に必要な本当の勇気とは何かを教わった。
© 2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.
「行き止まりの世界に生まれて」原題・Minding the Gap
出演:キアー・ジョンソン、ザック・マリガン、ビン・リュー、ニナ・ボーグレン他
監督・撮影:ビン・リュー
9月4日(金)より、シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷他全国順次ロードショー
配給:ビターズ・エンド
公式サイト【http://bitters.co.jp/ikidomari】
© 2018 Minding the Gap LLC. All Rights Reserved.
文・小嶋勝美
スケートボードを趣味としており、ライターとしてスケートボード関連の記事を執筆。約10年間芸人として活動後、現在は放送作家としても活動中。
情報提供元: マガジンサミット