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PTSDではない、似て非なる「ASD」

2016-10-26 21:30:29


執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
つらく苦しい体験によりトラウマ(心の傷)を負った人が、その後もトラウマの記憶に悩まされることは珍しくありません。
そうした症状を表す「PTSD」という言葉を、報道などで耳にしたこともあると思います。
もうひとつ、PTSDとよく似た障害に「ASD(エー・エス・ディー、急性ストレス障害)」があります。今回はこのASDについて解説します。

急性の経過をたどるASD


PTSDが比較的長期にわたって、言わば慢性的に見られる症状であるのに対し、ASDは「急性ストレス障害」という名称からもわかるように急性の経過をたどる点が特徴です。
トラウマを負った体験から4週間以内に精神症状が現れ、症状の持続期間は2日以上4週間以内とされています。
ASDについてはまだ大規模な調査が行われていないため、正確な有病率(人口に対する患者の割合)はわかっていません。
ただし、がんや急性心筋梗塞などの身体疾患患者で2〜4%、自然災害や交通事故の被災者で7〜16%。暴力の被害者で19〜24%の割合で、ASDの発症が認められたという報告があります。

ASDの診断


ASDの診断基準はPTSDとほぼ同じです。
ただし最新の『DSM-5』(精神疾患の分類と診断の手引き)では、ASDはPTSD診断基準である解離症状(現実感の消失や健忘)が認められなくてもASDの診断を下すことが可能としています。
トラウマの体験が繰り返し想起され、そのことに対する恐怖にさいなまれるような症状が体験から4週間以内であればASDと診断され、それ以上続けばPTSDと診断が変更されることになります。
以前はASDは将来のPTSD発症の前駆的な症状と見なされていましたが、中にはASDを発症しないでPTSDを発症する人もます。
このため、必ずしもASDがPTSDの予測因子というわけではないようです。

ASDの半数近くは自然回復する


ASDの3〜6割程度は自然回復すると考えられています。
また、PTSDに移行した場合も、トラウマを負ってから1年以内の期間で深刻な症状はなくなる可能性が比較的高いと考えられています。
従ってASDの治療は、症状がそれほど重篤でない場合は、睡眠や食事などのセルフケアに関する情報を伝えながら、注意深く経過観察をする方法が推奨されています。
一方、症状が重度の場合は薬物療法も用いられます。抗うつ剤の一種であるSSRIが有効とされており、これはPTSDと同様です。
また、特定の症状への対症療法として、睡眠薬、安定剤、鎮痛剤などが用いられます。

患者・家族への説明のポイント


以上に述べてきたことの復習にもなりますが、ASDを患者さん本人や家族に説明する場合、次のようなことがポイントとして挙げられています。
1)トラウマを経験した後に精神状態が不安定になるのは珍しいことではないので、過剰に心配する必要はない
2)症状は、異常な事態を乗り越えるための反応と考えてよい
3)1年以内に自然軽快する可能性が比較的高い
4)一定期間が経過しても自然軽快しない場合でも、薬物療法などの治療法があるので、現在のつらい状態が永続するわけではない

災害後に起こりやすいASD


ASDは、地震などの大きな災害時に起こりやすいと言えます。一時的には大変つらい経験をしますが、時間が経つと癒えていく側面もあります。
とはいえ、何もせず放置しておいていいわけではありません。本人が孤独なままに置かれているのではなく、家族や周囲の人たちのサポートが重要です。子供の場合は、特に安心感やスキンシップが回復に向けて有効な手立てとなるでしょう。

<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長

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情報提供元: mocosuku

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