忙しすぎる職場で起きた「メンタル失調」の例
2016-11-11 21:30:07
執筆:玉井 仁(臨床心理士)
バリバリ働いていた人が、ある時から急にメンタルへルスの不調に陥ることがあります。
「うつ」を始めとしたメンタルの不調は、いつ誰が患ってもおかしくない時代となりました。
今回は「忙しすぎて休むことができず心身の調子を崩してしまった」という人の例からご紹介したいと思います。
新しい職場での厳しいプレッシャー
ヒロシさん(仮名)は、ある企業の地方の事業所から都心の事業所へと異動してきた単身赴任中の40代男性です。
真面目な性格な一方でユーモアも持ち合わせ、職場でも楽しく過ごすことを常としてきました。
しかし新しい部署はとてもそんな雰囲気ではなく、いつも多忙で、かつノルマのプレッシャーがあり、同僚たちの顔はみな引きつっているかのようでした。
このような環境の中、ヒロシさんも当初は必死についていこうと奮闘しました。職場になじもうという努力もしたのですが、どうしてもその雰囲気に溶け込むことができませんでした。
結果的に、ヒロシさんは対人スキル(=コミュニケーション能力)をうまく使えなくなってしまったのです。
周囲にヘルプを求めることができない
業務が多すぎる場合や自分の手に余る場合、「ちょっと大変だから、少し手伝ってくれない?」とか、「両方を今日中に片付けるのは無理なので、こっちを優先してあっちを後回しにしますけど、いいですよね?」という調整が必要になります。
しかしヒロシさんはそうしたひと言がどうしても言えなくなってしまいました。
そして、言えない限りは「自分で何とかしなくてはいけない」と考え、無理をするという悪循環にはまってしまったのです。
持ち前のユーモアのセンスを発揮する余裕もなく、ヒロシさんは物理的にも精神的にも追い詰められてしまったようです。
実際には、業務過多だけでなく、職場の雰囲気も含めた人間関係も関係しているのは明らかでした。
業務量的な負荷が高い職場でも、お互いに助け合う環境であれば、ある程度は耐えられるものです。
しかし、他の事業所から異動してきたヒロシさんにとっては、その職場において水面下で助け合うような人間関係を築く機会を持つこともかなわず、かといって開き直ることもできなくなっていったのでした。
職場において、負荷の高い業務をするにしても「自分で選ぶ」というステップを踏むことができると、その負荷への耐性が上がります。
それは全般的な耐性能力の向上にも寄与します。
言い換えれば、指示された仕事をただ無条件に遂行しなければならない、と受動的な姿勢で受けるのではなく、その仕事に対して能動的な姿勢を維持することが大切なのです。
自分の弱い部分を見せることの意義
自分にとってやや負荷の大きい仕事を受けた時に、「少し大変だけど、この取り組みは自分にとっても有益だと思うので頑張ってみます」というひと言がいえるかどうか。
そのことが、その後の仕事に進め方において大きな違いにつながるように思います。
そんな風に周囲に自分の状況を伝えられなかったヒロシさんは休暇を取ることになりました。
ただし、ボロボロになって休まざるを得なくなったのではありません。カウンセラーからのアドバイスを受け「開き直ってこれ以上は頑張れないことを伝える」ことを実践したのです。
結果、短期間の休息を挟み、復帰できました。
自分の状態を素直に伝えたことで、一人で追いつめられていたヒロシさんは「なんだ、お前も無理してたのか」と理解を得ることができ、それによって同僚との関係も深まっていったそうです。
自分ができないことや、弱いところを伝えることは、しばしば人間関係を促進するようです。
(この事例は複数の例を基に構成しています。またプライバシー保護の観点から一部を脚色しています)
<執筆者プロフィール>
玉井 仁(たまい・ひとし)
東京メンタルヘルス・カウンセリングセンター カウンセリング部長。臨床心理士、精神保健福祉士、上級プロフェッショナル心理カウンセラー。著書に『著書:わかりやすい認知療法』(翻訳)など
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情報提供元: mocosuku