「親知らず」はなぜ生える? そしてなぜ抜くの?
2016-12-13 21:30:04
執筆:南部 洋子(看護師、助産師)
医療監修:石川 毅(アイデンタルオフィス恵比寿・院長)
大人になって「親知らず」が生えてきて、痛い思いをして抜いた人も多いでしょう。
そもそも、この親知らずはなぜ生えるのでしょうか?
そして、せっかく生えてきたのになぜ抜くのでしょうか?
詳しく見ていきましょう。
親知らずとは?
「親知らず」は、大人の奥歯のいちばん後ろ(奥)に生える大臼歯(だいきゅうし)で、正式名称は「第三大臼歯」と言います。
「智歯」(ちし)とも呼ばれることもあります。また、歯科用語では「8番」とも呼びます。前から数えて8番目の歯という意味です。
ちなみに、歯科用語では歯がはえることを「萌(は)える」と書きますが、ここでは「生える」で統一します。
ヒトの場合、永久歯は通常15歳前後で生え揃います。親知らずはその後、10代後半〜20代前半で生えてきます。親知らずという名前の由来はいくつかあって、親に知られず生えてくる歯であるからとか、または昔の日本人の寿命が短く、親知らずが生えてくる20歳前後では、親はすでに他界しているから、などの説があります。
親知らずは、通常は上下左右に合計4本生えます。
しかし、中には親知らずが生えてこない人や、4本揃わない人などさまざまです。親知らずが生えてくるスペースがない、あるいは生える方向が垂直でないために歯茎の中に埋伏していたり、傾いてきちんと生えてこないケースがしばしば見られます。
親知らずはなぜ生えてくるのか
太古の昔、人間は木の実や生の肉など硬いものが中心の食生活でした。
そのため食べる時はよく噛む必要があり、顎の骨がよく発達していたため、親知らずが生えてくるスペースが十分ありました。昔の人々にとっては、歯は生きていくために不可欠のものであり、大人になって生えてくる親知らずには大きな意味があったと考えられます。
一方、現代の食生活では子供の頃から軟らかいものを食べることが多くなりました。
これに伴ってよく噛むという習慣も薄れ、顎が十分に発達しなくなったのです。すると、親知らずのスペースが足りなくなり、きちんと生えなくなるケースが増えてきました。
現代に親知らずが備わっていない人がいるのは退化現象だとする説がありますが、クロマニヨン人や弥生人にも欠損している人はいたという説もあり、はっきりしたことはわかりません。ともかく、現代には親知らずがまったく生えない人も増えているのは確かです。抜歯で大変な思いをしなくて済むのはラッキーですね。
親知らずが病気に?
親知らずは、きちんと生えることがあまりなく、歯肉が部分的に被さったままになる人も少なくありません。これによって周囲が不潔になり、歯肉に炎症を起こしやすい状態となります。
これを「智歯周囲炎」と言い、20歳前後の人に多く見られます。ほかの年代の人でも、親知らずが中途半端に生えた状態になっていると起こります。智歯周囲炎が周囲の軟組織や顎骨に広がると顔が腫れたり、口が開きにくくなったりすることがあります。
親知らず、抜いたほうがいい場合
親知らずの生えてくるスペースが不十分だと、ほかの歯を無理に押して出てきたり、斜め向きや横向きに生えてきたりすることになります。これによって徐々に手前の歯を圧迫してしまい、知らないうちに歯並びが悪くなる可能性があるのです。
また、中途半端に頭を出している親知らずは、歯みがきがしづらいので手前の歯との間にプラーク(歯垢)が溜まり、手前の歯の深いところで虫歯になるリスクが高くなります。治療が遅れると、位置や虫歯の大きさによっては手前の歯を残せない場合もあるので、早めに診断してもらいましょう。
炎症を繰り返す場合は、抜歯することが適当と考えられます。親知らずの抜歯は、歯の大部分が骨の中に埋まっていたり、歯の根っこの形が複雑だったりすると、歯肉を切開したり、骨や歯を削ったりするため大変です。
特に下の親知らずの場合は神経に近いため、位置関係をCTスキャンで確認してから安全に抜く必要があり、入院や全身麻酔を要することもあります。
妊婦の場合
妊娠中は歯肉にトラブルが起きやすいので、親知らずがある場合は、特に注意が必要です。
妊娠中は麻酔を使う抜歯は避けたほうがいいので、もし腫れてしまった場合などはまめな消毒や薬の服用で様子を見ます。女性で将来トラブルになりそうな親知らずがある人は、妊娠前にあらかじめ抜歯をしておくほうがいいでしょう。
<執筆者プロフィール>
南部 洋子(なんぶ・ようこ)
助産師・看護師・タッチケア公認講師・株式会社 とらうべ 社長。国立大学病院産婦人科での経験後、とらうべ社を設立。タッチケアシニアトレーナー
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情報提供元: mocosuku