【16歳で失ったものと30歳を越えて得たもの】元祖天才キッズと呼ばれたオールドルーキー・佐々木玲司が“JOH PROJECT”で叶える夢
2022-07-01 10:00:18
東京下町の千住から、SNSの時代に逆行するかのようにDVDを発売し、自分達の映像を世に発信するBMX&スケートボードクルーがいる。
「自分達が育ってきた原体験を、今の子にも経験して欲しかった」
そう語るのは“JOH PROJECT”のライダー兼フィルマーを務める松元謙。
その理由をMOTO-BUNKAのインタビューで、以下のように語っている
(以下MOTO-BUNKAより引用)
「マツケン: 映像DVDと音源CDの2枚組での発売を予定しています。最近はフリーでみられる映像が多いけど、物(DVD)を買って映像を見るという流れにしたかった。時代とは逆だと思うけど。昔はパーツ買うか、DVD買うかよく迷ってた。そんな中買った映像は今でもすごい記憶に残ってる(映像やジャケはもちろんどこで買ったとか)「常」もそんな作品にしたいなと。何年後もパッケージ見ると内容や買った時の事とかすぐ浮かぶような。」
引用元: MOTO-BUNKA https://motobunka.com/interview-joh-project01/
30代以上のスケーターやBMXライダーなら、納得出来る話しでは無いだろうか。
そこで今回、千住出身の筆者が常:JOH PROJECTのメイン出演者で、唯一のスケーターである佐々木玲司へのインタビューを通して、常への思いや人物像に迫ってみた。
【佐々木玲司プロフィール】
日本を代表するスケートパーク、ムラサキパーク東京を長年支えてきた一人。彼から初めてのスケートボードを買い、スケートスクールで教わったというキッズも多い。
昨今はスケートパークに行けばキッズスケーターで賑わっているが、20年ほど前のスケートボードといえば、ちょっと危ない雰囲気を持つカッコいい若者の遊びだった。
そんな時代に大人に混じってスキルを磨き、天才キッズと呼ばれた彼も今年31歳。
最近のスケートシーンの急激な変化を一番肌で感じてきた世代の一人である。
【スポンサー】
ムラサキパーク東京 NINJA BEARING THEEVE TRUCKS Three Weather DEAR LAUREL
【今のキッズが忘れてしまったものを伝えたい】
玲司は最近の若いスケーターを見ていて、スケーターにとって一番大切な事を忘れてしまっていると話す。
それは一体何なのか?
「今回のJOH PROJECTは元々、今のメンバーで遊びに行く機会が増えて、その度に撮影をして映像を残していた事がきっかけでスタートしています。
撮影しては映像を残してっていう事を繰り返していくうちに、約3年分の映像が溜まり、これをどう発信するかと考えた末、DVD化する事に決まりました。
(なぜDVDにしたのかは冒頭のMOTO-BUNKA松元謙のインタビューの通り)
本来なら作品を企画してから撮影、編集していく事がほとんどですが、このプロジェクトは遊びがきっかけでスタートしています。
“遊び”の話しで言うと、スケートパークで働いていて感じるのが、日本ではスケートボードやBMXがオリンピック競技になり、スポーツとしての認知がだいぶ定着してきていて、そこを否定するつもりは全く無いのですが、どうしても言いたいのが“スケボーはどんな形になっても遊びの一つ”だという事。
今の時代のキッズ達は、そこを忘れてしまっていると感じる時があります。
自分達にとってスケートボードやBMXは遊びそのものなので子供から大人、初心者からプロまでレベルも関係なく楽しめるもの。
遊びから始まったこのプロジェクトを通して、スケートボードは楽しくあるべきという本質の部分を今の若い子達にも伝えられたら嬉しいですね」
【元祖天才キッズと呼ばれた男の今】
天才キッズと呼ばれたスケート歴22年の男が、今回初めての長尺映像をリリース。
この言葉に疑問を持つ人も多いかもしれない。
なぜ玲司はこれまで、パート(自身の滑りを収めたスケーターにとって名刺代わりのようなもの)映像を発表してこなかったのか?
【レジェンドスケーターのスティービー・ウィリアムスとの1枚】
「今までフルパートを作れなかった理由はいくつかあるけど、全て言い訳になってしまうのであまり言いたくないんですが…
自分がスケボーを始めた当時はVHSビデオの時代で、スケートショップに行けばいつも新しいビデオが出ていないか、必ずチェックしていました。
お気に入りのビデオ映像は、何度も何度も巻き戻してテープが擦り切れるまで見る、というのを繰り返していく中で“自分もいつか形に残る作品を作りたい”という夢をもっていました。
ちなみに小・中学生の時にキッズスケーターを増やす為、数人のメンバーとDVDを2本制作してるんです。それがフルパートだといえばそうなんだけど、恥ずかしいのでこれはカウントしてないです」
【16歳で味わったどん底「もうスケボーは出来ない」】
「中学2年までは大会にもゴリゴリ出て、ストリートの撮影もバチバチにしてました。
中学3年の時は、高校受験の為にスケートを少し抑えたんですが、進学した高校は校舎の裏にスケーター達が勝手にセクションを置いて、小さなパーク(通称:新座パーク)として認知されているような高校でした。
スケーターにとっては最高の高校だったんですけど、入学後1カ月も経たない内に、そのパークで右足首が180度ねじれる大怪我をしちゃったんです。
数カ所骨折していて、靭帯もよくわからない状態になっていたんですが、それまで自分は何度もスケボーの怪我で手術をしてきたので、その時も最初は脱臼程度だと軽く思っていたんですよね。
ところが、何度も手術を担当してくれていた医者に、これまで見たことない真剣な顔で“もうまともに走れるかわからない。今後、スケボーは出来ないと思った方がいい”と言われて、その時に初めて怪我の深刻さに気付いたんです。
手術をして、足に被せるタイプの装具を履いて高校に通いましたが、その怪我をきっかけに当時サポートしてくれていたスポンサーを全て外して、スケボーは諦めました。
その後は3回の手術とリハビリを続けて、高校3年の終わり頃には多少の運動も出来るように回復しました。受傷時に医者から言われた事に比べると、奇跡的な事だと思います。
でも皮肉な話しなんですが、小学3年からスケボー漬けだった自分にとって、怪我でスケボー出来なかった高校生活は、初めて普通の学生生活を送れた気がしました。
その後、大学に進学して学生生活が始まるまでの暇な時に突然兄貴にスケボーに誘われ、地元のスポットに軽い気持ちで滑りに行ったのがきっかけで、またスケボー漬けの日々が始まり、今に至るという感じです。
スケーターとして1番いい時期に怪我で全てを捨てた事が、フルパートを作れなかった原因なのかなと自分では思っています」
【30歳を越えてから得たもの】
「スケーターにとってフルパートを撮る事は仕事でもあるけど、夢だと思うんです。
ムラサキスポーツのライダーとしては活動していたけれど、大学に行ってムラサキパーク東京でアルバイトして、そのまま社員になったので自分のパートと向き合うという事をしてこなかったんですよね。
それで気付けば30歳を過ぎていたんですけど、気づけばムラサキパーク東京のスタッフを通じて、あの頃自分が得る事が出来なかった仲間が出来ていて…。彼らはBMXもスケートも関係なく、一緒に遊べる仲間だったんです。
遊びを通じて、繋がり合う関係性から自然に一緒に撮影に行くようになって、最高の仲間がいるから最高の自分を出せるようになっていって…。
だから今が1番、自分の全盛期なのかもしれないですね。
今回の映像は、全体で一つの作品となっているので、フルパートと呼ぶのはちょっと違うんですが、全力で遊べる仲間が今の自分にとって最高の映像を残す事への一歩を後押ししてくれました。
仲間との最高の遊び、その集大成が常:JOH PROJECTだと思っています」
JOH PROJECTの名前の由来は“常に巻き起こる面白いことや、自分達にとってはいつまでたっても変わらない遊びなどを、常に楽しむ”という事を表現したかったからだという。
玲司が話す“スケボーはどんな形になっても遊びの一つ”という言葉からもわかるように、今は競技としてのスケートボードのネガティブな部分(一部の厳しい指導をする大人達や、険しい表情のキッズスケーター)が特に目についてしまうのだろう。
一見、変わってしまったように見えるかもしれないが、スケートもBMXも根っこにある部分は一緒で、いつまで経っても変わらない。
この作品を通して、常に変わらない彼らの“本気で楽しむ”気持ちを一緒に感じられたらと思う。
※Instagramより
「常」7月9日発売。DVD&CD 2枚組の販売となり、価格は3,300円(税込)
出演は眞謝大輔、松元謙 、高橋直也、比嘉勝太、佐々木玲司と彼らのフレンズライダー達。音楽はDJ MAS aka SENJU-FRESH!が担当しており、今作品の為に作られたオリジナルサウンドトラックとなっている。
ZEN DISTRIBUTIONにて取り扱いのある全国のBMXショップとムラサキパーク東京&ムラサキパークかさま、もしくはRODI STOREオンラインでも購入可能。
発売日当日には池袋HUMAXシネマズにて開催される「MOTO文化映画祭」にて先行上映が行われる(現地でも購入可能)。詳しくは『常:JOH』のインスタグラムをチェックしてみてほしい。
取材・文 小嶋 勝美
スケートボードの情報を幅広く執筆する、スケートボードライター兼放送作家兼スケーター。
10年間のお笑い芸人生活を経た後、放送作家をしています。情報提供元: マガジンサミット