E START

E START トップページ > マガジン > 熱はないのに、この寒気はなに?

熱はないのに、この寒気はなに?

2017-02-21 18:30:28


執筆:南部 洋子(助産師・看護師・タッチケア公認講師)
医療監修:株式会社とらうべ
「排卵期や月経前に寒気がする…」
こんな経験をしたことがある女性もいるかもしれません。
風邪や感染症にかかっているわけでもないのに、なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
今回は、感染症以外で寒気をもたらす原因について考えていきましょう。

体温調節のしくみ


まず、私たちの身体に備わる体温調節のしくみから考えてみます。
ヒトの体温調節を司っているのは、脳の視床下部にある「体温調節中枢」です。
体温調節中枢では、熱を体外へ逃がす働きを高める「温熱中枢」と、熱を産生する働きを高める「寒冷中枢」の2つがバランスをとりながら、身体の状態や外の環境に応じて体温を調節しています。
たとえば、外気温が暑いときには温熱中枢が指令を出し、汗をかいたり、血管を拡張させることで体内の熱を外へ逃がそうとします。
一方、寒いときには寒冷中枢が指令を出し、身体を震わせたり血管を収縮させて身体の熱を外へ逃がさないようにします。
こうしたしくみのおかげで、私たちは意識することなく体温を調節することができるのです。

寒気とは


すでにお伝えしたように、私たちの身体は体温を高め、熱を保持しようとするときに血管を収縮させて、体外へ熱が逃げないようにしていますが、このとき、身体の表面の血流も低下します。
これによって生じるのが寒気です。
身近な例を挙げてみましょう。
冬の季節、温かい部屋から寒い外へ出たとき、寒気を感じることがありますね。
これは寒さに反応して交感神経が活発に働き、血管が締まって血流を少なくしているからえす。血液の流れる量を減らして、放熱を抑えようとしているわけです。
また、寒気を感じると震えが起こることがありますが、これは、身を縮めて熱を出すのを防ごうとする身体の反応です。
筋肉が震えることは、熱を発生させるからです。
風邪や感染症にかかったときにも、細菌やウィルスと戦うために、発熱します。また、このとき、体温を外へ逃がさないようにするために、身体の表面の血流も低下します。
風邪などを引いた時に寒気(悪寒)を感じるのはこのためです。
このように、寒気を感じるというのは身体を守るしくみのひとつなのです。
ところが、風邪や感染症などで発熱がないにもかかわらず、寒気を感じることがあります。
それは、体温の調節には細菌やウィルスといった外的な要因だけでなく、女性ホルモンの分泌や自律神経のバランスなどの影響も受けるためです。
どういうことなのか、具体的にみていきましょう。

寒気と女性ホルモンの関係


ここまでお話したように、寒気は、体温の上昇と大きく関係しています。
体温が上昇するのは風邪や感染症などにかかった時だけと思われがちですが、実はそうではありません。
女性は、月経から排卵にかけては低温相、排卵から月経にかけては高温相というように、月経周期に合わせて基礎体温が変動していて、この変動にともなって寒気を感じることがあるのです。
これは月経をコントロールする2つの女性ホルモン「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲストロン(黄体ホルモン)」によるものです。
このうち排卵期や月経前に分泌量が増えるプロゲステロンには、体温調節中枢に働きかけ、体温を上昇させる働きがあります。
排卵期や月経前に寒気を訴える人がいますが、これはプロゲステロンの働きによって上昇した体温を保持するために血管が収縮し、身体の表面の温度が低下するためであると考えられます。
ただ、すべての女性に寒気の症状が現れるわけではなく、女性ホルモンの働きについては現在も研究が進められています。

寒気と自律神経の関係


体温調節中枢には、体温調節を司る役割があるとお伝えしました。
体温調節中枢から出された指令は、ホルモン系や体性神経系(運動を調節する神経)、そして自律神経系に伝わり、体温調節が行われます。
このうち自律神経系は、血管を拡張・収縮させたり、発汗するなどして体温調節をしています。
そのため、自律神経のバランスが崩れると体温調節の働きにも異常をきたし、のぼせ、発汗、ほてり、寒気といった症状が現れます。
自律神経失調症や更年期障害は、自律神経がバランスを崩すことで寒気の症状が現れる病気のひとつです。
風邪や感染症以外にも、寒気を感じることは珍しいことではありません。
「寒い」と感じても、一時的な寒気であれば問題ありませんが、羽織るものを持ち歩く、インナーを一枚多く着るなど、寒さ対策をきちんとするようにしましょう。
ただし、このような対策をしても寒気がおさまらずに悪化したり、長期的な寒気で日常生活に支障をきたす場合は、我慢せずに病院で相談してみてください。

【参考】
・内田有希「女性ホルモンと女性の体温調節-基礎体温、ホットフラッシュ、冷え性、寒冷時調節、日内リズムとの関連-」奈良女子大学『家政学研究』Vol63、No.1、2016年
・岡田昌義著『臨床に役立つ解剖学・生理学概要』、医学図書出版株式会社、2007年。
<執筆者プロフィール>
南部 洋子(なんぶ・ようこ)
助産師・看護師・タッチケア公認講師・株式会社 とらうべ 社長。国立大学病院産婦人科での経験後、とらうべ社を設立。タッチケアシニアトレーナー
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供

関連記事

情報提供元: mocosuku

人気記事