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水の事故防止へ!「泳ぎが得意な人」でも溺れてしまう理由

2017-07-22 18:30:45


執筆:藤尾 薫子(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
梅雨が明ければ、猛暑のシーズンに突入。夏のアウトドアレジャー本番の季節がやってきます。
たくさんの人が出かけていくことでしょうが、毎年、山でも海でも事故の多いのも、この時季の特徴です。
そんな海や川での水の事故、自分は「泳ぎが得意だから大丈夫」なんて思っていたら要注意。必ずしもそうだとは言い切れないのです。
今回は、水の事故予防という観点から、「泳ぎが得意な人でも溺れる理由」をとり上げてみました。

溺死の原因は錐体内出血


健康上、何の問題もなく、また、ぎの得意な人でも溺水(できすい=溺れる)してしまう原因があると指摘しているのは、東京都監察医務院で死体の解剖に携わってこられた上野正彦医師です。
溺死体の解剖から、溺死者の50~60%に「錐体内出血(すいたいないしゅっけつ)」が見られることに気づいたと上野医師は言います(『ヒトはこんなことで死んでしまうのか』インデックス・コミュニケーションズ刊)。
錐体内出血とは、どのような状態を指すのでしょうか?
耳の奥にある頭蓋底(とうがいてい=頭蓋骨の中心部で脳を下から支えている部分)に、中耳や内耳を取り囲む「錐体」という骨があります。この骨の中に出血が生じている状態が「錐体内出血」です。

水中で錐体内出血が起きる理由


溺死した人の多くに錐体内出血が起こっていることを発見した上野医師。
その理由を次のように推定しています。
水泳中に息継ぎのタイミングを誤るなど、何らかの原因で耳管(鼻と中耳を結ぶ細い管)の中に水が入ってしまうことがあります。
そうすると、鼻に水の「栓」が生じます。
加えて、水を飲み込もうとする運動(嚥下運動)などによって、この水の栓はピストン運動を起こします。さらに、外耳からの水圧などの影響も加わって、「鼓室(こしつ)」の内圧が急変する事態を招いてしまいます。
鼓室とは中耳のメインとなる部分で、鼓膜の内側にあり、耳小骨が収まっている空間のことです。鼓室の内圧が変化すると、その隣にある「乳様突起」の内部も影響を受け、毛細血管が破綻して錐体内出血を起こすと推定されています。
なお、乳様突起とは側頭部の骨の後下方にある大きな突起のことです。
乳様突起は耳の後ろにあり、体表からも指で触れて確認できます。突起の内部は「乳突蜂巣(にゅうとつほうそう)」と呼ばれる多数の小さな空洞で占められていて、これらの空洞は互いに迷路状につながって、最終的には鼓室の上部に連絡しています。

錐体内出血が溺死にいたる理由


以上のような理由で錐体内出血が起こった結果、錐体の内部にある三半規管が急性循環不全を起こし、その機能を極端に低下させ、平衡感が失われて「めまい」が起こります。
そして、この症状(=めまい)が水中で起こることによって、泳ぎが達者であるにも関わらず、また、十分に背が立つ浅瀬であっても、溺れて溺死する可能性があるというのが、上野医師の指摘するところです。

錐体内出血の予防


では、錐体内出血を防ぐにはどうしたらいいでしょうか?また、もし自分が水泳中に気分が悪くなった時はどうしたらいいでしょうか?
それには、次のことに気をつけましょう。
<水泳の前>

風邪気味のときは泳ぐことを中止する


風邪を引くと内耳炎や中耳炎を起こしやすく、錐体内出血を起こすリスクが上がります。

耳鼻咽喉科の疾患のある場合は泳ぐことを中止する


耳鼻咽喉科系の疾患がある人も、風邪気味の時と同じように、錐体内出血を起こしやすい状態となります。

お酒で酔っている時は泳ぐことを中止する


総じて酩酊時は神経系統が鈍くなるため、耳管から水が入りやすく、急性循環不全を生じやすくなります。
<水泳中>

水泳中の呼吸は口から吸気(吸う)し、鼻から呼気を出す(吐く)


鼻から息を吸うと水も吸い上げてしまい、耳管から鼓室に水が入りやすくなります。

外耳道に耳栓をするよりも、鼻栓のほうが有効


耳には鼓膜があるため、外耳道からは中耳には水は入りません。むしろ、鼻から吸った水が耳管から鼓室に入るリスクを考えると、鼻栓のほうが有効でしょう。

水泳中に水を吸ってしまったら


誤って鼻や口から水を吸ってしまい気分が悪くなった場合は、ただちに水泳を中止し、水から出ましょう。

錐体内出血は直接的な死因にはならない


錐体内出血そのものは致命的なものではなく、めまいが起こるだけで、意識がなくなることもありません。
ただし、錐体内出血が起こっていることに気がつかずに、そのまま泳ぎ続けようとすると、やがてはうまく呼吸ができなくなり、溺水に至ってしまうのです。
なお、このめまいはしばらく続きますが、1~2週間で出血が吸収されるにつれて平衡失調は回復します。
冒頭にも述べましたが、夏本番を迎え海やプールに出かける人も多いでしょう。
競技、遊びに関係なく、水泳時に錐体内出血を起こす可能性はあります。上記の注意事項を守って、安全に夏のレジャーを楽しんでください。
【参考】
(※)上野正彦『ヒトはこんなことで死んでしまうのか』インデックス・コミュニケーションズ、2004.
<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお・かおるこ)
助産師・保健師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供

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情報提供元: mocosuku

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