腹が減っては戦ができぬ? 空腹時の効率はどれだけ下がるのか
2017-09-27 18:30:17
執筆:藤尾 薫子(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
「空腹だと栄養素がいきわたらないから、いい働きもできない」という意味のことわざ「腹が減っては戦ができぬ」。
おそらく、現在と比べると食料がなかった時代に生まれたことわざかと想像されます。
「飽食の時代」ともいわれる現代でも、このことわざは活きているでしょうか?
食の乱れによる慢性疲労
管理栄養士の森由香子さんは、病院での栄養指導の臨床経験から、慢性的な疲労を感じている人が少なくないこと、その原因として、慢性的な栄養素の不足、不規則な食事時間、ストレスによる自律神経の乱れ、体内で発生する活性酸素の影響などを指摘しています。
そして、こうした食の乱れは、欠食やダイエットなどによって身体に必要な栄養素が足りなくなり、身体のさまざまな機能が正常に保たれなくなって起きていると診ています。
さらに、こうした慢性疲労が進行して過労状態になると、動脈硬化・脂質異常、不整脈などから脳出血・心筋梗塞などの病気にいたるとも指摘しています。
まさに、現代版「腹が減っては戦ができぬ」状態が、森さんのいう「慢性疲労」といえるのではないでしょうか。
脳の栄養失調
近年、MRIなど画像診断装置の開発によって脳科学が発展し、生きている状態で脳に起こっていることが解明されてきています。
それによると、脳は食べたエネルギーの20~25%ほどを消費する“大食漢”でありながら、エネルギー源を貯蔵できないので、ブドウ糖を血液から常に摂りこんでいなくてはなりません。
また、脳へのブドウ糖の供給が数分とまっただけでも死んでしまうので、脳は食欲を制御して空腹や満腹を感知し、その結果から摂食行動をコントロールしていることも解ってきました。
また、何らかの理由で十分な栄養が届かなかった場合、脳はエゴイスティックに自分の使う分を最優先し、身体の他の器官に栄養素がいかないようにしてしまいます。
たとえば、ダイエットがいき過ぎてブドウ糖が不足すると、脳は身体の他の組織がブドウ糖を使えないようにし、インスリンへの感受性を弱くしてしまいます。
この結果、身体の細胞がブドウ糖を使えない病気、つまり、糖尿病を発症するといったことが起こります。
こうした病気もまた、「腹が減っては戦ができぬ」が脳の栄養失調というかたちで起こっている事例といえるでしょう。
必要エネルギーを計算する
健康に過ごすためにはエネルギーはどれくらい必要なのでしょうか?
肥満ややせは生存率を低くしますから、健康に生きていくために目標となる体重(標準体重)に、生きるために最低限必要なエネルギーの「基礎代謝量」と、毎日どれくらい身体を動かしているかという「身体活動レベル」を掛け合わせたものが、1日に必要なエネルギー量ということになります。
たとえば、身長170センチ、体重70キロ、身体活動レベル「ふつう」の40歳男性の場合、目標体重を65kgとすると、1日に必要なエネルギー量は、標準体重65kg基礎代謝基準値22.3×身体レベル1.75≒2,537kcal、およそ2500kcalになります。
栄養学的には、このエネルギー量を食事でもって摂ることで、「腹が減っては戦ができぬ」状態を回避することができます。
加えてそのさい、栄養素をバランスよく摂取することが求められます。
炭水化物・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラルなどの栄養素をバランスよく摂取していくことで、身体の活動効率を最大化できることが強調されています。
腹八分目を心掛ける
メタボや生活習慣病が増えている現代日本では、食料のなかった時代とは違って、欠食していたりダイエットに走っていなければ、よほどのことがなければ腹が減り続けていることはなくなっているでしょう。
むしろ反対に、飽食の時代といわれるように、食べすぎやそれによる肥満やメタボの方が問題になっています。
満腹になるまで食べないと満足できない、ストレス発散のためにドカ食いをする、噛まないで早食いをする、食べ放題が大好きなど、食べ過ぎることによって活動効率が落ち、「食べ疲れ」という全身疲労をつくりだしていると、上に挙げた森さんは警鐘しています。
空腹時の方が学習効率はよくなる?
「空腹時の方が学習効果は高い」「空腹時の方が運動に適している」「腹いっぱいだと性生活の満足度は下がる」「少しお腹がすいているとよく眠れる」など、最近の研究結果からも、いわゆる「腹八分目最適効率説」が多く提起されているようです。
「過ぎたるは及ばざるがごとし」ということわざがありますが、現代は「腹が減っては戦ができぬ」のような足らざることの問題性もさながら、過剰な時代であることの方が問題視されていると思われます。
【参考】
・森由香子『疲れやすい人の食事は何が足りないのか』青春新書、2016.
・高田明和『脳の栄養失調』講談社ブルーバックス、2006.
<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお・かおるこ)
保健師・保健師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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情報提供元: mocosuku