髪の毛が食べたくなる?「ラプンツェル症候群」とは
2017-11-02 18:30:04
執筆:伊坂 八重(メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ
童話『ラプンツェル』は、世界的に有名なグリム童話のひとつです。
この童話は映画化もされていますから、ストーリーをご存知の方は多いかもしれません。
それでは、この童話にちなんだ「ラプンツェル症候群」という病気についてはいかがでしょうか?
今回はこの「ラプンツェル症候群」について、ご紹介いたします。
ラプンツェル症候群について
ラプンツェル症候群とは、髪の毛が食べ物ではないと判断できる年齢であるにもかかわらず、自分の髪を食べてしまう精神疾患です。
グリム童話『ラプンツェル』に出てくる主人公が長い髪の持ち主であることから、「ラプンツェル症候群」と呼ばれています。
専門的には「食毛症」といい、まれな病気ですが、患者は10代の女性に多いといわれています。
ラプンツェル症候群は「異食症」の一種
食毛症は、食べ物ではないものを継続的に摂取してしまう「異食症」の一種です。
米国精神医学会が出版し、日本の臨床現場でも用いられている『精神疾患の分類と診断の手引き第5版(DSM-5)』によると、次に該当する場合は異食症と診断されます。
少なくとも1カ月間にわたり、非栄養的非食用物質を持続して食べる
非栄養的非食用物質を食べることは、その人の発達水準からみて不適切である
その摂食行動は文化的に容認される慣習でも、社会的にみて標準的な慣習ではない
その摂食行動が他の精神疾患〔例:知的能力障害(知的発達症)、自閉症スペクトラム症、統合失調症〕や医学的疾患(妊娠を含む)を背景にして生じる場合、特別な臨床的関与が妥当なほど重篤である
今回取り上げる「食毛症」は、毛髪や毛糸、毛布などを好んで食べてしまう病気ですが、異食症患者の中には、紙、石、砂、土、消しゴム、絵の具、チョークなどを食べてしまう症状の人もいます。
ラプンツェル症候群の原因
食毛症をはじめとする異食症は、次の因子が関係していると考えられています。
鉄・亜鉛などの摂取不足
鉄欠乏性貧血
回虫感染症
精神発達遅滞
自閉症スペクトラム障害
精神疾患
精神的ストレス
また、食毛症のケースでは、抜毛(ばつもう)行為(自分の体毛を抜く)を繰り返す、「抜毛症」との関連が指摘されています。
抜毛行為をする理由の多くは、日常生活におけるストレスや孤独感、寂しさを紛らわすためといわれています。
ですので、食毛症もストレスや孤独感などが原因であると考えられています。
ところで、ランプンツェル症候群になって毛髪や毛糸などを食べ続けても、身体に悪影響はないのでしょうか?
ラプンツェル症候群が身体に与える影響
毛髪を食べ続けると、胃液や粘液の作用により、胃の中で食べ物などと結びつき、石のような固まりができることがあります。
これを「毛髪胃石(もうはついせき)」といいます。
毛髪胃石は、できた直後に自覚症状はみられません。
ただし、ある程度の期間を経て毛髪胃石が大きくなると、腹痛や悪心、おう吐、食欲不振、腹部不快感、体重減少などの症状が現れるようになります。
また、腸閉塞や潰瘍、穿孔(せんこう;胃に穴が開くこと)などを合併することもあります。
できてしまった毛髪胃石は、薬での治療は困難で、内視鏡手術や開腹手術が必要です。
ラプンツェル症候群の治療
毛髪胃石や身体疾患を合併した患者さんには、症状にあわせた内科的あるいは外科的な治療が行われます。
ただし、根本的治療には、心理カウンセリングなどの精神的なケアが欠かせません。
これまでの症例には、発症後、本人と両親に対して心理カウンセリングを行うとともに、発症のきっかけであるいじめ問題を解消したことで症状が見られなくなった、という報告もあります。
「自分の髪を食べてしまう」という行為は、とても奇妙に感じられるかもしれませんけれど、それは本人が発するSOSのサインなのです。
ラプンツェル症候群の人は、10代やそれよりも若い層に多いため、本人に自覚がないケースも多々あります。
皆さんの周囲に、髪を食べてしまう行為を繰り返している人がいたら、まずはそのSOSサインを察知し、話を聞いてあげてみてください。
<執筆者プロフィール>
伊坂 八重(いさか・やえ)
メンタルヘルスライター。
株式会社 とらうべ 社員。精神障害者の相談援助を行うための国家資格・精神保健福祉士取得。社会調査士の資格も保有しており、統計調査に関する記事も執筆
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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情報提供元: mocosuku