「ALS」という病気の症状や治療法について
2017-11-12 18:30:51
執筆:藤尾 薫子(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という原因不明の難病をご存知でしょうか。
「ALSアイスバケツチャレンジ」という運動により、一般の方々の関心も高まりましたから、聞いたことがあるという方も多いかもしれません。
また、2017年10月26日、フランス文学者でクイズ番組の解答者としても人気を博した、「篠沢教授」でお馴染みの篠沢秀夫さんがこの病で亡くなられたことは、記憶に新しいと思います。
それではALSとは、具体的にはどのような病気なのでしょうか。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)について
ALS(筋萎縮性側索硬化症:amyotrophic lateral sclerosis)は、脳や末梢神経からの命令を筋肉に伝える、運動神経細胞が侵される病気です。
自分の思い通りに身体を動かす時に必要な筋肉は「随意筋」と呼ばれています。
この随意筋を支配する神経が「運動神経細胞:運動ニューロン」です。
運動ニューロンは、歩く・モノを持ち上げる・飲み込むなどさまざまな動作をするときに、脳の指令を筋肉に伝える役目を担っています。
その運動ニューロンが侵されると、筋肉を動かそうとする信号が伝わらず、徐々に筋肉が動かしにくくなったりやせ細ったりしてきます。
そして、やがては動かなくなるのです。
ALSでは、五感(視覚・聴覚・臭覚・味覚・触覚)を司る知覚神経や、コントロールできない内臓など不随意筋を支配している自律神経は原則として侵されませんので、感じることはできますし、また、心臓など内臓の働きにも影響はありません。
しかし、例えば、痛いと感じても手を引っ込めることができなくなります。
さらに呼吸は、自律神経と随意筋である呼吸筋の共同作業であるため、ALSになると呼吸筋が次第に弱り、呼吸困難に陥っていきます。
ALSの症状
運動ニューロンは脊髄にあり、手・足・舌・のど・呼吸を司る全身の随意筋を支配しています。
ALSになると、どの運動ニューロンが侵されたかによって、最初に現れる症状も違ってきます。
おもに、次の2つの症状が挙げられます。
手や指、足の筋肉が弱り、やせ細る(四肢型)
ALS患者の約4分の3は、手足の動きに異常を感じて受診をするそうです。
箸がもちにくい、重いものが持てない、手足が上がらない、走りにくい、疲れやすい、手足の腫れ、筋肉の痛みやツッパリなどが、自覚症状として現れます。
手足のまひによる運動障害の初期症状といわれます。
このような症状と同時に、手足の筋肉がやせ細ってきます。
話しにくくなる、飲み込みにくくなる(球麻痺型)
舌やのどの筋肉が弱くなることを「球麻痺(きゅうまひ)」といいます。
ALS患者の4人に1人が、最初に球麻痺の症状を示すといわれています。
これが高じると、舌の動きが思い通りにできなくなり、コミュニケーション障害が起こります。
また、食べ物やつばが飲み込みにくくなる「嚥下障害(えんげしょうがい)」が起こり、むせることも多くなります。
こうした初期症状が進行していくと、手足のまひによる運動障害、コミュニケーション障害、嚥下障害、呼吸障害という、ALSの4つの症状全てが現れるようになります。
ALSの疫学と原因
ALSは運動神経系が老化していく病気ともいわれます。
症状が現れるのは50~70代前半の年齢層に多いとされ、患者数は60代後半でもっとも多くなっています。
男女比は、およそ1.5:1の割合で男性に多く発症するといわれています。
日本の患者数はおよそ1万人と推定されており、職業や生活環境には無関係で、遺伝による影響も5%未満とされています。
また、喫煙が発病のリスクを高める、ということがわかっています。
現時点では原因は特定されていませんが、いくつか挙がっている仮説の中から、おもな説をご紹介します。
グルタミン酸過剰説:神経伝達物質の興奮性アミノ酸「グルタミン酸」を取り込む機能が障害され、神経細胞外のグルタミン酸が過剰になって、神経細胞が死滅するという説
環境説:環境のある何かが原因なのではないかとする説
神経栄養因子欠乏説:神経を成長させたり、細胞を修復・回復させたりするのに必要な栄養分が欠乏することで、運動ニューロンが壊されるという説
家族説/遺伝説:およそ90~95%は遺伝と関係なく発現するとされているものの、活性酸素を解毒する酵素をつくる遺伝子の突然変異によって、運動ニューロンが死滅するのではという説
このように、ALSにはさまざまな原因説があり、突然発症し短期間で進行する深刻な難病なのです。
ALSの治療
ALSの専門の診療科は神経内科です。
実際のところ、神経内科に患者さんがたどり着くまでに時間がかかる場合があります。
短期間に進行しますので、早く神経内科を受診することが重要です。
目下、治療には薬物療法と、運動療法、呼吸管理、栄養療法などが行われています。
また、うつ状態に陥る患者さんも少なくなく、心のケアも大切です。
進行すると、高次機能障害や前頭側頭型認知症が出現することもあるので、本人だけでなく、家族や介護にあたる方たちへの理解も有用です。
さらに、日本では名古屋大学医学部神経内科などが中心となり、JaCALSという研究組織が発足しました。
ALSの病態解明と治療法の開発を目指して、2006年から熱心な活動を続けています。
【参考】
・ALSアイスバケツチャレンジ(http://alschallenge.justgiving.jp/)
・毎日新聞 訃報 篠沢秀夫さん84歳(https://mainichi.jp/articles/20171026/k00/00e/040/217000c)
・ALS筋萎縮性側索硬化症の疾患・治療に関する情報プログラム(http://www.als.gr.jp/)
・日本ALS協会(http://alsjapan.org/)
・JaCALS(http://www.jacals.jp/)
<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお かおるこ)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
関連記事
情報提供元: mocosuku