「延命治療」とはどういう治療? 現代の終末期医療について
2017-11-27 18:30:44
執筆:藤尾 薫子(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
「延命治療」という言葉を耳にしたことがあると思います。
実際には、どのような治療のことを指すのでしょう?
また、延命治療は誰の意思で、いつどうやって始めるのか、始めたらやめられないのか… などの疑問を感じるかもしれません。
今回は「延命治療」についてお話したいと思います。
「終活」という言葉も注目を浴びている昨今、誰しもが迎える人生の最期について、考えるきっかけにしてみてください。
「延命治療」について
延命治療とは、回復の見込みのない終末期の患者に対して、生命維持のために提供される医療行為を指します。
現在のところ明確な定義はありませんが、人工呼吸器の装着や人工透析療法、人工栄養法などが該当します。
また蘇生処置である心臓マッサージや血圧を上げる薬剤の投与などを含む場合もあります。
延命治療はこれまでも広く行われてきましたが、近年「尊厳死」の問題から見直されるようになっています。
この背景には、1990年代から2000年代にかけて、延命治療を中止した医師の行為が、法的に問題視される事案が相次ぎ、社会的に延命治療と尊厳死について関心が大きくなった、という経緯があります。
延命治療で行われる医療行為について
ここでは、人工呼吸器による治療、人工栄養法、人工透析療法の3つを取り上げて、ご説明いたしましょう。
(1)人工呼吸器
脳死など昏睡状態に陥り自力で呼吸ができない、また、肺機能の低下により身体の中に十分な酸素量を確保するための機能がうまく働かない、といった状態のときに装着します。
チューブを口から挿入、または、気管を直接切開して挿入し、人工呼吸器で肺に酸素を送ります。
この治療で、一時的に悪化していた呼吸状態が改善し、一命を取り留めるケースもあります。
その後、自力での呼吸が復活すれば、人工呼吸器は外すことができます。
しかし、病状によっては永続的に自力呼吸が困難であるために装着するケースもあります。
つまり、人工呼吸器を外せば呼吸が止まってしまいますので、心臓が動いている限りは、人工呼吸器を装着し続けることになるのです。
(2)人工栄養法
人工栄養法には、おもに「静脈栄養」と「経腸栄養」の2種類があります。
どちらも口から十分な食事を摂れなくなった時に行われます。
経静脈栄養法
血管には「動脈」と「静脈」があります。このうち静脈は、身体の末端から心臓に向かって流れている血管のことをいいます。
経静脈栄養法では、静脈に管を通し薬剤を投与します。
経腸栄養療法
鼻や胃にチューブを通し、液体状の栄養剤を注入して生命や健康の維持・改善をはかります。
経腸栄養療法は、腸が機能している、つまり腸で十分な消化吸収ができるが、口から食事を食べることが難しいケースで用いられます。
人工栄養法は、口や喉の手術後、患部の安静を保つ目的で一時的に施される場合もありますが、病状や後遺症の回復が見込めず、口から食事が食べられない状況が続けば、やはり慢性的に続けることになります。
(3)人工透析療法
腎臓機能の低下や、腎不全(腎臓の働きが十分でなくなった状態)に陥った時に施される治療法です。
腎臓は、血液をろ過して老廃物を取り除き、尿をつくる役割を担っています。
そのため、腎臓機能が低下すると、尿として排泄されるはずの老廃物が体内に溜まってしまいます。
さらに、腎不全の末期には、「尿毒症」を起こしけいれんの症状が出るなど、命に危険がおよぶ可能性もあります。
この腎不全末期の段階に施される延命治療が、人工透析療法です。
人工透析療法を一度始めると、その後は1回4時間の治療を、週に3回続ける必要があります。
延命治療の選択について
延命治療により寿命を延ばすことはできます。
しかしながら、同時に患者自身が心身の苦痛を受ける期間が延びることや、患者自身に苦痛がなくても家族などの精神的苦痛が伴うことが問題になっています。
ですから、延命治療について考えるとき、生命維持だけを重要視するのではなく、患者がより人間らしく尊厳をもって最期を迎えることができるか、という人生の質に視点をおくことも必要なのです。
厚生労働省では、人生の最終段階を迎えた患者および家族と、医師をはじめとする医療従事者が最善の医療ケアを提供できるように、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」を策定しました。
そのなかで、「人生の最終段階における医療とケアのあり方」として、次のことが記載されています。
・できる限り早期から肉体的な苦痛等を緩和するためのケアが行われることが重要
・緩和が十分に行われた上で、医療行為の開始・不開始、医療内容の変更、医療行為の中止等については、最も重要な患者の意思を確認する必要がある
この記述からも分かるように、延命治療を選択する上では、患者本人の意思確認が基本となります。
また、患者の意識状態が悪くて意思を確認できない、家族が本人の意思を把握しているといった場合は、家族の意思が反映されます。
ですので、日ごろから本人と家族の間で延命治療について話し合う機会を持ち、それぞれの意思を共有しておくことはとても重要であるといえるでしょう。
【参考】・厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン 解説編」(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000078982.pdf)
<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお かおるこ)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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情報提供元: mocosuku