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「精神障害」「精神異常」「精神病」 意味の違いは?

2018-01-09 18:30:55


執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ
昨今はさまざまな側面から、メンタルヘルスケアに対する関心が高まっています。
身体の不調と違って、「見えないココロ」のことですから、概念や病状は「わかったようでわからない」…という状況が多いのではないでしょうか。
今回は、「精神障害」「精神異常」「精神病」の三つの言い表し方について、それぞれの意味や違いについて考えてみます。

辞書の解説を検証


ネット上の辞書を調べると奇妙な点に気がつきます。
デジタル大辞泉「精神障害」の項の解説は、「精神に異常のみられる状態」です。
大辞林は、一つ目の解説として「精神疾患の総称」とし、具体的な病名を列挙、末尾に「精神異常」というコトバで精神障害の定義をくくっています。
続いて二つ目の解説として、「精神疾患およびその後遺症によって、日常生活に支障をきたしている状態」とあります。
次に「精神異常」を調べてみます。
大辞林では「精神障害」、世界大百科事典では「正常ではない病的な精神状態をさす一般的な表現」と解説されています。
すなわち「異常は障害、障害は異常」という「循環定義」のような解説といえます。
専門家でなければ、「精神障害」「精神異常」「精神病」はどれも同じ意味と捉えてしまうでしょう。

精神障害


精神障害の定義は精神保健福祉法第5条(※)に規定されています。
「精神障害者とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう」
この記述を読むと、精神障害と精神病とは同義のように思えますが、精神障害は法的概念でもあります。
病気の内容は同じことを言っていても、医学的(科学的)か、社会的(法的)かといった、視点による違いがあるといえるでしょう。
※参考:電子政府の総合窓口『精神保健及び精神障害者福祉に関する法律』(http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=325AC1000000123&openerCode=1)

精神異常


ここで、「異常」と「正常」というコトバに着目して考察します。
まず、「異常」とは、「正常ではない」状態のことです。
「正常」とは「日常生活でよくある」とか、「多くの人が経験している」とか、要は「ふつうのこと」です。
たとえば、誰かに親切にしてもらった→嬉しい気持ちになった→相手に感謝を伝えた、という流れは「正常」ですよね。
ところがこのとき、相手の厚意を迷惑と受け取り怒鳴り散らした、としたらどうですか。
「あの人おかしいね」と周囲は感じて、変な人=「異常」とみなすのではないでしょうか。
もちろん、この行動が必ずしも精神障害や精神病によるとは限りません。
運動不足解消にあえて電車の中で立っていたお年寄りが、若い人から席を譲られて腹を立てた、とか、大切な人を亡くしたばかりであるとか、明日の合格発表を控えて極度に緊張してパニックに陥ったとか、雰囲気にのまれて普段飲まない酒をイッキ飲みしたなど…
「ふつう」から逸脱してしまうのは誰にでも起こりうることです。
喪失体験や強い不安感、集団心理など、普段とは違う経験や感情が、その人の心理を一時的に「常ならざるもの」に変えてしまうのです。
しかしこれは、(一時的な)精神異常であっても、精神障害や精神病とはいえません。

精神病


精神病は医学的概念です。
辞書で「病気」を調べると、「生物の正常な状態が損なわれ、生命維持機能が阻害あるいは変化すること」(ブリタニカ国際大百科事典)、「生体がその形態や生理・精神機能に障害を起こし、…」(デジタル大辞泉)、「肉体の生理的なはたらき、あるいは精神的なはたらきに異常が起こり、…」と、「病気」が医学的・自然科学的概念であると明示しています。
精神病の診断基準はいくつかありますが、医師や医学などがその専門的知見に基づいて下した判断(診断)が、精神病ということになります。

重症の精神障害が精神病


ただし、次のように精神障害と精神病を区別している専門医もいます。
「精神障害という言葉が精神科で診療する疾患に適用される用語になっていますが、精神病という用語は、精神障害の中でも重症で、幻覚妄想などに支配されて現実的能力が低下し、現実の世界で生活していくことが困難になっている状態をさしています。(中略)軽症のうつ病を精神病と呼ぶには躊躇します。」(※)
※参考:渡辺雅幸『はじめての精神医学』(中山書店 2007)
また、この医師は、不安障害など心因性精神障害(旧神経症など)も、通常は精神病とは呼ばないと指摘しています。

継続的な異常は精神障害


精神疾患の診断基準の一つ『DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版):アメリカ精神医学会(最新版)』によると、たとえば、「うつ病/大うつ病性障害」には、うつ病に関する5つの症状が「同じ2週間の間に存在し」とか、「ほとんど一日中」「ほとんど毎日」落ち込んでいるといった、時間にまつわる記述が多数見受けられます。
先に述べた、一瞬だったり一時的だったりする「精神異常」は、精神障害とはみなされません。
ただし、その状態が持続・頻発してくると精神障害や精神病の可能性を帯びてくるといえそうです。
このように、精神異常、精神障害、精神病はまったく同じ概念ではありませんが、その境界は重なりあい、曖昧であることが垣間見えました。
「ココロは見えない」という難しさを痛感します。
<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供

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情報提供元: mocosuku

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