IBD患者の“人生の灯台”でありたい。専門医が清澄白河で挑む、難病と共に生きる医療
2026-01-26 12:00:55
IBDは潰瘍性大腸炎とクローン病の総称で、安倍元首相も闘病した難病の一つだ。河口内科眼科クリニックの河口院長は、東京山手メディカルセンターで10年間IBD診療に従事後、研究を経て、2022年に清澄白河で開業した。夕方・土曜診療の体制で、開業3年で300人以上のIBD患者が集まる。若年発症が多く、生涯治療が必要なIBD患者は時に孤独だ。クリニックのロゴは灯台──河口氏は孤独な患者にとっての灯台でありたいと願う。

増える患者、足りない専門医──IBDという難病の現実
炎症性腸疾患(以下IBD)は未だに原因や完治に至る治療法が見つかっておらず、国の指定難病に定められています。患者数は増加の一途を辿っており、現在、国内に40万人以上の患者さんがいらっしゃいます。医師として20年以上携わってきた経験から、患者さんは二つの側面で苦しまれると感じています。
一つは、「難病」というイメージが先行し、診断されたときにひどく落ち込まれること。患者さんがお子さんの場合、親御さんが「育て方が悪かった」「食事が悪かった」と自分を責める場面にも接してきました。もう一つは、症状を繰り返すうちに、患者さん自身がこれからの人生でやろうとしていたことを諦めてしまうことです。実際には、重い症状に苦しむ患者さんがいる一方で、適切な治療や投薬で症状をコントロールすることができれば、就職、結婚、妊娠など、望む人生を歩める患者さんも多いということを知っていただきたいです。
医療界でのIBDの認知度は高まりましたが、専門医の体制が患者数の増加に追いついていません。IBDは、ある程度の患者数を経験しなければわからない部分も多いため、患者さんが大学病院や基幹病院に集まる傾向があります。しかし、大学病院でなければならないほどの重症ではない患者さんが多いのも事実です。
私はこうした患者さんが通いやすいクリニックを目指し、3年前にIBD専門医として開業しました。平日は18時30分まで受付、土曜日も予約診療を行う体制にしたところ、既に300人以上の患者さんが来院されました。都内だけでなく、地方から通院される方もいらっしゃいます。
「理想と真逆」に見えた道が、実は天職だった

もともとは、子どもからお年寄りまで全てを診る「ホームドクター」になりたいと思っていました。しかし、医師3年目に、IBDのみを診療する専門の診療科に赴任しました。IBDという狭い専門分野の道に進んだことは、一見、理想とは真逆のようですが、IBDは医師が患者さんの長い人生にわたって「全人的」にサポートする点で、当初の医師像に近いことに気づかされました。
IBDでは、患者さんの受験、就職、結婚、妊娠など、大きなライフイベントを考慮した治療計画の相談が欠かせません。例えば、受験前には検査を前倒しする。妊娠を考えている患者さんには、妊娠前に病症をしっかりコントロールし、妊娠中に安全に使える薬を事前に選んでおく。といったことを、患者さんと丁寧に相談して決めます。

勤務していた社会保険中央総合病院(現JCHO東京山手メディカルセンター)の高添正和先生からは、特に強い影響を受けました。20年以上前、IBDの薬も治療法もほとんどなかった時代から、この分野に尽力された先生です。病気を十分に治癒させることができなくても、患者さんの人生をどれだけサポートできるか、ということに心を注いだ先生でした。
全国から患者さんが集まり、年に1回先生に診察してもらって安心感を得て帰る「高添詣で」と呼ばれる光景もありました。高添先生はIBD患者さんの心の拠り所でした。診察では、患者さんにグイッと身を乗り出すように近づき、心に触れるような言葉をかけられていました。先生の、「病を診ずに人を診よ」という信念は、私がクリニックを開業した今でも受け継いでいます。
灯台として──IBD患者が人生を諦めないために
大学病院でのIBD診療は2〜3時間待ちが当たり前です。点滴治療がある方は、それだけで丸一日を費やしてしまいます。仕事を休めず、受診を先送りにした結果、症状を悪化させてしまう患者さんがいることに心を痛めています。
一方、大学病院には診療、研究、教育という3つの使命がありますが、患者数の増加によって診療の負担が増し、医師は疲弊しています。この状況は、患者さんにとっても医療者にとっても望ましくありません。
私の開業は、そうした大学病院で働く医師の負担を少しでも軽減し、IBD患者さんの受け皿となることも目的の一つでした。当院に来院される患者さんの多くは大学病院や総合病院からのご紹介です。IBD専門医のネットワークを通じ、学会や講演活動で顔を知っている先生方との信頼関係のもと、患者さんをお預かりすることが多いです。
学校や仕事の関係で平日に休みを取りづらい患者さんが、当院で安心して通院できれば、病気をコントロールしながら自分の人生を歩み続けることができるようになります。自分の人生を諦めかけていた患者さんたちが、お店を開業する、留学する、結婚する、妊娠するなど、自分の人生を謳歌し、チャレンジしている姿を見ると、医師としてとてもうれしい気持ちになります。
クリニックのロゴマークは「灯台」をモチーフにしています。先が見えない暗闇を孤独に航海する患者さんたちの道しるべとなって、迷ったときに「こっちが陸地だよ」と指し示す存在であり続けたいと願っています。

河口内科眼科クリニック
https://kawaguchi-medical.com/
院長 河口 貴昭
千葉大学医学部卒業。社会保険中央総合病院炎症性腸疾患センター等での臨床や、理化学研究所、慶應義塾大学医学部での研究・教育職を経て、2022年に「河口内科眼科クリニック」を開院。消化器病、内視鏡、炎症性腸疾患の専門医資格を有し、豊富な臨床経験と最新の医学知見に基づいた専門性の高い診療を行っている
情報提供元: マガジンサミット