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ITフリーランス調査、85.8%が契約・報酬トラブルを経験 「契約書だけ」では防げないIT取引の盲点

2026-07-24 19:00:22

85.8%が経験した契約・報酬トラブル

契約書や発注書を交わし、エージェントが企業とフリーランスの間に入ることも多いIT業界。一見すると、契約や案件管理の仕組みが整った市場のように見える。しかし、契約書が存在することと、取引条件が十分に明確であることは同じではない。

ITフリーランスエンジニアのエージェント事業を展開する株式会社PE-BANKは、全国のITフリーランス302人を対象に、契約・報酬の実態を調査した。その結果、過去1年間に取引先が原因のトラブルを「よく経験した」「たまに経験した」と答えた人は、合わせて85.8%に達した。

経験したトラブルでは、「追加修正の無償対応」が34.1%で最も多く、「依頼業務外の無償対応」が27.2%、「口頭での業務依頼による認識齟齬」が26.8%と続いた。不当な減額交渉や支払いの遅延・不払いなど、報酬をめぐる問題も確認されている。

PE-BANKは30年以上にわたり、ITフリーランスの独立支援や契約支援に携わってきた。同社は今回の結果について、ITフリーランス市場全体で、契約内容や取引条件を、より具体的かつ詳細に取り決める必要性を示すものとして重く受け止めているという。

書面があることで問題が見えにくくなる

IT業界では契約書や発注書が存在するケースが多いため、外部からは適切な取引が行われているように見えやすい。しかし、システム開発や運用の現場では、プロジェクトの進行に伴って、成果物や業務範囲が変わることがある。当初の契約書だけでは、業務開始後に生じるすべての変更を整理しきれないケースも少なくない。

さらに、契約や報酬をめぐる問題の多くは、法的紛争に至る前に現場レベルで調整される。そのため、問題が発生していても外部には表れにくく、書面上は適切な取引が続いているように見えることがある。

調査でも、直近1年間に受けた案件のうち、仕事内容や報酬、支払条件などが書面または電磁的方法で明示された割合を「3割以下」と答えた人が58.3%を占めた。契約内容が十分に明示されない理由としては、「発注事業者からの口頭説明だけで進められた」が43.9%、「契約書を交わさない慣習がある」が37.5%だった。

「契約書がある」だけでは防ぎきれない

契約書がないことだけが問題なのではない。契約書があっても、実際の業務に必要なルールが具体的に定められていなければ、トラブルを十分に防ぐことは難しい。

たとえば、「どこまでが契約上の業務範囲なのか」「追加対応は有償なのか」「何をもって検収完了とするのか」といった条件が曖昧であれば、企業とフリーランスの間に認識の違いが生じる可能性がある。

公正取引委員会も、契約書を締結していても、法律上明示すべき事項がすべて記載されていなければ、取引条件の明示としては不十分だと説明している。

特にIT開発では、契約締結時点ですべての作業内容を確定することが難しい。だからこそ、当初の業務内容だけでなく、仕様変更や追加対応が発生した場合の確認方法や費用の扱いまで、あらかじめ合意しておく必要がある。

開発現場では、プロジェクトの進行に伴って、仕様変更や追加要望が発生すること自体は珍しくない。問題となるのは、変更について正式な合意を行わないまま、作業だけが進んでしまうことだ。

「少しだけだから」「急ぎだから」と依頼を受け、その場では柔軟に対応したものの、後から追加工数や報酬をめぐって双方の認識が食い違うことがある。

変化への対応が求められるIT開発で、すべてを契約当初の内容に固定することは現実的ではない。必要なのは、変更を拒むことではなく、変更内容と追加費用について、その都度確認して記録する運用である。

法令対応だけで終わらせない発注姿勢

2024年11月1日に施行されたフリーランス新法では、発注事業者がフリーランスへ業務を委託する際、業務内容や報酬額、支払期日などの取引条件を、書面またはメールなどの電磁的方法で明示することが求められている。ただし、法令に沿って必要事項を書面化するだけで、すべてのトラブルを防げるわけではない。

PE-BANKでは、ITフリーランスとの取引で実務上明確にすべき項目として、次の内容を挙げている。

・業務範囲と成果物
・報酬額と支払条件
・検収条件
・契約期間
・稼働時間や稼働場所などの稼働条件
・追加対応が発生した場合の手続きと費用負担

企業側には、これらの条件を一方的に提示するだけでなく、双方の認識を確認しながらプロジェクトを進める姿勢も求められる。

フリーランスを単なる外部リソースとして扱うのではなく、プロジェクトを共に進めるパートナーとして尊重することが、契約後の認識齟齬やトラブルの防止につながる。

フリーランスの確認と記録も重要に

企業側だけでなく、フリーランス自身にも、契約内容を理解し、必要な確認を行う姿勢が必要だ。

業務開始前には、業務範囲、報酬、支払条件、契約期間、検収条件、稼働条件などを確認する。仕様変更や追加依頼が発生した場合は、口頭のやりとりだけで終わらせず、メールやチャットなど、後から確認できる形で記録を残すことがトラブル防止に役立つ。

条件を提示されるのを待つだけでなく、不明点を自ら確認することも、フリーランスとして自律的に働くための重要な行動となる。

エージェントには契約後の調整も求められる

企業とフリーランスの間に入るエージェントの役割も、単なる案件紹介にとどまらない。

契約前には、双方が納得した状態で契約を締結できるよう、業務内容や取引条件の可視化を支援する。業務開始後には、仕様変更や追加対応について双方の認識をそろえ、問題が発生した場合には第三者として調整に入る。

特に、企業とフリーランスだけでは解決が難しい問題が生じた際、継続的な関係を持つエージェントが間に入ることには意味がある。

契約条件を明確にするだけでなく、契約後の変更まで含めて取引を支えることが、今後のエージェントに求められる役割となる。

契約の透明性が企業選びの判断材料に

契約条件の明確さは、トラブルを防ぐためだけのものではない。フリーランスが企業や案件を選ぶ際の判断材料にもなる。

近年は、フリーランスが複数の案件や働き方を比較できる環境が広がっている。そのなかで、業務範囲や報酬、変更時のルールを具体的に示す企業は、安心して働ける発注先として評価されやすいとPE-BANKは指摘する。

契約内容の透明性を高めることは、フリーランスの安心感につながるだけでなく、発注企業にとっても、優秀な人材から選ばれるための重要な要素になる。

フリーランス新法の施行を、書類を整えるためだけの対応で終わらせてはならない。企業が取引条件を明確にし、フリーランスが契約内容を理解して確認し、エージェントが双方の認識を調整する。それぞれが役割を果たすことで、ITフリーランスが納得して働ける市場環境に近づいていく。

情報提供元: マガジンサミット