NNKよりPPK。「老衰」という逝きかたを考える
2018-03-21 18:30:40
執筆:藤尾 薫子(保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
日本では超高齢社会が到来して、最近、メディアなどでも高齢者・老人についてのイベントや情報が増えています。
そこで今回は「死」について考えてみたいと思います。
病気や事故・事件で亡くなるほかに、加齢による自然死としての「老衰」が増えています。どんな死に方なのでしょうか?
現代の5大死因
国際連合の定義によると、総人口に占める65歳以上の老年人口(高齢者)が7%を超えると「高齢化社会(1970年達成)」、14%を超えると「高齢社会(1995年達成)」、21%を超えると「超高齢社会(2007年達成)」と呼ばれます。
日本は世界に先がけて「超高齢社会」に到達しました。ちなみに、2016年の高齢化率は27.3%で、2036年には33.3%に達し、なおも増加し続けると推計されています。
「超超高齢社会」がもうそこまで来ています。
平成27年の死因別死亡率をみると、1位は「がん」、2位は「心臓病」、3位は「肺炎」、4位は「脳卒中」、そして5位は「老衰」です。
6位「事故」、7位「腎不全」、8位「自殺」と続いています。
病気で亡くなる人が上位4位をしめていますが、6位の事故を上回って5位に「老衰」がランキングされているのは、やはり、超高齢社会の特徴と言えるでしょう。
ちなみに、戦後、減り続けていた老衰死は、2000年頃を境に増加に転じて、2010年頃から急増しています。
79歳までは男性の方が多く、80歳以降になると女性の方が多くなるという分析もあります。
あいまいな「老衰死」
「死因としての「老衰」は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用いる」(死亡診断書記入マニュアル、厚生労働省)というのが公式な「老衰死」の定義です。
老化による自然死が「老衰死」の意味するところです。
この定義では病気や事故といった「他に記載すべき死亡の原因」がないことを“自然死”と定義しています。
しかし70歳を超えて「どこも悪いところがない」という人は、一体どれほどいるのでしょうか?
昨今の研究では、老化の生理・生物学が解明されてきています。「老いる」ことは細胞や組織のレベルでも起こっています。
むしろ、免疫が弱って感染症にかかったとか、動脈硬化で脳卒中が起こったなどは、老化の“自然”とは言えないのでしょうか?
現実には「病気の治療などを受けていなかった」高齢者が死んだとき、事故や事件性がなければ“自然死”、つまり「老衰死」と判断されるのでしょうか?
死亡の確認をし診断をするのは医師の役割です。
『NHKスペシャル「老衰死~穏やかな最期を迎えるには~」』(2015年9月放送)では、老年医学会が行った全国の高齢者医療に従事する医師を対象としたアンケート結果を紹介し、「老衰死として診断することに対して、難しさや不安・葛藤を感じたことはあるか」という質問に対して、46%が「ある」と回答しています。
その理由は次のようなものでした。
・老衰死の定義が不明確
・高齢者の場合、複数の疾患が複雑に絡み合っている症例が多く、老衰死と診断するのが難しい
・老衰死とすることを認めるための社会的合意が必要だから
(参考:NHKスペシャル取材班『老衰死』講談社、2016.より)
このように、専門医でさえ診断が難しいのが「老衰死」と言えるでしょう。
介護現場にみられる「老衰死」の現実
同番組では一方で医師や研究者(国外も含めて)へのインタビューを行いながら、もう一方で、現場で「老衰死」の経験に密着するという、二本立てのスタイルで番組が構成されています。
とくに、東京都世田谷区特別養護老人ホーム「芦花ホーム」での取材が大きく取り上げられています。
その中で、石飛幸三医師が中心となって「平穏死としての老衰死」を看取っていると番組は紹介しています。
緊急に搬送された病院では、医師も患者と接触できる時間は限られ、とくに「老衰死」と判断するのは至難のことでしょう。
その点、介護施設などではかなりの時間を、本人と接しながら診ていくことが可能です。それが、「老衰死」という判断を可能なものとしているように思えます。
そして、老衰死していく人たちが共通して見せるサインが、次の3つだと言います。
・亡くなる1週間ほど前から食べなくなる
・多くの時間を眠り続ける
・大量の尿が出て、枯れるように亡くなる
(参考:同上書より)
延命か老衰か:私たちの選択が可能
「いかに生きながらえるか」という難問にチャレンジして医学・医療は発展し、超高齢社会が達成されてきました。延命の技術としての医学はなおも進歩を続けています。
その一方で、延命治療をしないで穏やかな老衰によって死んでいく人も増えています。
戦争や大災害、犯罪に巻き込まれるといった事故・事件がなければ、今、日本人の私たちは「延命か老衰か」を選択できる時代を生きています。
ですから「どう死にたいのか」を考えたり、話し合ったりする時間をもっと大切にする必要があるでしょう。
NNKではなくPPK!
「ただ長生きをするだけでなく、亡くなる直前まで元気に活動する」というのがPPK(ピンピンコロリ)で、対になっているのは「長期の寝たきりで亡くなる」NNK(ネンネンコロリ)だそうです。
長寿社会で健康寿命を伸ばすことが課題になっている中、こうしたコトバが流行るのでしょう。
老化を予防する概念として「フレイル」ということが言われています。
運動不足や栄養不足などが老化と合わさって、病気にかかりやすくなったり寝たきりになりやすい「脆弱性」のことを指しています。
健康日本21(第2次)ではフレイル対策がキーワードともなっています。「健康寿命を伸ばすべく、よく食べ、しっかり運動し、よく眠ろう!」というわけです。
多分、そうした努力を怠らず若いときからPPKを心がけたから、いよいよとなって老衰が受け入れられて「穏やかな死」を迎えられるのかもしれません。
【参考】
・政府統計「平成29年我が国の人口動態」(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/81-1a2.pdf)
・NHKスペシャル取材班『老衰死』講談社、2016.
・社会福祉法人 世田谷区社会福祉事業団『世田谷区立特別養護老人ホーム 芦花ホーム』(http://www.setagayaj.or.jp/service/nursinghome/roka/)
http://ikiiki-laboratory.com/ppk/
<執筆者プロフィール>
藤尾 薫子(ふじお・かおるこ)
保健師・看護師。株式会社 とらうべ 社員。産業保健(働く人の健康管理)のベテラン
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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情報提供元: mocosuku