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行列に並んでしまう心理に「セロトニン」の分泌が関与!?

2019-02-26 18:30:09


執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ
ラーメン屋など人気店に見られる長蛇の列、新しいゲームや電子機器などの発売前に徹夜で並ぶマニアたち、スポーツの試合やコンサートを何時間も前から待つファン…
人はなぜそうまでして行列に並ぶのか、疑問に感じたことはありませんか?
今回は行列に並ぶ人々の心理について、脳科学の分野から興味深い研究発表などを交えてご紹介します。

同調行動としての行列:行列への心理学的意味


「同調」とは、他者の標準や期待に沿って、他者と同一あるいは類似した行動をとることを指します。
かみ砕いて言うと「皆と同じように振る舞う」という意味です。
また、「赤信号、皆で渡れば怖くない!」の喩えのように、不確かさや不安が伴うときには「同調」することで安心感を得る、結果が悪くても「皆も同じだから仕方がない」と自分を慰める…といった側面も持っています。
概して同調行動をとる人の心理というのは、自分が何をしたいのかハッキリしていない、自分の選択に自信がないなど、人間の弱さ故の現われともみなされてきました。

行列マーケティング


「行列マーケティング」は、このような同調行動を活用したマーケティング手法の一つです。
意図的に行列を作り、待たせたり焦らしたり煽ったりすることで人々の期待感を高め、集客率を上げていく方法です。
そうすると、「バンドワゴン効果」という現象が起こり、満足感や信頼感の強化が期待できると考えられています。
このバンドワゴン効果とは「ある選択を支持する人が多ければ多いほど、その選択が正しいと思い込む群集心理」のこと、いわゆる『勝ち馬に乗る』『トレンド』という意味です。
同調行動の根底には「長いものに巻かれたい」「付和雷同」といった、集団に同調して“安心感を得たい”という群集心理が働いています。
行列マーケティングはそんな人間の心理を巧みに突いた商法と言えるでしょう。

脳科学の研究:セロトニンが辛抱強さを促進する!


行列への同調行動が“安心感を得たい”という心理に支えられて定着していることに関して、このほど脳科学の分野から、この現象を支持するような興味深い研究結果が出されています。
複数の研究機関が共同で行った研究プロジェクトで、沖縄科学技術大学院大学神経計算ユニットは、光を使ってたんぱく質を制御する、光学と遺伝学を融合した光遺伝学の手法を用いて、脳内の特定の神経細胞の活動を制御する試みを行いました。
そして、セロトニン神経の活動を増加させることで「辛抱強さ」が促進されるという結果を、マウスを使った動物実験により得たのです。
実験箱の壁に設置された小窓に一定時間マウスが鼻先を入れていると餌がもらえるような状況を作っておいて、光でマウスのセロトニン神経細胞を刺激すると、鼻先を小窓に入れている時間が延びたといいます。
この結果から、将来的に得られる報酬をじっと待っているとき、セロトニン神経活動が活発化することで待つ時間が増える、つまり、辛抱強さが促進されることが明らかになったのです。

神経伝達物質セロトニンの役割


脳内ホルモンとも呼ばれる神経伝達物質は、神経細胞間のすき間(シナプス)にあって、シナプス内でさまざまな情報を伝達する役割を果たしています。
そして、神経伝達物質の働きのよさや悪さが、多様な病気に影響することもわかってきました。
たとえば、ドパミンの急激な減少により起こるパーキンソン病、ノルアドレナリンの働きのバランスが崩れることで起こるパニック障害などが明らかになっています。
同様に今回の研究で注目されたセロトニンも、精神を安定させる働きを持つ神経伝達物質として、よく知られるようになってきました。
セロトニンは興奮系のドパミンやノルアドレナリンの働きを抑制する一方で、逆に低下すると攻撃的になる、不安や抑うつ状態が高まるなどの影響があることもわかってきています。

今後への期待


今回の沖縄科学技術大学院大学の研究では、セロトニンの増減というより、セロトニンを出している「セロトニン神経」の働きに注力して実験が行われました。
行列に並びたがる心理は、同調行動によって得られる安心感や満足感がおおもとにあります。
脳科学的には、セロトニン神経細胞が活発化して辛抱強さが促進されることによって、このような行動に至るらしい…とわかってきた段階でしょう。
辛抱強く行列に並んでいられる行動には「セロトニン神経細胞の活性化」が関与しているらしい…そんな新たな推定が生まれたというわけです。
この研究は2014年8月に発表されました。
それからしばらく時間は経っていますが、人間の同調行動あるいは行列に並ぶ人たちに、セロトニン神経細胞や神経伝達物質セロトニンがどのように影響しているのか、さらに詳しく解明されるのはもう少し先になりそうです。
しかしながらこの研究がもたらす成果について、私たちが“辛抱強く”待つ価値は十分にあるのではないでしょうか。
<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供

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情報提供元: mocosuku