
「Netflix」などを通じて世界中の視聴者が国を超えてさまざまな映像作品を視聴できるようになった今。日本人俳優が国際的に注目される機会も増え、今後ますますその垣根は低くなりそうだ。
【写真で見る】ドラマストリーム『スクープのたまご』主演・奥山葵さんと“恩師”奈良橋陽子さん対談の様子
『ラストサムライ』『SAYURI』など、ハリウッドで日本人俳優のキャスティングディレクターとして高く評価され、その世界の第一人者として知られる奈良橋陽子さんは、40年にわたり「海外でも活躍できる」俳優を、世に送り出してきた。NHK朝ドラで主演したシャーロット・ケイト・フォックスさんのキャスティングなど、日本でも活躍。世界と日本をつなぐ“架け橋”として、数々の功績を重ね上げてきた。
その奈良橋さんが、東京で主宰する俳優養成所「アップスアカデミー」の“門下生”の一人が、10月7日スタートのドラマストリーム『スクープのたまご』でドラマ初主演を務める、俳優の奥山葵さんだ。1999年生まれ、北海道出身。「ハリー・ポッターに出たい」という夢を抱き、2018年にアップスアカデミーに入学。同校在学中に海外ドラマ『Giri / Haji』(Netflix、2019年)にキャスティングされ、瞬く間に“国際派俳優”の仲間入りを果たした新星だ。
今回、奥山さんが「すごく尊敬している」と話す恩師・奈良橋さんとの初の“師弟”対談が実現。互いを「葵ちゃん」「陽子さん」と呼び合い、柔らかいトーンで率直な思いを明かす奥山さんと、愛弟子を優しく見つめながら「最高!」と手放しで褒める奈良橋さんの“両思い”が伝わってくるピースフルな対談となった。
二人の出会いから、世界で活躍するために必要なもの、見据える未来など、あふれる思いの丈を聞いた。
すぐに見抜いた才能――海外オーディションを合格に導いた“トランプ”
奥山:陽子さんと出会ったのは、2017年でした。当時「よし、じゃあ俳優の学校に行くぞ」と決めて、検索で調べた時に1番上に出てきたのが、アップスアカデミーだったんです。正直、最初はよく分かっていない部分も多くて…。
奈良橋:そうよね、最初は分からないですよね。そこから少しずつ分かってきたのは、いつぐらいでした?
奥山:1年目の途中ぐらいでしたね。陽子さんが演出されたアップスアカデミーのその年の卒業公演に、1年生としてちょっとだけ出させていただいた時に、それがすごく面白い経験だったんです。“1つの演劇を作る”という。
奈良橋:いろんな生徒さんがいらっしゃる中でも、葵ちゃんは、すごく繊細だけど、「明確」な何かがあったの。卒業公演の時も、すごく良かった。ハキハキとしているのと同時に、繊細で、ユニークで。すごくすてきなものを持っていました。
奥山:ありがとうございます。
奈良橋:なので、『Giri / Haji』の話が来た時には、疑いもなくすぐに「葵ちゃんだ!」と思いました。それでオーディションで私がすごくうれしかったのは、「これは勝ったな」と思った時。オーディションで(窪塚(洋介)いらっしゃった時に、(台本に)トランプが出てくるシーンで、実際に葵ちゃんが自分で持ってきたトランプを出して、遊び始めたんです。もう、これは最高と思いました。
奥山:今でも家にあるんです、そのトランプ。
奈良橋:ははは、そうなのね! その時の葵ちゃんがすごかったのは、これは我々の世界では「アクティビティ」とも言うのですが、人間って誰かと面と向かって話しているときでも、いつも絶えず何かやっているんですよね。なので、アクティビティがあると、ちゃんとリアリティーがある。葵ちゃんはすごく想像力が豊かで、それを見せかけではなくて、丁寧にやっていたんです。それが印象に残っています。
奥山:ああ、うれしいです。トランプはオーディションの時に買ったんです。本当にその時が初めてのオーディションだったので、もういっぱいいっぱいで。台本を読むのも初めてだったので、やれることは全部やろうって。「トランプって書いてあるから、トランプをやろう」と思ったのを覚えていますね。
奈良橋:そうやってアクティビティとして何かをするのは、すごく良いことなんです。要は“演技”をしないので。そのリアリティーは、すごく外国では大事にされています。私は何も言わなかったのですが、葵ちゃんはトランプを持ってきた。そしてそこで、本当に受かっちゃった。だから、葵ちゃんが1番最初にシンプルにそれをしたということが、すごく大事だなって。大袈裟でもなくて、本当に自分の想像力を使ってしていたんです。
奥山:今、そのお話を聞けてよかったです。それはアップスで学んだことでもあったので、私にとっても、すごく大きかったと思いますね。アップスでは本当にいろんな方に助けてもらいました。陽子さんからは、いつもオーディションや演技のフィードバックを頂いて、尊敬している方からそうやって評価していただくのは、本当にうれしくてありがたいです。
「観客が字幕を読むようになった」 日本人俳優が世界で活躍する理由
奈良橋:海外でも通用するという意味で大事なのは、葵ちゃんはもう天性だと思うのですが、嘘をつけない。けど、想像力はたくさんある。ちゃんと、自分の中にあるものと結びつけているんですよね。シンプルでありながら、ひたすらそれをちゃんとすることが、1番演技とも結びつくので。だから海外でも、自然と通用するんですよね。
奥山:最近は、気づいたら海外に進出している日本の俳優さんも多いですよね。私は、海外にも通用するということは、「枠がない」ということかなと思っています。枠がなければ、日本とか海外とか関係なく、どこでもやっていける。同じ人間として、同じ土俵でお芝居ができると思います。私は、初めての仕事が海外の仕事で、そこまで“海外”というワードが特別ではないかもしれないです。お芝居が楽しいから、いろんな人の、いろんな感情を使えるのは、どこの国のどんな作品でもいいかなって思います。
奈良橋:そうですよね。葵ちゃんの『Giri / Haji』の演技はとても評価が高くて、いろんな人から、すごく言われました。葵ちゃんは、やっぱり映像に向いているなと思いますね。あとは、ここ数年で、実はすごく変化していることがあります。例えば韓国の映画『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督、2019年)が大ヒットしましたが、そういうこときっかけで、アメリカの観客が字幕を読むようになったんです。前は字幕を読むことはあまりなかったので、いつも英語ができる俳優しか選べませんでした。
でも、今はだいぶ楽になってきて、『SHOGUN 将軍』(2024年)もそうですが、かなり日本語も使えるようになりました。今、『Giri / Haji』でも葵ちゃんと共演した、日本とイギリスのルーツを持つウィル(シャープ)さんという俳優さんが手がけている作品も、日本語は全然OK。英語ができないからだめかな、ということがなくなったのは、大きな変化ですね。
奥山:ウィルはもう、本当に楽しそうにお芝居しますからね。最高です!
奈良橋:そうそう。“He is very funny! (彼はすごく面白い人よ)” イギリスでもどんどん評価されていますよね。そういう意味でも、日本人にとっては、今がチャンスですね。
日本には日本の楽しさも ドラマ初主演「全力でガーって行く」
奥山:今回、私は日本のドラマで主演するのは初めてなのですが、海外と違って、スケジュール感とか撮っていくスピードとかは違うと感じます。海外の撮影では、順撮り(シナリオの冒頭から順を追って撮影を進める方法)で進めていくことが多かったです。日本でも、現場で監督とお話する機会もたくさんあって、そこは海外とも同じですごくクリエイティブだと思います。楽しいなと思いながら撮影しています。
奈良橋:そうね、スケジュールや進行は、やっぱり違いますよね。
奥山:『Giri / Haji』は1日に撮影隊が撮るシーンが3シーンぐらいしかなくて、私は1シーンしか出ていないということもありました。そもそも、1日に撮る量が違います。
奈良橋:今回は、葵ちゃんは全部出ているもんね。
奥山:そうですね。今私が演じているのは大手出版社の週刊誌「週刊千石」の編集部で働く入社2年目の記者・信田日向子(しのだ・ひなこ)なのですが、撮影のスピード感と、編集部の環境が同じような感じで、すごくマッチしていて、ちょうどいい感じです。もう、全力でガーって行くっていう感じが。振り落とされないように、という気持ちですね(笑)
奈良橋:あははは。それはいいですね。
奥山:はい、すごく楽しいですね。毎回現場でいろいろなキャストやスタッフの方に会うので、それも楽しいですね。
奈良橋:そこで「楽しい」って言うから、葵ちゃんはやっぱり最高。デリケートにも見えるじゃないですか。けど、すごい頑張り屋です。 “That's fine(それでいいわよ)” 彼女は全然、壊れないと思います。
奥山:うれしいです!
夢は「魔法使いになること」 師弟で描く『ハリー・ポッター』出演の未来
奈良橋:私、ふと思ったんですけど、今でも『ハリー・ポッター』に出たいと思います?
奥山:そうですね。アップスに入る前からずっと思い続けていて、今でも出たいと思っています。ただ、私の場合は何の役でというよりは、「魔法使いになりたい」というのが夢だったので、ハリー・ポッターの世界に入りたいですね。
奈良橋:ははははは。そうか。実は私の1番の大親友のジェーンが、彼女はもう引退はしたのですが、ずっと10年以上ハリー・ポッターのキャスティングをしていたんです。今、ハリー・ポッターの新しいシリーズの話もあって、まだ続いているんだなと思って。だから私、一生懸命調べて、「キャスティング誰ですかね?」って聞いて、葵ちゃんをPRしますよ!
奥山:わあ!
奈良橋:だって、夢だったらね、“Maybe, you can do it! That’ll be great! (できるわよきっと!すごく良いじゃない!)” なんか不思議な、ちっちゃな魔法使いとかね、合いますよね? 面白いと思う。“Let me try(やらせてみて)”
奥山:ありがとうございます! 私の中ではずっと変わらない夢で、その夢が多分1番大事な、1番ワクワクした経験だと思うので、自分の中で大切にしたいなと思っています。いろんな役の人生を楽しんで、「自分じゃない人生」をできることが、お芝居の1番楽しいところだと思っているので、ハリー・ポッターもそうですし、そういう機会に恵まれたらいいなと思いますね。
奈良橋:願うことは、本当に素晴らしいこと。それで、信じるとね、不思議と実現するんですよね。だから、“Let's see. We'll try! (やってみましょうよ!)” 葵ちゃんのこれからは、もう単純に、すっごく楽しみで、いろんなことに挑戦してほしいし、できると思います。そこで少しでも、私たちが何となくでも、一緒に旅をするような「応援隊」でいられたら、うれしいなと思います。
奥山:あったかいですね。すごくうれしいです。なんか今回の対談、私がうれしい回になっちゃいました。ありがとうございます。
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