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「10代や親世代にも観てほしい」~“若者に迫る闇”を描いた映画『愚か者の身分』製作陣に聞く~【調査情報デジタル】

エンタメ
2025-10-18 08:00

闇バイトの募集に応じて強盗や特殊詐欺などの犯罪に加担し逮捕される若者のニュースが連日報じられる中、注目の映画が間もなく全国公開される。闇ビジネスから抜け出そうとする若者3人の3日間の逃走劇を描いた『愚か者の身分』だ(10月24日金曜日公開)。製作したのは、Netflixシリーズ「今際の国のアリス」などを手掛けるプロデュース集団THE SEVEN。同社初の劇場作品となる。森井輝プロデューサーと永田琴監督に、“現代の日本の若者に迫る闇の部分”をテーマに選んだ狙いなどについて聞いた。


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異例 出演の俳優3人が揃って「最優秀俳優賞」を受賞

――映画の全国公開に先立ち、先月韓国で開催された釜山国際映画祭で、ワールドプレミア上映され、主演の北村匠海さん、林裕太さん、綾野剛さんの3人が「最優秀俳優賞」を受賞し、話題になりました。3人揃って受賞というのは珍しいですね。


森井 釜山国際映画祭で新設されたコンペティション部門で、アジア圏の14本に選んでいただけたというのがまずあり、その上で、初めての最優秀俳優賞に選ばれたということは非常に喜ばしいです。しかも本来は1人だけが選ばれるはずのところ、うちの『愚か者の身分』を観て3人を選んでくれたということは、この映画を気に入ってないとそうならないんですよ。


それはこの映画が3人の目線で描かれているからであって、よく映画の内容が届いてるってことだと、内容を誉められたと受け取っていますので、それが非常に嬉しいです。


永田 本当に嬉しかったです。もし3人息子がいたら「誰にお祝いの時計をあげようかな」と考える時ってあると思うんです。「他の2人には秘密にしなきゃ」みたいな感じで。「もし何か賞をもらったらそんな気持ちになるんだろうな」と思っていたから、「えっ、3人ともお祝いあげていいの?」と、本当に嬉しかったですね。


――受賞されたお三方の反応は?


永田 綾野剛さんは去年、Netflixの「幽☆遊☆白書」で釜山の賞(アジアコンテンツアワード&グローバルOTTアワード2024)にノミネートされ、さらに今年の釜山国際映画祭のコンペで評価されることは嬉しかったと思います。すごく噛みしめている感じがしました。


林裕太くんも、もちろんすごく嬉しいと思いますが、すべてが初めての経験だから、きっとひとつひとつが特別で、この2人と一緒に過ごせること自体が何よりの喜びのように感じました。北村匠海くんは少し驚いた表情だったと思います。あとで私に「僕たち3人が認められたってことは監督が認められたってことですよね」と言ってくれて、私も噛みしめました(笑)。


“現代の日本の若者に迫る闇”~知っているようで目を向けないことを映画に~

――さて、Netflixの「今際の国のアリス」や「幽☆遊☆白書」などエンタメ性の強い作品を手掛けたTHE SEVENが初の劇場映画に、現代の日本の若者に迫る闇の部分を描いた作品を選んだのは意外でした。どんな狙いがあるのでしょうか?


森井 日本の中身の問題とか、若者の貧困、あまり知ってるようで実情を知らない人が多いと思うんです。日本人ってみんな、「日本って良い国」みたいな幻想があるじゃないですか。だけど実際、僕より若い世代が食べるのにも困っていたりしているという現状を、知っているようで目を向けないことを映画にしてみたいと思っていました。


我々はオリジナルIP会議というのを定期的にやっているんですけど、その中で「若者が走ってしまう闇バイトものなどをテーマにしてできないかな」なんて話をしてたところに、永田琴監督からこの企画の提案を受けた流れです。


――永田監督がこのテーマで映画にしようと思ったいきさつは?


永田 実は自分の身近で、警察のお世話になることが起きたんです。私自身今までそういうことに全く触れたこともなかったのだけど、その出来事を通して、若い子がなぜ犯罪や、犯罪まがいのことをしてしまうのか、どういう気持ちなんだろうと考える様になって。


やっぱり悪いことをしたら自分の人生に傷がつくわけじゃないですか。だけど話をしていると「就職の時にそんなこと調べられたりしないし、よっぽどのところに行かない限り表に出ることはない」と。「いやいや、どういう価値観でそんなことが言えるの?」と、驚きを超えてショックだったんですよね。


私の様に昭和の人間にとって、犯罪ってもっと遠くにあって簡単には触れることがない絶対的にダメなことだったのに、今は善と悪にわかれている中で、すごくグレーなところに存在しているみたいで。絶対に超えてはいけない一線だったはずが、今はそうではない。


「こういうことが起きても、まあこのくらいで済むらしい」とか、「大丈夫じゃね?」みたいに、若い子たちが自分で調べて簡単に判断できてしまう。“情報が手に入りやすいがゆえに、自分の中で恐ろしいことまで安易に判断できてしまう世界”が、本当に怖いなと思ったんです。 


だから彼らの精神状態を知りたくて、ドキュメンタリーを見たり、ルポやノンフィクションの本を読んだりするようになりました。それがだんだん“若者の貧困”や“犯罪”、女の子でいうと“パパ活”や“虐待”に遭ってる子たちの話に広がっていったんです。


最初はただ知りたいだけだったんです。でもだんだん知識が増えるにつれて、「私もこういうテーマで何か映画を作れるかもしれない」と思うようになって。それからそのテーマと「馬の合う原作はないかな」と小説を探し始め、最終的に「愚か者の身分」(西尾潤・徳間文庫)に出会いました。


登場人物のバックボーンを描くことに注力

――そんな今の若者に迫る闇の部分を描くにあたって、一番気を遣ったというか、力を入れた点はどこですか?


永田 “若者の犯罪“って2つのパターンがあると思うんです。1つは、経済的に恵まれていても罪を犯してしまう人、つまり“興味本位”とかで闇バイトに手を出してしまう人です。もう1つは“貧困の連鎖”、親が貧困のために自分も貧困にならざるをえず犯罪に走ってしまう人です。


今回は、その貧困連鎖に陥っている若者のストーリーをメインにしたのですが、「なぜ貧困に陥ってしまったのか」という彼らのバックボーン、それがはっきりわかるように、そのキャラクター作りに気を遣いました。


例えば、「愛がわかるか、わからないか」。マモル(林裕太)は親に捨てられ全く“愛”というものがわからない。でも北村匠海が演じたタクヤには、ちゃんと家族がいました。母親が離婚後病死し、病気持ちの弟と2人になるんですが、しばらくはおばあちゃんが面倒を見てくれた。ちゃんと愛されて育ったのだけど、おばあちゃんも亡くなり、病気の弟と2人、その病院代を稼ぐのに貧困にならざるをえなかった。不遇なのです。


愛を知っているか知らないかによって、その後の生き方も違うし、人に対する愛情の持ち方や信頼の仕方も変わってきます。家庭の味を知っているかどうかもそこに起因します。そういうことをどう設定するか熟考し、登場人物のバックボーンをしっかり作ることに気を遣っていましたね。


北村、綾野のキャスティング秘話~配役案を消して出した企画書~ 

――ところで、北村匠海さんと綾野剛さんのキャスティングについては、元々、永田監督のご希望だったそうですね。


永田 それが実は偶然だったんです。というのも、希望はあったんですけど自分の監督キャリア的にお二人のビッグネームは押さえられないと思っていたので、プロデューサーには言ってなかったんですよね。


森井輝プロデューサーにこの企画を渡した時、キャストの名前は全部消して渡したんですよ。既に私は1年以上、『愚か者の身分』に取り組んでいたので、森井プロデューサーに私がいろんな意味で凝り固まってると思われたくなかったんですよね。もう一度、まっさらな気持ちで森井プロデューサーと一緒にやっていくぞというつもりで、私が勝手に考えていたイメージを全部消して渡していたんです。


だから彼が「匠海くんがやりたいって」「剛くんも受けてくれるって。この2人でいいよね?」みたいな感じで言われたときに、本当にびっくりして…。「やった!!」って(笑)。


――3人の中で一番下の弟分マモルを演じた林裕太さんはオーディションで選ばれたそうですね。


永田 キャスティングの方から「このぐらいの歳の方で実力もありそうな人」と選ばれた数人のオーディションでした。皆さん実力は本当に素晴らしかったのですが、林くんは私がイメージしていたマモルで、「マモルがそこにいる!」と思いました。


オーディションのときに演じてもらったのは、シェアハウスでベッドが隣同士のタクヤが、マモルにパンを投げるシーンです。マモルは、絶対に手を出さないぞと思っているのにお腹がすきすぎて食べてしまいます。その“食べ方”というか“貪り方”がすごく良くて、目力も不信感も「マモルの一番芯の部分をちゃんと持っているな」って思ったんですよね。


「バランス良くはまった」3人

――その3人が揃って「最優秀俳優賞」を受賞したことは、まさにベストマッチングでしたね。


永田 いろんなことのバランスがすごくちょうどいいんですね。3人ともすごく素直で情熱をちゃんと持っていて、決して斜に構えたりしない。3人集まって取材とかしているのを見ていると本当に愛おしいです。


匠海くんと剛さんは、「幽☆遊☆白書」でもご一緒されているんですが、アクションが多く芝居という芝居は少なかったみたいで、今回お互い初めてちゃんと芝居をしたみたいなんです。


その中で剛さんはどちらかというと、自分のお芝居プランがきっちりある方なんです。私が剛さんの考えをしっかり受け止めようと話をしている間、匠海くんはただ横で何も言わずに待っているという。


出しゃばって来ない匠海くんがいて、だけどちゃんと芯はあって。その彼が林くんには何かを伝えたいと思いながら譲りつつ、常に兄貴分として彼を支えてくれる。プライベートでもそんな感じでサポートしてくれていました。


きっと性格のバランスがいいんですね。いろんなことが「本当にうまくバランス良くはまったな」と感じます。3人が三様にいいので、そこをやっぱり観てほしいなと思うし、評価されたことの1つに、それぞれのキャラクターが死なないように編集まで持っていけたということがあると思っています。


というのも、尺との戦いになったときに、「ここはあんまり本筋と関係ないから切ろうか」っていう、10秒15秒の積み重ねで編集点を探ることがあるんです。そういう時に登場人物たちのささやかな仕草なんかを切らずに残せた。そのことは大きかったかなと思うのです。何かそういう登場人物の奥行きを観て感じてもらえたら嬉しいなと思います。


「10代」や「親世代」にも観てほしい

――この映画、こういう人たちに特に観てほしいというのはありますか?


森井 実は10代の人とかにも多く観ていただきたくて。「自分たちがこの先こうなってたらどうしよう」とか、当たり前に親がいて、当たり前に指導してくれる人がいることの幸せをちょっとでも感じてくれたらいいなというのも思います。


かつ、何でこういう若者が生まれてきてしまうのかというのを考えてもらうとか、なるべく疎ましいものと思わず、何かその彼らにも、否応なくこうなった事情があるのかもしれないって思う人が増えるだけでも少しは変わるのかなと思っています。


永田 私は当初、子供がいる親の立場の人に観てほしいと思って作り始めたんです。大学生や就職する年代の子供を持つ方が周りに多いのですが、自分の子は大丈夫と思っていることがほとんどだと思います。


子供たちにもそれなりの教育を与えてあげられる友人が多いのですが、「子供っていうのは、親が思っている以上に不安定でいつどんな方法で道をそれちゃうかわからない」危うさがあるっていうことを観て知って欲しいなと思っています。


――一方で、この映画は日本以外にも向けていると伺っています。テーマ選びも含めて世界を意識されて作られたということでしょうか。


森井 そうですね。正直、国内で起きている問題など日本の実情を、日本人よりも海外の人の方が実は知っていたりするところもあるのかと思います。


貧困含めて世界中で同じ問題を抱えていたりするじゃないですか。でも日本だけが、「日本は良い国」だと、国内の実情に目を背けているようなところを疑問に思っていて。だから内部からそういう映画を作り、国外から見ても共感できるものなんじゃないかなというところで、やってしかるべきかなと思いました。 


THE SEVENが今後目指すところ

――今回は初の劇場映画ということでしたが、THE SEVENとして、今後どんな作品づくりを目指していかれますか?


森井 グローバルでヒットを狙うドラマシリーズや映画を作って、国内外で成功させるのは、もちろん当たり前の目標なんですけども。


自分たちでしっかり実績を作っていくことで、こちらから売り込まなくても、先方から「ぜひうちでやりませんか」「うちで撮ってほしい」と指名してもらえるような存在になりたいです。


原作がない、僕らが1から作ったオリジナル企画だとしても、「THE SEVENが作ったんなら、きっと面白いだろう」「間違いない」と期待されるようになりたいと思っています。


――先日、TBSとU-NEXT、THE SEVENの3社が初めてタッグを組んだプロジェクトが発表されました。人気コミックを実写化した『ちるらん 新撰組鎮魂歌』(主演:山田裕貴)が来年春に放送・配信されるとのことですが、どんな作品ですか?


森井 現代でやるのにふさわしい内容なんですよ。明治維新前夜の大変革期で、世の中が否応なしに流れていって今まで普通だったことが普通じゃなくなる時代に生きた人たち。その中で、「自分はこうだ」「自分はこうしたい」「自分はこうなってやる」というふうに思った人たちの話なんですね。そんな登場人物を通して、何か視聴者が力をもらえるような内容を目指して作っている作品です。


(聞き手 「調査情報デジタル」編集部)


【株式会社THE SEVEN】
TBSホールディングスが出資して、2022年1月に設立。
世界に向けた日本初の革新的なエンターテインメントコンテンツを創造していくことを目指すプロデュース集団を標榜する。
同年11月にはNetflixと戦略的提携を締結。Netflixシリーズ「幽☆遊☆白書」(2023年12月~)、「今際の国のアリス」(2020年12月~、最新作シーズン3は2025年9月~)が世界配信されている。


〈森井 輝(もりい・あきら)氏の略歴〉
THE SEVEN 取締役副社長 / チーフコンテンツオフィサー (CCO)・プロデューサー
1995年『幻の光』を皮切りに『キッズ・リターン』『血と骨』など多くの映画制作に従事。2009年株式会社ロボットに入社し『MOZU』(国際エミー賞にノミネート)など数々のシリーズヒットコンテンツをプロデュースする。2020年には自ら企画した『今際の国のアリス』が全世界配信され、日本以外にも韓国・タイ・フランス・ドイツほか多くの国で視聴回数TOP10入りを果たす。2025年9月から配信開始の『今際の国のアリス』シーズン3は、Netflixグローバル週間1位(非英語シリーズ)、シーズンすべてがTOP10入りする成績を収めた。2022年8月よりTHE SEVEN所属。


〈永田 琴(ながた・こと)監督の略歴〉
大阪府出身。関西学院大学商学部卒業後、岩井俊二監督をはじめ数々の撮影現場で助監督経験を経て、2004年にオムニバス映画『恋文日和』で劇場公開デビュー。以降、映画『渋谷区円山町』(06)、『Little DJ~小さな恋の物語』(07)、『全員、片想い』(16)、WOWOWドラマ東野圭吾「分身」(12)、「変身」(14)、「片想い」(17)、テレビドラマ「イタズラなKiss Love in TOKYO」(13/フジテレビTWO)、配信ドラマ「東京ラブストーリー」(20/FOD・Amazon Prime Video)、ドラマ「ライオンのおやつ」(21/NHK BSプレミアム)などを手掛ける。


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


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