
「自分の葬式では、この曲を流してほしい」そんな投稿を、X(旧Twitter)で目にする機会が増えた。
【写真で見る】“銀髪”のベテラン葬儀屋を演じる柿澤勇人さんらが登場(ドラマストリーム『終のひと』初回場面写真
かつて葬儀といえば、決まりきった流れと演出の中で、静かに、厳かに執り行われる“儀式”だった。オルガンやオルゴール調の音楽、正面を向いた白黒の遺影、画一的な供え物――そこに故人の嗜好や生き方が反映される余地は、あまりなかったと言える。
今、葬儀の風景は確実に変わりつつある。故人が生前好んでいたJポップやロック、アニメソングが式場に流れ、遺影には笑顔のスナップ写真や横顔の一枚も選ばれる。祭壇には、愛用していた小物や趣味の品、好きだった食べ物が並ぶ。それは「簡素化」ではなく、「選択」の結果だ。
ユニクエスト(大阪市西区)が手がける全国対応の葬儀サービス「小さなお葬式」は、2009年のサービス開始以来、家族葬を中心に時代に即した葬儀の形を提示してきた。葬祭ディレクターとして現場に立ち続けてきた葬祭事業部の福井博乃さんは、「葬儀の変化は、価値観の変化そのもの」と話す。
1月スタートのTBS系ドラマストリーム『終のひと』(柿澤勇人さん主演)でも、葬儀社を舞台に“死と生”に向き合う人々の姿を描き、劇中でも“今”の葬儀の在り方が随所に浮かび上がる。現代の葬儀はどこへ向かっているのかーー。“別れ”の現場で起きているアップデートを、葬儀社のプロの視点からひもとく。
「儀式」から「その人の時間」へ――葬儀が映す価値観の変化
「一番大きく変わったのは、“誰のための葬儀なのか”という意識だと思います」
そう語る福井さんが葬儀業界に入ったのは、約15年前。当時は、近隣や親族、世間体を強く意識し、“儀式的”なところを重んじて「失礼がないか」を最優先に段取りを組むのが当たり前だったという。
「今は、『故人らしさ』や『遺された家族が後悔しないか』という視点が、明確に前に出ています。参列人数を最初から限定する家族葬が主流になり、無宗教葬や自由葬という言葉も一般的になりました」
かつては100人を超える参列者が集まり、通夜・葬儀・告別式・火葬までを執り行う伝統的で大規模な葬儀「一般葬」も珍しくなかったが、現在では全国的に見ても一般葬は全体の3割ほどにとどまるという(葬儀情報サイト「いい葬儀」による「第6回 お葬式に関する全国調査(2024年)」より)。
とはいえ、「簡素化」という言葉で語られがちな変化について、福井さんは首を横に振る。
「省略ではなく、“選択”です。やりたいこと、やらないことを、自分たちの価値観で選んでいる。葬儀の変化は、価値観の変化そのものだと思っています」。
葬儀社として提案する内容も、「“一般的にこうだ”という正解ではなく、“こういうこともできます”と伝えて、お客さまの思いを聞きながら選択肢を整理していく。一緒に考える存在としての役割が、今の葬儀社には求められていると思います」と続ける。
「この曲を流してほしい」 音楽が呼び起こす“その人らしさ”
葬儀の変化を顕著に象徴しているのが、「音楽」だ。
15年前、式場で流れるのはピアノやオルゴールのメドレーが定番だった。今も無難なBGMとして式場などに常備はされているが、故人や家族が明確に式で流したい音楽を選び、会場で流すケースは格段に増えている。
「宗教的な音楽や“悲しみの曲”というより、その人と一緒に過ごした“記憶”と結びつけられるような曲が選ばれます。一緒に旅行した時に聴いていた曲、よく口ずさんでいた歌。ジャンルもJポップ、洋楽、アニメソングまでさまざまです」
1曲に限らず、好きなアーティストの楽曲をメドレーで流し続けることもある。式典中だけでなく、式典が始まる前や、棺に花を入れて最後のお別れをする場面など、そのシチュエーションも大事な演出だ。
「その音楽が流れた瞬間に、その人らしさが式場にパッと広がって、式場の雰囲気が一気に柔らかくなったり、音楽は空気を変える力があるなと、現場でも感じていました」と福井さん。
「お祭りのようにそこで太鼓などの生演奏が行われたり、合唱団に入っていた故人の方の式では合唱の方たちが歌われたり。今はもう、分け隔てなく“その人らしい”色を出していくのが主流です。“これがだめ”というラインは基本的になく、自由度は高くなっています」とも。
家族葬の広まりによって、より故人に身近な人が参列する形に移行してきたからこそ、「一般葬で訪れる幅広い方々に気を遣うということもなく、音楽の選択にしてもやりやすくなったところはあると思います」と分析する。
音楽は、悲しみを増長させるためのものではなく、故人らしさを表現し、その人との思い出を呼び起こす役割へと変わってきている。
「遺影」のアップデート “普段の顔”を遺すという選択
遺影に選ぶ写真の変化もまた、葬儀のアップデートを象徴している。
福井さんも、「白黒写真は、今はほとんど見なくなりました」とその現状を明かす。
かつて主流だった、正面を向いた写真に着物を合成し家紋を入れる、いわゆる“着せ替え遺影”も、今ではほとんど選ばれない。代わりに増えているのは、普段着のままの、自然な写真だ。
「横顔だったり、ピースをしていたり、何かを飲んでいる姿だったり。“その人らしい”写真が選ばれています」
スマートフォンの普及で、写真の選択肢が圧倒的に増えたことも大きい。家族が集まり、「この写真がいいね」と自然に話し合って選ぶ光景も珍しくないという。
「小さなお葬式」では、式場にモニターを置き「写真をスライドショーで流すこともあります」。こうした「遺影」の変化は、「ここ10年にも満たないぐらいの感覚です」と言い、急速に変わっていっているようだ。
納棺などの際に着せる死装束や、死化粧も大きく変わった。
「白い着物、いわゆる白装束がとにかく多く、キリスト教でもスーツなどの正装が多かったのですが、今は洋服がかなり増えています」
白装束や死化粧は、生前に着たり施したりすることがないため、故人の“普段の姿”のイメージとは離れてしまう。
「髪型や服などが普段と違うと、『本当に亡くなってしまったんだ』『もう別物になってしまったんだ』というふうに、視覚的にも疎外感や悲しみを感じてしまうことがあります。普段から着ている服やお気に入りのメイクをすることで、『寝ているみたいだね』と話すご家族もいらっしゃいます」
祭壇も同様だ。花に囲まれた空間に、故人の趣味の品や愛用品、好きだった食べ物が並ぶ。ぬいぐるみや、応援していたスポーツチーム、推しグッズなどを供えることもある。
「音楽や飾り付け、進行などで、耳にしたものや目に入るもの…五感に働きかけるようなものが、お客さまの心に深く刻まれるのだと思います」と、現場では今、心に残る“演出”がより求められている。
“選ばせすぎない”という優しさも――現代の葬儀社に求められる役割
一方で、全てを「自由」にすればいいわけではない。「小さなお葬式」では、返礼品など、あえて選択肢を増やしていないものもある。
「葬儀は、精神的な負荷が非常に高い場面です。選択肢を増やすことが、必ずしも優しさにつながるとは限りません」
結婚式とは違い、準備期間も短い。「迷わせないこと、悩ませないこと」も、葬儀社の重要な役割の一つだという。
「本質的に選びたい部分の、音楽などの演出と、“一般的なものでいい”というところは分けています」と、例えばお通夜の返礼品であれば“消え物”で日持ちもするお茶やコーヒー、葬儀の際はハンカチやミニタオルなど、「昔からある一般的なもの」を提案。
「全部を選んでいると、決めなければいけないことが膨大にあるのが葬儀です。その中で、自由にやりたい部分に関しては、折り合いの付くところを一緒に模索しています」
ドラマ『終のひと』の舞台は、同じく「葬儀」の現場。柿澤さん演じるベテラン葬儀屋・嗣江宗助と、母親の急逝をきっかけに嗣江と出会い葬儀の世界に飛び込むエリート会社員・梵孝太郎(演・西山潤さん)らが、さまざまな死や遺族と向き合う姿を描く。
同じ現場に立つ経験を持つ福井さんは、ドラマについてこう話す。
「葬儀の仕事は、暗いものと思われがちですが、かけがえのない時間に立ち会い、“後悔のない別れ”を支えることができる、素晴らしい仕事だと実感しています。葬儀そのものが、悲しい、つらい、暗いというイメージがある中で、そうしたネガティブなイメージを、テレビの力で上げていっていただけたらなと思います」
“形式”から解き放たれ、“その人らしさ”を大切にする時代へ。葬儀は今、生きてきた時間そのものを、丁寧に映し出す場へと変わりつつある。
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