
2026年、デビュー20周年という節目を迎えたシンガーソングライターの秦 基博さん。2006年のデビュー以来、「鱗(うろこ)」や「アイ」、「ひまわりの約束」など数々のヒット曲を世に送り出してきた。
【写真で見る】デビュー20周年の秦 基博さんが主題歌を手がけたドラマ『未来のムスコ』より。主人公と同じ28歳だった頃の思い出は…
温かくも芯のある歌声と繊細な歌詞世界で幅広い世代の支持を集め、映画やドラマ主題歌でも存在感を発揮している。20周年イヤーの幕開けを飾る新曲「ポケットに魔法を入れて」はTBS火曜ドラマ『未来のムスコ』の主題歌。秦さんが原作や脚本を読み込み、書き下ろしたこの楽曲で、新たな一歩を刻んでいる。20年の歩みを経て生まれた最新曲に込めた思いとは――。
20年の歩みと、変わらない音楽への欲求
秦さんは、この20年を「本当に濃密だった」と振り返る。時間としてはあっという間にも感じられるが、一言では言い表せないほど多くの出来事があった。「もう20年たったんだなと思えること自体が、すごく幸せなことだと思います」と、継続できたことへの感謝をかみ締める。
20年前と現在とで音楽への向き合い方に変化があったかと尋ねると、秦さんは「根本的な部分は変わっていない」と明かす。何をどう表現するのか、自身の音楽的欲求は何なのか、それを形にしたいという思いは一貫しているという。
一方で、音楽との“付き合い方”は変化した。「今が頑張り時なのか、少し休んだほうがいいのか。そういう判断はできるようになったかもしれません」と語り、経験を重ねたからこその距離感をにじませた。
がむしゃらな時代を経てたどり着いた答え
かつては訳も分からないまま、がむしゃらに取り組むしかなかったという秦さん。特に楽曲制作では「できない時は本当にできない」と実感するようになったと明かす。
無理に作ろうとすると苦しさが先に立つ。「自分が苦しい中で音楽を作るのは、あまりいい状態じゃないと思った」と振り返る。
その違和感が、音楽との向き合い方を見つめ直すきっかけになった。
音楽を楽しめる自分でいること。そのためにどうすれば良いのかを考え始めたのは、デビューから10年ほどがたった30代半ばの頃だった。
ギターを弾き始めた頃の「ただ楽しかった」という感覚をどう保つかを模索する中で、「手放す勇気」の大切さにも気づいたという。やりたくないと感じる時は無理をしない。逆に、できそうだという予感がある時は深く向き合う。そうしたメリハリを意識することで、自身への理解も深まったと語る。
がむしゃらに頑張った時代については、「やってみて分かったことも多かったと感じます」と率直に振り返る。その経験があったからこそ、今の距離感がある。
「一番大変だった」あの頃
主題歌を手がけたドラマの主人公・汐川未来(演:志田未来)と同じ28歳当時を振り返ると、26歳でデビューした直後からの多忙な時期にあたり、目まぐるしい日々だったという。ツアーを行いながら楽曲を作り、分からないことばかりの中で同時進行で仕事をこなしていた。「振り返ると一番大変だったかもしれないです」と述懐する。
楽曲制作に行き詰まった際は「手放すこと」を選ぶという。ドラマや漫画など別の世界に没頭することで一度忘れる。すると自然と「やりたい」という気持ちや次の展開が浮かんでくることが多いと話す。
歌詞を書く際は、映像をカット割り(複数の映像を意図に合わせてつなぎ合わせること)のように捉える感覚があるという。情景と心理が混ざり合い、歌詞へと落とし込まれていく。自覚的ではないとしながらも、「日頃触れている作品の影響は少なからずあるのかもしれないです」と語る。
タイアップソングに込める視点
数多くのタイアップソングを手がけてきた秦さん。作品との向き合い方については、まず原作や脚本に触れ、「どこで自分の心が動いたか、どこに一番感動したかみたいなところから書き出します」と明かす。
作品と完全に重ねるのではなく、自分を通すことで“少しずれる”部分が生まれる。そのほうが広がりが出ると考えている。
ドラマが全編を通して描くメッセージを、同じ形で楽曲の4分間に収めるのではなく、自身の視点を通すことで同心円のような重なりが生まれる。その結果、「曲のとらえられ方が大きくなる感じがする」と語る。
温かさと切なさの間で
ドラマの主人公、楽曲の主人公、そして自分自身。それぞれが重なり合いながらも独立して存在することで、楽曲の世界はより豊かになるという。「ポケットに魔法を入れて」について、その三者の割合を尋ねると「はっきり分かれている感じではない。グラデーションがある気がします」と表現した。
制作では最初のメロディーが生まれるまでに苦悩もあった。「温かいだけでも足りないし、切ないだけでも足りない。じゃあ、どういう楽曲なんだろうと悩みました」と振り返る。
アレンジは冒頭をエレキギターと歌のみのシンプルな構成にし、引き算を意識。一方で、サビではストリングスやコーラスを重ね、ドラマチックな広がりを持たせた。孤独の中でしゃがみこむ主人公が、やがて前を向き世界を開いていくようなイメージを重ねたという。
サビ後半では1拍ごとにコードが変わる構成にし、高揚感を演出。さらにディミニッシュコード(全ての構成音を短3度(半音3つ分)ずつ積み重ねた、非常に不気味で不安定な響きがする4和音(または3和音)のこと)という不安定な響きを持つコードも取り入れることで、「ただ落ち込んでいる人を描くのではなく、揺らぎの中から立ち上がる強さを描き、どこか軽やかでたくましく見える曲にしたかった」と語り、細部まで思いを込めたことを明かした。
20年という節目を迎えた今も、根本にあるのは変わらない音楽への欲求だという秦さん。ただ、その向き合い方は確実に変化した。時には手放すことも選びながら、それでも音楽と誠実に向き合い続ける。
「楽しめる自分でいたい。それが一番大事かもしれないですね」。その言葉からは、節目を迎えた現在地が確かに伝わってくる。
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