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<体験価値>で観客とつながる!リバイバル上映増加と『超かぐや姫!』の超ヒットから見えた映画館の新たな在り方【調査情報デジタル】

エンタメ
2026-04-04 09:00

 映画館にいま新しい潮流が生まれている。ハリウッドの新作が中心だった頃から様変わりし、多くの観客は映画館でしか得られない楽しみ方を求めて足を運んでいる。こうした新たなトレンドに共通するキーワードは<体験価値>だ。メディアコンサルタントの境治氏による論考。


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コロナ禍を境に起きた大きな変化

筆者は毎週映画館に通う。次に何を見るか選ぶのも楽しみの一つだ。2月後半の連休も、行きつけの川崎チネチッタの上映スケジュールを見ていて驚いた。2月20日公開の『超かぐや姫!』が、朝から晩までほぼ完売だったのだ。公開直後とはいえ、こんなこと滅多にない。 


しかもこの作品、1月からNetflixで配信されている。配信版の続きが劇場版かと思ったが、調べるとまったく同じ映画だった。Netflixでいつでも見られるのにわざわざお金を払って見ているのか?しかも朝から晩まで満員!一体どういうことだ?


映画館でいま大きな変化が起きている。最初に気づいたのは、上映作品数がやたらと多いことだ。


あるシネコンで上映中の映画を数えたら、38作品が並んでいた。名の知れた俳優が出るハリウッド大作が公開翌週には上映回数1回に減り、朝8時台に追いやられる。その代わりに、あらゆる国の多様な映画が並ぶ。コンサートや演劇などを収録したODS(Other Digital Stuff)も様々に上映される。


1月の日本の劇場公開作品数の変化を調べてみた。2024年は98本だったのが2026年は150本に加速度的に増えている。国別に見ると、米国以外の国の映画が30本から41本に、米国映画もインディペンデント系作品が増えて10本から30本に増加した。つまり、全体としてハリウッドメジャーからそれ以外の作品へと多様化している。


これは、ハリウッド作品が日本で当たらなくなっていることに起因するだろう。3月に発表されたアカデミー賞では『ワン・バトル・アフター・アナザー』と『罪人たち』が賞を分け合った。世界で大ヒットしたこの2作だが、日本ではさっぱり。前者は興収6億円、後者は興収記録さえ見当たらない。


コロナ禍を境に、日本の映画興行市場は劇的に変化し、世界とは違う道を歩み始めている。2019年の日本映画市場の内訳は邦画54.4%に対し洋画45.6%。コロナ禍前は、邦画がやや優勢ながら洋画との拮抗状態が続いていた。


コロナ禍で沈滞したのち日本映画市場はめきめき復興し、2025年には興行収入が2744億円と過去最高を記録。だが邦画の割合が75.6%になったの対し、洋画は24.4%と圧倒的な差がついてしまった。


この差をもたらしたのはアニメ映画だ。一昔前のアニメ映画は、「ドラえもん」など春夏休みの定番映画と、数年に一度ジブリ作品のメガヒットが出るパターンだった。それがいま、アニメ映画は百花繚乱。10億円以上のヒット作は20年前は定番作品を中心に7本前後だったが、2025年には14本と倍増。一方洋画の10億円以上作品は、2000年代は平均26本程度だったのに、2025年は12本。ハリウッド映画とアニメ映画のポジションが入れ替わった。


そんな分析をしていた筆者の前に現れたのが『超かぐや姫!』の配信・劇場の同時ヒットという新現象だった。これはどう解釈すればいいのかわからない。


リバイバル上映が人気に~「Filmarks」が仕掛ける<体験価値>~

ただ、1月の劇場公開作品をカウントした際、もう一つ大きく伸びた分野がリバイバル上映だったのを思い出した。2024年は13本だったのが、2026年は26本に倍増していたのだ。


リバイバル上映は昔からある。2010年代には「午前10時の映画祭」の上映が始まった。空いている午前中を埋める、シニア層向けの懐かしい旧作上映企画は今も続いている。


ただ近年のリバイバル急増はまた別の新しい潮流だ。古今東西のあらゆる映画をユーザーが評価する「Filmarks(フィルマークス)」というサービスがある。私も、どの映画を見るかの参考に頻繁に使う。


そのFilmarksが2021年にリバイバル事業を始めていた。倍増の震源地がここにある。その仕掛け人、Filmarksを運営する株式会社つみきの渡辺順也氏に取材した。 


「Filmarksの膨大なユーザーデータから、どの作品がどれだけの人に愛されているかがわかります。特に人気のある作品を上映してみたらチケットは即完売しました。手応えを感じて事業として継続・拡大して今に至ります」


Filmarksで評価の高い作品をリバイバル上映すれば大勢観にくる。当たり前のようで、初めて取り組む事業だけに具現化には苦労もあったようだ。だが渡辺氏の話からとめどなくこぼれてくる映画愛が、苦労を乗り越える原動力となったのだろう。とにかく楽しそうに語る。


「配信されている作品も多いので、どうすればわざわざ映画館に来てくれるかを徹底的に考える必要がありました。その答えが<体験価値>を高めることでした」


『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をマーティがタイムスリップした10月26日に上映したり、『秒速5センチメートル』のタイトルの由来である桜の花びらの落下速度にちなんで、桜前線に合わせて上映時期を北上させたりした。渡辺氏の言う<体験価値>が映画館に人を呼ぶキーワードのようだ。 


入場者特典の充実も<体験価値>に繋がっている。90年代名作洋画シリーズでは、上映作品の小型ポスターを制作。『海がきこえる』では映画の時代設定を意識したテレフォンカード風のムビチケ、『時をかける少女』では、主人公のタイムリープの残り数を示すタトゥーシールをわざわざ作った。


作品が好きだからこそ、こうしたアイテムも欲しくなる、だから映画館に来てくれる。さらに、アイテムを入手した人はSNSに投稿する。それを見た人が映画館に行きたくなる。<体験価値>のスパイラルだ。


「コロナ禍が明け、音楽ではフェスなどのリアルイベントが大盛況になりました。同じように映画も『配信でも観られるけど、大きなスクリーンで観る体験は違うよね』という感覚が生まれたのだと思います。私たちの事業も、1回きりの上映から1週間、2週間と期間を延ばし、上映館も100館を超えるほど広がりました」


Filmarksが開拓した新しいリバイバル市場。参入するプレイヤーも増えて、先述の「倍増」をもたらした。映画館で<体験価値>を味わう人が増えている。


『超かぐや姫!』現象を支えるのも<体験価値>

この文脈で、冒頭の『超かぐや姫!』現象も、同じ潮流として理解できそうだ。コロナ禍によって映画館の役割が変化し、新作を見つけることとは別に、大好きなコンテンツを味わい尽くす場所としても機能し始めているのではないか。


ただ、そうだとしてもNetflixでの配信を前提とした『超かぐや姫!』が、配信開始からたった1か月で劇場公開できたのは不思議だ。当初から綿密に仕組んだに違いない。『超かぐや姫!』の企画・宣伝・配給を担当するツインエンジンの山本幸治氏と、日本のNetflixでアニメ作品を統括するコンテンツ部門ディレクターの山野裕史氏に話を聞いた。


作品は「竹取物語」の古典的世界と、現代ポップカルチャー(メタバース・Vtuber・ボカロ音楽など)が融合した斬新さ、そして無限に広がるような美しいビジュアル世界が魅力だ。この作品なら映画館でも成功するとの前提で、「配信から劇場への流れをあらかじめ仕組んだのですね?」と私は質問した。


ところが「いえ、そうではありません」との山本氏の答えに意表を突かれた。


「配信開始を記念して1回限定で実施したプレミアム上映会の反応が良く、また、配信後の反響もものすごかったので、劇場公開を決めたのです。そこから動いて19館で公開してもらえました」


あらかじめ仕組んだわけではないが、Netflix契約の過去2作(『雨を告げる漂流団地』『好きでも嫌いなあまのじゃく』)で配信と劇場の同時公開にトライしたからこそ、スピーディに劇場展開もできたのだろう。


Netflix側は配信中の作品の劇場公開に反対しなかったのか。山野氏はこう言う。


「こうじゃなきゃいけないというルールはうちにはありません。作品にとって一番ベストな形を柔軟に考えています。今回は、一緒にヒットを作る目標のためにまず配信に集中しましょう、と私からもお願いしました」


そもそも前の2作品ですでに配信と同時の劇場公開をよしとしていたNetflixだから、『超かぐや姫!』の配信後の劇場公開に反対するはずもない。


2月20日から「1週間限定上映」として19館からスタートすると、いきなり興収ランキング5位に登場。「1週間限定」を撤廃し、公開規模も100館以上に拡大している。


配信で見られるのに映画館に押し寄せるほど、登場人物たちに魅入られているのだ。配信では自分の日常空間の中で作品を愛おしみ、劇場では大きな画面と大音響で音楽と映像を堪能する。これは<体験価値>そのものだ。


「ファンの方たちが配信で“ウォッチパーティ(同時に視聴してSNSで盛り上がる)”を開催してくださっています。その流れもあり、3月20日(金)には18:30から『ポスト可能上映』(劇場で映画鑑賞中にスマートフォンでSNS投稿を可能とした上映)を行い、自宅からも劇場公開と同時刻に再生することでウォッチパーティーに参加出来るような新しい機会も生まれています」と楽しげに山野氏が説明する。


上映中にスマホをいじることを、劇場側はよく許したものだ。


「劇場が作品を信じてくださってるから成立する企画です。もちろん、またお客さんが来てくれるとの期待もあると思います。3月21日、22日には発声可能上映(応援上映)も行われています」と山本氏が解説してくれた。


そこには、送り手と劇場、そして観客が一体となって作品を盛り上げる、最も幸福な<体験価値>があるのだと思う。


古い映画ファンの私は、新たな作品と出会う場としか映画館を捉えていなかった。だが自分で気づかなかっただけで、映画館はそもそも大画面と大音響で映像を楽しむ<体験価値>を堪能する場所でもあった。<体験価値>は映画館に、古くて新しい変化を促すキーワードかもしれない。


〈執筆者略歴〉
境 治(さかい・おさむ) メディアコンサルタント/コピーライター
1962年 福岡市生まれ
1987年 東京大学を卒業、広告会社I&Sに入社しコピーライターに
1993年 フリーランスとして活動
その後、映像制作会社などに勤務したのち2013年から再びフリーランス
現在は、テレビとネットの横断業界誌MediaBorder2.0をnoteで運営
また、勉強会「ミライテレビ推進会議」を主催


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


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