
1992年のドラマ『ずっとあなたが好きだった』の冬彦役で社会現象を巻き起こすなど、数々の作品で強烈な存在感を放ってきた俳優・佐野史郎さん。近年は父親役など、家族を軸とした役柄でも深みを見せ、現在はTBS火曜ドラマ『時すでにおスシ!?』にも出演している。
【写真で見る】佐野史郎さんが鮨を握る手つきは・・・? ドラマ『時すでにおスシ!?』場面写真
役と自身の人生が重なり合う瞬間、そして「この人は何者なのか」と問い続ける演技への向き合い方――。長年第一線で活躍し続ける佐野さんが語る、俳優としての原点と現在の思いに迫った。
“冬彦さん”役の先にあったもの――佐野さんが語る転機
佐野さんはこれまで数多くの作品に出演し、時代ごとにさまざまな人物像を演じてきた。その歩みの中で、大きな転機となった作品として挙げるのが、『ずっとあなたが好きだった』だ。
社会現象にもなったこの作品は、佐野さんが演じた“桂田冬彦”という強烈なキャラクター性ばかりが語られがちだが、佐野さん自身はその奥にあったテーマを強く意識しているという。親子関係や家族の在り方、そして社会の流れの中で揺れ動く人間の姿について、「あの頃は、そういうものを模索していた時代でもあったと思うんです」と振り返る。
当時はまだインターネットもあまり普及しておらず、「こんなに長く見られる作品になるとは思わなかった」と率直に語る。それでもなお語り継がれている理由については、「どんな時代でも抱えている問題を問い直していたからではないでしょうか」と分析する。「ちゃんとやれば伝わるんだ、という手応えはありましたね」。その実感は、今の俳優人生にも確かに息づいている。
父として、子として――変化していく家族観も役に投影
近年は父親役など、家族を軸とした役柄を演じる機会も増えている佐野さん。2025年度後期NHK連続テレビ小説『ばけばけ』では、娘のことで翻弄される父親を演じるなど、人生の機微に寄り添う役どころが続く。現在出演するドラマ『時すでにおスシ!?』も、“家族”をテーマの一つとしている作品だ。
そうした中で感じるのは、役と自身の人生が重なり合う瞬間だ。娘が結婚して家を出たばかりという現実の出来事もあり、「子どもが出ていく寂しさと、手が離れてよかったという気持ちが混ざるんですよね」と語る。また、近年母親を亡くした経験から、「息子として母親を思う気持ちも蘇る」と話す。
父として、そして子として――自身が実際に経験したさまざまな立場からの感情も交錯することで、演じる家族像にも自然と奥行きが生まれていく。
「この人は何者なのか」――台本にない解釈も広げる役との向き合い方
俳優としての姿勢にも、その積み重ねは色濃く表れている。台本に書かれたことをなぞるだけでなく、その奥にある意味を探り続ける。それが佐野さんの一貫したスタンスだ。演じる際にも、「この人は何者なんだろう」と問い続け、「そもそも、この世に存在している人なのか?と思うくらいのこともある」と、役の根幹を問う考えが浮かぶことも。
これまでの作品でも、監督やプロデューサーと対話を重ねながら、「台本には書いてあるけど、もっとこういうことなのではないか、と広がっていくことは多い」と、解釈を広げてきた。幼い頃から親しんできた映像作品の影響もあり、「そういう読み方が体に染み付いているのかもしれないです」と思い返す。
本作では、永作博美さん演じる子育てを卒業した主人公・待山みなとが、第二の人生で飛び込んだ “鮨アカデミー”に、生徒の一人として通うダンディで多才な紳士、立石船男を演じる。“ダンディ”というキャラクターに対して、「最初に台本を読んだ時は“詐欺師”かと思いました(笑)」と振り返るほど、今回も役に対する解釈を広げ、「こんな人いるのかな、というくらい怪しい」と当初は感じたという。
しかし読み進めるうちに、「逆にその“分からなさ”が面白い」と感じるように。そうした曖昧さや揺らぎをあえて残すことで、「一体何者なんだろう、というところを楽しんでもらえたら」と話す。
「一体何者か」。その問いから、「“なぜ私たちはここにいるのか”など、そういうところまで広がっていけば」と、さらにその先の広がりについても口にする。
撮影現場で“最年長”に――「普通に仕事ができること」に感謝
俳優として歩み続ける中で、佐野さん自身の意識にもある変化が訪れているという。撮影現場の中で最年少だった時を経て、今では最年長となることが増えた。
長年ともに仕事をしてきたスタッフとの再会も多く、そこでポジションが変わったスタッフから「『初めて俳優さんに声をかけたのが佐野さんでした』と言われたこともあります」と笑う。「そういうことを聞くと、時間の流れを感じますね」としみじみ語る。
5年前には大病も経験した。再び撮影現場に返り咲き、「今こうして普通に仕事ができているとは思わなかった」と、作品に関われていることへの感謝は大きいと話す。
だからこそ、「なぜ自分がこうして、ここにいられるのか」という思いもより強くなり、「じゃあ、自分は何をやらなくてはいけないのか」と自問し続けているという佐野さん。その問いは、役を通して作品にどう応えていくかという責任にもつながっている。
今、“癒やし”の時間は?――ドラマ『時すでにおスシ!?』で巡らす思いも
佐野さんは、本作のテーマにも通じる思いとして、新生活や環境の変化に戸惑う人々についても、思いを巡らす。子育てを卒業したみなとが第二の人生を歩み始める中で、久しぶりに訪れた“自分の時間”に戸惑う様子も描かれる。
効率や正しさが優先されがちな現代社会において、「自分の思い通りにならないことに、いら立ちやすくなっている気がする」と前置きした上で、「自分自身も、そういうスパイラルにハマることがあります」と吐露する。
そこで、「一度立ち止まって、なぜそう思うのかを考えることが大事なんじゃないか」と語る佐野さんが言葉を重ねるのは、「自分は何がしたいのか、ということ」。「なぜ自分はここにいるのか」と、自分を俯瞰(ふかん)して見つめ直すことが、「自己セラピーみたいなものにつながるのかもしれない」と、心を軽くする“ヒント”も明かしてくれた。
「でも、それができたら苦労しないんですけどね(苦笑)」と素の表情も見せつつ、「結局は自分に言い聞かせているんです」と続ける。
そんな佐野さんにとって、今大切にしている時間の一つが読書だ。「本を読む時間は大きいですね。その向こうを考える時間が、癒やしになっているのかもしれない」と、読書しながら考えを巡らす時間を楽しんでいるという。
本を読む人が減ったとも言われる中で、「でも優れた作家は次々と出てきている」と力を込め、ドラマ作品についても「世代が変わっても面白いと思うものはある」と刺激を受けている。
さらに、鮨を題材とした本作と関わることで、改めて食文化への関心を深めている。「なぜこういう形になったのかを考えるのが面白い」と、その“考察”力を生かし、食の背景をたどることで、「先人たちの足跡が見えてくるような気がする」と、思いを膨らませる。
長年にわたり第一線で活躍し続けてきた佐野さん。その根底にあるのは、目の前の役や出来事をきっかけに「なぜ」と問い続ける姿勢だ。“鮨アカデミー”に通うダンディで多才な紳士役――。本作での演技にも、そうした“問い”を積み重ねてきた自身の人生が投影されている。
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